Episode:22 A friend and an enemy 【仲間と敵】
〈アイリスタウン〉――中央広場。
久しぶりにゆっくりとタウンの中を回ると、みんなそれなりに武器集めや資金集めを行なっているようだった。
みんな色んな装備をし、この世界に段々順応してきたらしい。
俺は、中央広場を見渡す。綺麗な花々が花壇を彩り、なんだか安心する。
それにしても、コノ数日色んなことが起きすぎた。そういえばあの日以来、何日経ったのだろう。
段々と、記憶が薄れてゆく。記憶とともに、その時の感情を忘れてゆく。
失ったものは明らかに多い。ギルドの仲間とは――中々ちゃんと話せていなかったんだなと、思う。
仲間といえるかどうかも怪しかった関係だ。
ベンチに座り、ため息を吐く。
しばらく座っていると――気になるPCが居た。
男性型PCのようだが、何かを探しているような感じで辺りを見渡している。何処か、知っているような……?
だけど思い出せず、何か引っかかったようなもやもや感が残った。
彼のことをジロジロ見過ぎたのか、相手は俺に気づき、近寄ってきた。
「あの……どうかしましたか?」
「あ、いえ。ちょっと人を探してまして」
「人?」
「はい。えぇっと。僕は名前しか憶えてないんですけど……。その、男の人らしくて。名前は――」
ドク、と。脈が波打つ感覚を感じて、足元が浮遊する感覚を覚えた。
思わず座ったままの身体が揺らめき、倒れそうになる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、じょ、ぶっ……」
身体が揺らめき、目眩がする。
ベンチに手をついて頭に片方の手を置いた。これは……いつものノイズとは違う。
無理矢理顔を前へ向かせると、誰かが立っていた。
ソレは人影で、めまいがする視界では上手く捉えることは出来ず、誰なのかわからないけど――。
フッと、身体のチカラが抜け、視界が暗転した。
「険悪なムードの中ごめんねー?ソーヤ君のことなんだけど」
アリスは未だ険悪な雰囲気のカグラとアオイの間に割って入った。
マサトや他の人達は皆、各部屋で休んでいる。相当疲労が溜まっていたのか、それぞれあれから一時間程経っているが、誰一人として出てきていない。
そんな中、カグラとアオイだけは疲労など一切見せず言い争いをし続けていた。
「ソーヤがどうした?」
カグラは言い争いを突然やめて、アリスにソーヤのことを聞いた。
(なんて言うか……。マサト君と似てるなー。カグラ君)
マサトというのはソーヤのリアルで親友の青年。彼とは直接的な関係はなかったが、間接的には知っていた。
(ソーヤくんは愛されてるねぇ)
「ソーヤ君さ。最近、目眩とか、体調悪いとか言ってなかった?」
「いや。そんなことは聞いてない。僕自体、ソーヤと再開したのは最近だし……」
そうか、とアリスは考えこむ。
ソーヤがもしも『三年前のあの影響』を受けているなら、そろそろまずいかもしれない。
「ちょっと俺、出かけてくるわ。カグラくん。何か用事があったらクロスや『三銃士』のみんなに聞いて」
そういうとアリスは部屋を出て行った。
「……『三銃士』のみんな?」
カグラは思わず既にいないアリスに向かって呟いた時、肩に手が置かれた。振り向くとクロスが立っており、その後ろにも三人、人が立っていた。
◇
目を覚ますと、知らない場所へ来ていた。感覚は、あの草原に来た時と似たようなモノだった。
だが、今度は真っ青な空ではなく、どす黒い色……。夜空に、異様な赤い月。異様な光景だ。
(……?)
前を見据えると、そこに居たのは後ろ姿の黒髪の長い男。
そして向かい合うように立っているのは、白い髪の男。髪と同じ白いフードを被り、口元には笑みを浮かべ立っていた。
歩くとパシャ、と音が鳴った。地面を見ると、赤い液体がまるで海のように引いたり、昇ったりしていた。
「――」
黒髪の青年が何かを呟き、向かい合ってる誰かの方を向いた。
気がつく――二人の奥。奥には城のようなもの。その城がいったいどういった意味を持つものなのかわからないけど……。なんだろう。この感じ。
心臓が、どくどくと鼓動を鳴らしている。
頬が濡れる感覚に、思わず頬に手を触れると涙が零れ落ちた。触れた手袋が濡れる。
(何で俺泣いて……)
「 」
城髪の男が何かを呟いたのを聞き、俺は顔を上げる。
白いフードのせいで、顔が、表情が伺えない。そして目の前で、あの呟き以来黙り込んだ黒髪の男は、突然空を見上げた。
ソーヤも同じように空を見上げる。そこには、巨大な陣があった。白く巨大な陣は空を覆い、赤い月を侵食していく。
(あれは、なんだ?)
――すると、また目眩が起きる。
目に見えているものは歪み、意識は再び暗闇へと堕ちていった。
目を覚ますと、目の前に見知らぬ青年の顔が突然現れた。
「あ、目、覚ましましたか?」
辺りを見渡すとどうやら中央広場のベンチに寝かされていたらしい。
頭の方にはペットボトルが置かれており、どうやらそれを氷枕の代わりにしてくれていたらしい。
俺は気まずそうに青年の表情を覗う。
「あの。いきなり倒れられて……大丈夫ですか?」
「あー、うん。大丈夫」
最近、目眩や頭痛が多くなった気がする。ソレも殆ど、イプシロンの所へ行くか夢の様なモノを見るかという場合に限ってだ。
それに、なんだか目が痛むような気がする。
「あ、あの。僕。コレで失礼しますね」
「あぁ、うん。そうだ。君の名前は?」
「僕は――阿笠優木と言います」
そういうと、彼はどこかへ向かっていってしまった。
阿笠優木。阿笠優木。
(どこかで聞いたことがあるような……)
何度も反復しながら彼のなを口の中で呟く。が、やはり思い出せない。
アイリスタウン中央広場。辺りを見渡した。
もう既に薄暗く、人通りは少なくなってきていた。
そろそろ自分も早くアリスさんの所へ帰らないと、と思い、身体を起き上がらせる。
「〈月光の砲撃〉」
「!」
―ズガァァァンッ
直ぐ横を身体に掠める形で砲撃が通った。間一髪、空気の振動で察知し、掠めただけで済んだが……。
倒れそうになる体を何とか持ちこたえ、前を向く。
(スキル……?何でだ?此処はタウンで安全地域のはず……)
前を向いた瞬間、目の前に槍が飛んできた。何が起こっているのか、瞬時に理解できない。だが、目の前に飛び込んできた映像は、現実であると理解しなければならない。
「ソーヤ」
聞いたことのある声に、思わず、顔を歪めた。
「ラルク……?」
ギルドに居た頃と違う装備のラルク。全体的に装備は黒く。眼光が鋭く感じられる。
ラルクが放つピリピリとした張り詰めたような空気に思わず後ずさりした。
「槍を取れ。ソーヤ」
目の前に突き刺さった槍。その槍にはなんだか見覚えがあった。けれどやはり思い出せない。
(なんでこんなにっ……思い出せないことが多いんだよ……っ)
それに、ラルク。なんでそんな格好をして、こんなマネをするのか。いや、そもそも何で俺をそんな風に見る?巡る思考と、鳴り止まない鼓動。
「ソーヤ。僕はこの世界で生きて行きたい」
ラルクは決意したような目で、こちらを睨みつけた。
「考えなおしてくれ。ソーヤ。――僕と共にこの世界、アウローラ・カオス・オンラインで生きていくと思ってくれるなら、その槍を手に取り僕の方へ来てくれ」
槍を見る。紋章のようなモノが刻まれていた。
この槍は一体何処で手に入れ、そして何故自分がこんなにも懐かしく感じ、ラルクが持っているのか。疑問は持ったが、今はそんなこと考えられなかった。
「現実なんて捨てちゃえばいい。現実は卑怯な奴らばかりだ。みんな、騙して騙して騙して――嘘ばかりつき続けなければ生きていけない。人を傷つけ、自分が強いものだと錯覚しなければ仲間は作れない世界。そんなウソっぽい世界よりも、魔法が使え、どんなことでも出来るこの世界のほうがよっぽど魅力的だろう?」
俺は、ラルクの言っていることがわからない。理解できないし、したくなかった。
俺は元の世界に。現実に戻りたい。戻って、兄貴や普通の生活を送りたい。
けれど、俺はこの世界でやらなくちゃいけないことがあるのも、また確かだった。この世界――アウローラ・カオス・オンラインには、『三年間の俺』がいったい何をしていたのか。そしてその空白の三年間の記憶の手がかりがあるはずなんだ。――それに、デルタのことも。
「俺は帰りたい」
俺は呟くように言った。
その言葉にラルクの表情は、歪んでいた。
「けれどまだ、やり残していることがある。きっとこの世界の何処かにあるはずなんだ。ソレが全部終わったら、俺はこの現実へ帰る。絶対に、だ」
俺は今、どんな表情をしているのだろうか。
言葉を吐いた瞬間心臓が締め付けられるように苦しかった。
「だから、お前とは行けない」
「……そう。なら仕方ないな。今から僕達と君たちは敵だ」
敵と断言した瞬間。目の前で閃光が走った。
ラルクの背後に居た何人かのPCがスキルを放った為だった。
思わず目を閉じた――。
「〈白炎の陣〉!」
「!」
目を開けると、白い炎がラルク達にめがけて放たれていた。
その白い炎を放ったのは。
「アリスさん!」
装備した革手袋が、詠唱していることを示すように青い光を灯していた。
アリスを見るラルク。ラルクは歯ぎしりをしていた。
「やぁ、初めまして。君が噂に聞いていたラルク君だね。最近新しいギルドをたちあげて何か、怪しいことしてるみたいだけど」
「お前誰?」
「お前とはひっどいなー。まぁ、表上はサブキャラで登録してあったしね。知られてないのも当たり前か。僕はアリス。PKギルド、〈赤の剣闘団〉ギルドマスターだ。最近は俺の仲間がどうもお世話になっているようで」
ひらひらと右手を振り、軽くそう言うがアリスの目には明らかな殺意があった。
最近はギルド員がお世話になっているようで……という言葉が気になった。だが、質問出来るような空気ではなく。
ラルクは一瞬驚いた表情になったが、直ぐに笑みを浮かべた。その笑みは酷く歪んだものだった。
「目には目を、歯には歯を……当たり前でしょ?そっちが先に仕掛けてきたんだから」
「……随分舐められたものだね。俺も。一応PKギルドのギルドマスターだっていうのに」
ピリピリした空気はビリビリとし始め、肌に突き刺さる程痛く感じた。
今にも戦争でも始まりそうな空気に一歩ずつ後ろへ下がった。
「別に今戦争おっ始めてもいいんだけどさ。今日のところは見逃してあげるよ。ほら。ソーヤ君。帰ろう。そろそろみんな部屋から出てき始めてる頃だから」
「えっ。あ、あの」
腕を殆ど無理矢理に引っ張られ、引きずられる形でその場から離れる。
離れる時、ラルクと目が合った。俺はまた、心臓が痛んだ。
◇
「ラルク。本当にやるの?」
かつて仲間で、ギルド〈愚者達の宴会〉のギルドマスターだったソーヤというPC。
彼は私達とは考えが違い、この世界から出て、現実に戻りたいと願う人だった。
それは、マサトというPCも同じだった。
「僕たちはこの世界で生きていくって、決めただろ。彼等は邪魔になるんだよ」
邪魔になるから、消す――。
「……君もこの世界で生きて行きたいと望んでいるんだろう?ならちゃんと僕の手伝いをしろ」
私は頷いた。
なんだかんだ久々の更新になります。




