表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覚醒世界のカタルシス  作者: 朝露 壱
第2章 ―Loss―【亡失】
20/26

Episode:19 About a friend 【仲間とは】

君にとって敵とは誰で、仲間は誰で、友達とは誰のことを指す。





「大丈夫だよ。少しの間固まってもらってるだけだから」


カイはそう言って、俺に向かって背中に背負っていた大砲を向ける。

何が起こっているのかわからない。頭が真っ白になって、カイの言葉が頭で理解できない。

固まったままのカグラたちを見る。カグラたちは本当に、動かない。これは――何なんだ?こんなスキルは存在しない。確かに石化魔法というのはあるが……こんな。――まるで、PCプレイヤーキャラクター自体が固まっているような――。


「ソーヤ。君を此処で削除させてもらう」

「削除……?」

「死ぬってこと」


弾が装填される音。同時に引き金に指が当てられる。

削除……このキャラが消されるってこと。イコール自分の死ってこと。HPが無くなって倒れて、町へ復活するわけでもなく。

正真正銘の、この世界での『死』。

少しずつ理解していって、俺は目の前に突き出された大砲を見た。


「ソーヤ。君はこの世界――アウローラ・カオス・オンラインに来ちゃいけなかったんだ。なのになんでまた(・・)来ちゃうかな」

「何言って……」

「ソーヤ。僕の名前はカイ。ギルド〈スイレン〉のギルド長。ずっと君を『三年前』のあの日から追ってきた。記憶障害で記憶を失くしてたのは想定外だったが、君がまたこの世界に来たからには放っては置けない。君はこの世界にとって、この僕にとって敵だ。処置させてもらう」

「敵……って」


カイが何を言っているのか理解できない。削除がイコールこの世界での、正真正銘の永遠の『死』となることは理解できたような、気がした。

けれど、その先。自分がカイにとっての敵で、俺はカイに追われ続けていた?

(どういうことだ?カイは三年前から俺たちと知り合いだったんじゃ……)


「ギルド〈スイレン〉はコノ世界アウローラ・カオス・オンラインを護るために結成されたギルドだ。ソーヤ……君は三年前の災厄を再び引き起こしかねないと判断された。この世界を護る者として、君は削除させてもらう」


ガチ、と。引き金が引かれた。






「……ただいま」


ギルド基地に帰ってきたマサトは疲れた表情で大広間の椅子に座った。

カイのことについてソーヤと話したかったが、どうやらソーヤはまだ帰っていないらしい。

しばらく椅子に座ってボォっとしていると、上からアルファとアリサが降りてきた。


「マサトさん。他の方々は……」

「さぁな」


素っ気なく答えるマサトに困ったような表情をしながらアルファを見るアリサ。

アルファは変わらない、何を考えている分からない表情でマサトを見ていた。

(そういえば、アルファってソーヤと同じで記憶を失ってるんだよな……)

記憶を失っているというのはどういった感じなのだろうか。俺にはわからない。……わからないほうが、いいのだろう。


「ソーヤ、まだ帰ってこない?」


アルファは寂しそうに、(気のせいかもしれないが)顔を俯かせた。


「――確かに、遅いな。この間のこともあるし、見に行くか」

「あ、私も行きます」


マサトはアリサを訝しげに見ていたが、探す人数が多いほうが探しやすい。

あまり他人と一緒にソーヤと係るのは嫌なんだが……。いや、『厭』、か。

装備を整え、アイテムをポケットに入れた。何が起こるのかわからないが――何となく嫌な予感がしたからだ。

フッと、アルファが天を仰いだ。

その瞳に映るのは空に輝くデータの偽物の空と、プログラムで構成された陣。

そして――。






――〈三年前の災厄〉〈ギルド・スイレン〉〈カイ〉〈削除=死〉〈究極のプログラム:真理(ルール)〉〈アウローラ・カオス・オンライン〉〈Aurora・CHAOS・Online〉

全部……全部俺の忘れていること?


「ソーヤ様」


ボォっとする、思考回路で顔を上げた。

分厚い本を抱えて、真面目な顔つきをしたイプシロンが立っていた。

辺りをゆっくりと見渡す。あぁ、またこの場所だ。

暗がりの中――赤い血液のような雫がポタポタと空から落ちていく。

――なんだか安心する。


「俺は――死んだのか?」

「いえ。貴方はまだ生きています。あの方が引き金を引いた直後に、貴方が消されてしまう前にお呼びいたしました」


俺はなんだか全てがどうでもいいような気分になった。脱力した感覚。――なんだか裏切られたような気分だ。

友達だと俺に言ったカイ。本当に友達だったのだろうか。本当に、三年前の俺は友達だったのか。

ため息を吐いて、頭を玉座に保たれかけた。


「で、俺に何の用?」

「はい。今回の要件というのは……――三年前の出来事について、です」


三年前の出来事――カイが〈災厄〉と呼んだ出来事、か?


「三年前――貴方は、確かにこの世界に居られました。今のあなたとは目的は違っては居ましたけど」

「目的が違う?」


そうだ。三年前――俺は何を目的にしてこの世界に。このゲームをプレイしていたんだ?

わからない。三年前の自分が。


「三年前の出来事について、私からは何もお教えすることができません。ですが……ほんのすこしだけですが、力をお貸しすることは可能です。あの方から……貴方を護るために」


カイは、俺のことを敵だと呼んだ。この世界にとって、俺は敵なのだと。


「イプシロン。俺はこの世界の敵なのか?」

「えぇ。それは間違いはないです」


はっきりと、イプシロンは言った。


「どういうことなんだ?俺がこの世界の敵って……」

「それは、やはり私からはお答えすることはできません。それもやはり貴方の記憶に関与してくることなんで……すいません」

「……いや、いいよ。多分、思い出していくだろうから。きっと……この世界のどこかで。そんな気がするんだ」


俺がそう言うと、イプシロンは微笑する。


「そろそろ……戻らなくてはなりませんね」

「俺は……死ぬのか?」


イプシロンは――今度は微小ではなく、面白おかしそうに笑った。


「さぁ……それはどうでしょう?」







ゴポッと、何かが口の中に溢れた。

思わず咽て咳き込む。吐き出したのは水だった。


「起きたか」


何故か濡れている自分に気づき、俺は混乱する頭で声が聞こえた方を向いた。

廃墟のような古城。場所は変わっていないが、カイは居ない。何処に行ったのだろうと警戒しながら辺りを見回したが居なかった。

その代わりに、目の前には青いフードを被った男が立っていた。


「誰……?」


ぼやける視界で顔を見る。

だが、丁度影になってよく見えない……。


「ソーヤ。君は早くここから逃げて。みんなが待ってる」


(みんな……マサト……)

ゴホッと、咳き込みながら立ち上がる。ふらふらした足取りで前を向いて歩いた。

振り向くと、少年のような姿の彼は何故か微笑んで俺を見守っていた。

何ものなのか、ということは何故か聞く気になれなかった。今はとりあえず、皆の元へ帰りたい。みんな、みんなといっても、もう、今はマサトとアルファと――アリサさんしか、居ないも同然なんだけど。

多分みんなは、帰ってこない気がする。

みんな、現実よりもこの非現実世界を選んだ。アウローラ・カオス・オンラインを。

なんだか涙が出てきて、思わず嗚咽を漏らした。心臓が、締め付けられる感覚。

恐い。一人になるのが恐い――。

ノイズのような物が、目の前に走り何かが映る。

それは、なんだか懐かしい光景だった。





「……はい、そうですか。わかりました」


ブッと、《β(ベータ)》の電話機能を切った。

僕はため息を吐く。アウローラ・カオス・オンライン……そしてソーヤという名前。

なんだか――知っている名前のような気がした。懐かしくて、胸が締め付けられるような思いになる名前。

――僕は自分の《β(ベータ)》のアウローラ・カオス・オンラインを起動する。

表示されるPCプレイヤーキャラクター選択画面。だが、その選択画面にはPCプレイヤーキャラクターは作成されていない。削除した覚えはないのになぜ。

そうだ。新しくキャラクターは作成できるだろうか。そう思って操作したが、不可能だった。【ERROR】という表示が現れただけだ。

とりあえず、何とかしてアウローラ・カオス・オンラインにログイン出来ないだろうか。

僕が考え込んでいると、病室に誰か入ってきた。


「――初めまして。阿笠君」

「え、誰……?」


入ってきたのは優人さんではなく、刑事さんでもなく。

僕と同い年くらいの少女だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ