Episode:21 Player killer guild 【PKギルド】
〈アウローラ・カオス・オンライン〉
《β》専用オンラインゲームとして制作され、後にPCにも対応された。
だが、このオンラインゲームの製作者は発表後死亡し、それ以来バグが多数検出されるようになり、一部のユーザーでは「製作者の呪い」と騒がれるようになった。
◆
「ただいま……」
「ソーヤ!?」
ギルド基地に帰ると、泣きそうな表情で走って俺の顔を確認するマサト。
アリサさんも心配そうに俺の元へ来た。アルファは――何も映さない無表情。
「今まで何処に行ってたんだ?」
「……ちょっと、色々と」
俺はそう言って、マサトの横を通り自室へ向かった。
今は何も考えたくない。カイが言ったことが頭のなかで何回も繰り返す。
俺がこの世界の敵で、カイは俺を敵と呼んだ。それが何故なのか……知る必要はあるだろう。けど、今は眠りたい。
身体が疲労を明らかに表し、鉛のように足は重たい。
「大丈夫か?ソーヤ」
「あぁ……。少し、寝る」
自室に入り、迷うこと無くベッドの上に寝転んだ。目をゆっくりと閉じて意識を沈めた。
しばらくして自分の意識があることに気づき、目をゆっくりと開けていった。
いつもと同じ様にイプシロンが居る、あの暗闇の世界かと思ったがイプシロンは見当たらない。
それに、暗闇ではなく。空を見あげれば青空が広がり、太陽が覗いていた。
(これは夢か?)
辺りを見渡す。辺り一面に花畑が広がり、よく見ると向こう側に巨大な大樹がそびえていた。
気になってその大樹の側へ向かうと、誰かがいることに気づいた。大樹の幹に腰掛け、座る青年の顔は俯いていて見えない。
「誰だ……?」
声をかけると、青年はゆっくりと顔を――。
――ザァァアァアア……ッ
強い風が吹き抜け、思わず風を防ごうと腕を顔の前に出した。
風が止み、腕を戻すとそこには青年は居なかった。
「え……?」
あたりを見渡すが、やはり花畑だけで青年の姿は何処にも見当たらない。
巨大な大樹を見上げる。
此処はフィールドなのだろうか。地面に咲く紫色の花に触れて、スキルを発動してみる。
花は凍りつき氷の中に閉じ込められた。
夢のなか……とは言い難い。……すると突然、目の前が真っ暗になった。
暗転する視界と意識。目を開き、身体を起こした。
ベッドの上。ということは、やはり自分は眠っていたということだ。
けれどあの夢は夢というよりかは鮮明すぎて、現実のように思える。
ふと、時計を見ると、既に一時間は経っており、身体の疲労は殆ど消えていた。
「ソーヤ」
扉を見ると、そこに居たのはアルファだった。
アルファは手に何か袋のような物を持っていた。
「ソーヤ。これ」
「何だ?」
手渡されたのはどうやらお菓子らしく、ビリ、と袋を破ると甘い匂いがした。
中を見ると真っ黒く、チョコレートらしい。
「くれるのか?」
こくんと頷くアルファ。
俺は袋の中のチョコレートをひとつかみすると、口に含む。……甘い。
口の中で溶け、広がるチョコレートの味と久し振りの糖分に顔を緩ませた。
俺はチョコレートをアルファの手の上に少し置いた。
「ソーヤ、これ」
「お礼。アルファも食べたいだろ?甘いの」
アルファはチョコレートを口に含む。
嬉しそうに顔を綻ばせ、笑みを浮かべる。
「ソーヤ。これ美味しい!」
「おぉ、うまいか。よかったな」
俺は一口で良かったため、残りをアルファに手渡すとアルファは口に多く頬張った。
……口の周りがチョコレートだらけになっている。
ティッシュを数枚取って、アルファの口の周りを拭いてやる。
「ソーヤ。もう起きれる?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
そういってベッドから起き上がると、カラン、と床に何かが落ちる音がした。
音がした方向を見ると、床に落ちたものはナイフだった。ナイフを拾い、銀色の刃を見ると刃の部分には何かが刻み込まれていた。
「なんだこれ?」
「……」
見たこともない文字は青みを帯びており、光り輝いている。
するとアルファがじっとナイフを見つめているのに気づいた。
「どうした?コレが気になるのか?」
「……ソーヤ。それ、誰から貰った?」
「さぁ。気づいたら持ってたらしいんだけど。こんなアイテム、入手した覚えはないんだけどな」
電灯に透かし、キラキラと煌めかせる。
「……あれ?」
(なんだ?)
何故かこのナイフが懐かしいと感じた。なんなんだろう。
俺はナイフをポケットへ仕舞い、部屋を出ようとドアノブを捻る。
アルファは黙りこみ、俺の後をついてきた。
「とりあえず、マサト達と話そう」
アルファは頷き、下の階への階段を降りて――。
――ガチャンッ
冷たいものが、後頭部へ当てられる。
「動くな――神 想夜」
現実の名前を呼ばれ、一瞬何が起きたか理解できず固まった思考が再び動き出した。
動き出して、唖然、そして戦慄する。
下のギルドフロア。ギルドメンバーの椅子が並べてあるフロアーは、壊滅状態だった。
視線だけを辺りに漂わせて、マサトとアリサさんが居ないことに気づく。
そして突然後頭部へ銃口を当てた人物が、階段の影に潜んでいたことを理解した。
「……お前、誰だよ。マサト達は何処へ行った?」
「彼等は我々が保護した。……神 想夜。貴様も着いて来い」
保護?俺は疑う。
「二人に、何もしてないんだな?」
「あぁ。何もしていない。無事だ」
だが、その言葉に信憑性は無い。警戒しつつ、俺はゆっくりと振り向いた。
俺に当てられる銃口はこめかみから額へと移り、嫌な冷や汗を額から流す。
この人は敵なのか、味方なのか。
「そういえば、さっきの質問まだ答えてないぞ。お前何者だ?」
何も変化がない声で、俺の質問に男は答えた。
「僕は〈赤の剣闘団〉、三銃士の一人――クロスだ」
「〈赤の剣闘団〉……三銃士……?」
〈赤の剣闘団〉。ラルクが〈愚者達の宴会〉に入る以前のギルドであり、PK専門のギルド。
何で彼等がマサトとアリサさんを……?それに〈三銃士〉ってなんだ?
俺がもう一度、質問しようとした時、第三者の足音でそれは遮られた。
「えーっと。色々と質問したいことはあるだろうけどさ。とりあえず俺達と一緒に来てくれない?そっちのほうが手っ取り早いし」
突然現れた第三者は、黒髪にエメラルドグリーンの瞳の男型PCだった。
男の両手には白い手袋がはめられていて、青いローブを着ていた。首からはアクセサリー、紅い石がはめ込まれたネックレスが提げられている。
「正直、ソーヤ君とはまだ会うには早いと思ってたんだけどね……。状況が状況だから、予定を早めたんだ」
男はそういうと、俺に向かって笑みを向けた。
怯えるようにアルファは俺の後ろに隠れる。
何なんだろう。この人……何か不思議な感じがする。すると、俺の視線が男に釘付けになっているのに気づいたのか、男はへら、と笑う。
「ソーヤ君。とりあえず俺達と一緒に来てくれる?大丈夫。何もしないから」
「……わかった」
俺はいつのまにか、頷いていた。
「アルファ。俺の手を握ってな」
こく、とアルファは頷き俺の右手を握った。
銃を突きつけてきた男は銃器を降ろしたが、まだ鋭い眼光で俺を背後から睨み、殺気を放っている。
(困ったなぁ)
歩き続ける俺に、不思議な雰囲気の男はふふふ、と笑みを浮かべた。
「そういえば俺、自己紹介してなかったね。俺はアリス。――〈赤の剣闘団〉ギルド、ギルドマスターだ」
「……は?」
〈赤の剣闘団〉ギルド、ギルドマスター……?
後ろを振り向くと、殺気を放っていた男はため息を吐いていた。
「じゃあ、アンタ、PK?」
「あー……いや、俺はPKじゃない」
アリスという男は振り向き、笑みを浮かべた。
「いつの間にかPKばっかしギルドに入ってきててさ。あはは。びっくりしたよ」
いつのまにかPKが集まるギルドって……どんな活動してたんだよ。
俺は男を見る。――どことなく、兄貴に似ているような。
男は「うん?」と首を傾げ、俺を見る。
「どうした?」
「いや。なんでもない」
俺はそう言ってそっぽを向いた。
ざ、と男の足が止まる。
「ついたぞ」
見上げると、そこには巨大な城のような建造物が建っていた。
巨大なギルドになるとここまで巨大なギルド基地を建てられるようになるのか……。
俺が驚きを隠さずに呆然としていると、後ろから肩に手を置かれた。振り向くとあの拳銃の男が不機嫌そうに立っていた。
「なんだよ」
「いや……お前、本当に『あの』ソーヤか?」
『あの』?この男が言っている、『あの』ソーヤというのはどういう意味なのだろうか。
もしかして、この人達も記憶を失う以前の俺のことを知っている人たちなのだろうか。
「……俺、三年間の記憶が無いんです。事故のせいで……」
「事故?」
「はい」
ぽかん、と拳銃の男は俺を見る。
すると俺の手をアリスが握り、引っ張った。
「さぁ、中に入ろう。キミの仲間が待ってる」
引っ張られるまま連れて行かれた。城の中は古城のようで、何処か不気味な雰囲気を感じた。
道中、何人かのPCと会ったが、俺を見て怪訝そうな表情をした。
中には驚きに顔を歪めるPCもいた。
「――ソーヤ!」
マサトの声に、俺は振り向く。
マサトは廊下で俺の姿を見て、表情を輝かせて駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?あの男に何もされなかったか!?」
「え?うん。大丈夫だ」
何故か異様に心配するマサトに、俺は不思議そうにした。
マサトはキッと、アリスを睨みつける。
「本当に、ソーヤに何もしてないんだろうな」
「なにもしないよー。俺がソーヤくんに一体何をするっていうんだ?」
「……PKたちを率いるギルドのリーダーが何言ってるんだ」
それもそうだ。
アルファは変わらず俺の後ろに隠れ、じっと見ている。
「ソーヤ。俺達は君を助けに来たんだ」
「助け?」
「カイ……と言ったか。あの青年から君を護るために」
カイ……。三年前、その三年間。俺が失った空白の時間の友人。
何が目的で、何故俺を敵だと呼んだのか。全てわからない。
そしてこのアウローラ・カオス・オンラインについても――殆ど何も判っていない。
「とりあえず、君たちのことは俺達が安全を保証しよう。あのカイという青年と、そして〈スイレン〉というギルドの目的は未だ不明だが……ソーヤ君。君が深く関係しているようだ」
「俺が……」
少し考えこんでいると、在ることが気にかかった。
そういえばアリサさんは?
「アリサさんは?」
「いや、何か……」
「修羅場って感じ?」
修羅場?
「――だから、ちゃんと理由を話してって言ってんのよ!」
突然の怒声に俺は驚き、怒声が飛んできた場所を見た。
そこに居たのはアリサさんと――そしてカグラだった。
アリサさんは本当に苛立った表情で、カグラは煩そうに立っていた。
「ソーヤ。大丈夫だったか」
カグラは若干面倒くさそうに俺の方を向いた。
「ソーヤ。あいつ、お前の知り合いか?それに、アリサさんも」
「え?あぁーっと……。色々あってな。本当、色々……それで知り合った人っていうか……でも、アリサさんはカグラとどんな関係で……」
アリサさんは思いっきり顔を歪め、答えた。
「兄です」
兄――?
カグラをもう一度見ると、カグラはどうでもいい、といったような表情をしていた。
「数年前、突然私の前から――現実の私の前から居なくなった兄です」
「え……」
「へぇ、それはそれは……」
興味深そうにアリスさんは相槌を打ったが、それ以上追求しようとはしなかった。
アリサさんはカグラと何か話し合いながら違う部屋へ向かっていった。
「……あの、俺、タウンに行きたいんですけど」
「あぁ、うん。いいよ。大丈夫」
俺はそう言われ、古城から外へ出て、ため息を吐いた。
本当に、俺は殆ど何も知らない。この世界についても。何も。
知らなければいけない。知らなければ、前に進まない。
例え、現実がこの世界よりも辛いものだとしても。俺は戻らなきゃいけない――。必ず。




