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覚醒世界のカタルシス  作者: 朝露 壱
第1章 ―Awakening―【覚醒】
2/26

Episode:01 The non-real world 【非現実世界】

「・・・っつ・・・」


頭を抑えながら俺はゆっくりと立ち上がった。


(何だ・・・今の・・・)


β(ベータ)』の液晶画面に吸い込まれるようなあの感覚。

そして、あの不快感に、まるで深い絶望の様な――暗い闇の様な場所。

それに、あの液晶画面に最後に映った黒い人影――。

アレは一体なんだったのだろうか。

吐き気と頭痛の所為だと思うが、どうも意識が虚ろとなって頭が回転しない。

とりあえず起き上がろうとした瞬間、身体が何だか変なことに気が付いた。

身体をぺたぺたと触って、見回す。


(・・・何だこの服・・・?)


自分の衣類を見てしばらくボォッとしていたがある事実に気が付く。

とんでもない事実に気付いてしまって、俺は思考が止まり、身体が固まる。


「・・・コレ・・・俺が作成したあの・・・」


そこまで考えて、頭が真っ白になる。

記憶を無くしたと伝えられた時以上に頭が真っ白になっているのかもしれない。

――いや、あの時は意外と平気だったか・・・。

多分、といより絶対記憶喪失よりもヤバイ状態にあるという事は確かだった。


「・・・」


周辺を見渡すと、俺は石造りの神殿の様な場所にいた。

俺の部屋なんかじゃなく。

顔を上げて、同じく石造りの土台の様な場所を見てみるとそこには蒼い結晶体が宙にフワフワと浮いている。

そしてその近くにあった石像に刻まれていたのはこの神殿の名前。


「・・・【暁の神殿】」


立ち上がって、石像を見てそう呟いた。

――【暁の神殿】は、俺が今日プレイしようと思っていたオンラインゲーム、《アウローラ・カオス・オンライン》の最初に訪れる、いわゆるチュートリアルで自動的に飛ばされる場所だった。

プレイヤーなら誰しもが訪れるこの場所で、この神殿はストーリー上の設定にも結構大切な所だ。

俺は自分の頬を思いっきり捻った。


「・・・痛い、」


感覚はまるで現実(リアル)と同じ。

いや、まるで、というよりも――。


「・・・現実、だ」


言葉に出してみて、ようやく理解することが出来た。

コレが現実と言うなら今俺が着ている服といい、この神殿といい、つじつまが合う。

けれど何故、俺はこの場所に――ゲームの中に居るのだろう。

身体中の振るえが止まらない。


(どうしよう)


とりあえず、この神殿を出よう。

この場所に何時までもとどまっている訳には行かない。

立ち上がって、瓦礫を踏みながら神殿の外らしき場所に向かう。


「・・・おぉ」


外に出ると歓喜の声が上がった。

外の風景は本当に幻想的で、画面で見ているよりも綺麗で、美しくて――。

――そこは森の様な場所だった。

太陽もあるし、何よりも川も、樹も草もある。

触ってみると本物で。

風が頬に当たる感覚も、匂いも全部現実で、俺にとってはコノ世界が現実で。

それに、この黒いパーカーの形状のコートに、黒い皮手袋の装備。


(・・・説明できないくらいに、凄い)




【俺は今、ゲームの世界に居るんだ。】




「おーい!想夜!」


遠くで声が聞こえて、俺はその声の聞こえた方向を見た。

そこに居たのは巨大な大剣を背負ってニコニコと笑いながら走ってくる見知らぬ男――。

するとパッと、男の頭に何かが表示された。


「《マサト》・・・?」

「へぇー。お前PCプレイヤーキャラクター名、ソーヤか。結構いいじゃん」


そういってニカッと笑う目の前のマサトに、俺は顔を歪めた。


「・・・マサトは、普通にゲームしてるのか?」

「ん?だから此処にいるんだろうが」

「・・・じゃあ、質問を変える。《β(ベータ)》を操作してる感覚はあるか?」

「・・・当たり前だろ」


今度はマサトが顔をしかめてそう言った。

俺は頭を抱える。

(・・・つまり、俺だけがこのゲームの世界に現実として取り込まれてるのか・・・?)


「にしても焦ったぜ、お前アドくらい登録しとけよ。場所わかんなくて参ったぜ」

「・・・」

「?」


俺はとりあえずマサトの頬を引っ張ってみた。

結構伸びるな、とか思いながら引っ張っても頬は赤くならない。

全然平気そうな顔をしている。


「・・・おい、ソーヤ。何だそのモーション?どうやったんだ?」

「・・・現実だ」

「は?」


俺はマサトに今までの事を必死に整理しながら伝えた。

マサトは途中までは冗談だと思っていたみたいだが、そのうち段々と真剣な顔になっていった。

全て説明し終わった後、俺達は黙り込む。

きっとマサト――正人は画面の向こうで俺のPC・・・基、身体を見て考え込んでいるのだろう。

・・・三年間同じなら、俺の記憶のままならマサトは基本テストの点は良くないが、それなりに賢い奴で結構頼りになる。


「・・・どうしよう」

「・・・とりあえず、お前、腹は減らないのか?コレが現実なら腹は減る・・・」


グゥぅー・・・と俺の腹がなった。


「・・・本当みてぇだな」

「・・・腹の音で信じられても」







「ちょっと待ってろ」


そういうとマサトは大剣を手にどこかに向かっていった。

しばらくするとマサトが肉を持って帰ってきて、俺の前にドン、と配置する。

ソレは結構巨大な肉で、そこらへんのモンスターを狩って来て生成された物だとわかる。


「食え」

「いやいやいや・・・食えって突然言われても・・・えぇぇ・・・」


その肉は【骨付き肉】と表示された。

マサトは何個か地面に配置して俺に見せる。


(・・・かぶりつけってか)


けれども身体は正直で、腹がなり続ける。

だめだ、嗅覚さえもリアルなのに、こんな空腹でガマンできる筈がない――というより、朝食さえもままならなかったんだった。

次第に俺の視界は肉だけが存在するようになって行った。

――朝食を食べていないという事実が更に空腹を刺激して、目の前の肉が魅力的に見えて来る。


「ほら、腹減ってんなら食えよ。俺、一応レベル50だから。それくらいなら狩ってこれるぜ」

「い、いただきますっ」


腹が減っては戦は出来ぬだ。

俺は【骨付き肉】を貪るように食った。

やはり味覚もあるようで、肉の味が口全体に広がりとても美味しかった。


「美味いか?」

「うめぇ!スゲェ!」


全部食した俺は手を合わせてごちそうさまでした、と呟いた。

先ほどまで調子の悪かった身体は元の健康体へ戻っていくことが判った。

ジィッとマサトが俺の身体と顔を見続けているのに気付き、俺は顔をしかめる。


「・・・あんまり見んなよ」

「・・・とりあえずレベル上げだな」

「は?」

「お前、職業なんでよりにもよって《魔術師(ソウルマジシャン)》なんだよ。それ、劣化職業じゃねぇか。あんましいねぇぞ、その職業扱う奴」

「・・・俺は少数派なんだよ」


むすっとして答えた俺はポケットに何か入っているのに気が付いた。

ソレは何個か入っていて、ソレを取り出すと小瓶で、その小瓶の中には蒼い液体と、赤い液体の二種類がある。


「【傷薬】?」


小瓶の頭に表示された文字を読んだ後、それが何本か入っていて全部で10本入っていた。

後は・・・MP(マジックポイント)を回復する・・・マナポーションというものが入っていた。

振ってみるとチャポン、と音が鳴ってキラキラと小瓶の中で液体は揺れる。


「・・・スゲェ入るな」

「まぁ、ゲームだしな。本来は画面開いて選択するんだけど」

(そうか、俺、画面開けないからポケットっていう)


俺は全部出した後、またポケットに仕舞った。

ポケットは本当に結構入るようで、小瓶を入れた後もまだまだ入る容量があるようだった。

どれくらい入るのだろうか、このポケットは。


「・・・で、俺、このあとどうすればいいんだろ・・・寝るときとか、モンスターとかも居るんだろ?」

「寝るのは宿屋で良いとして・・・後はレベルだよなぁ。戦闘にはレベルが必要だし・・・ってお前、レベル表示されてねぇぞ?」


俺は自分の頭上を見上げると首をかしげた。

確かに――俺の頭上にはマサトと同じようにレベルが表示されていないどころか職業さえも表示されていなかった。

多分、マサトは俺の服装を見て《魔術師》だと判断したのだろうが、コレでは他のプレイヤーもNPCノンプレイヤーキャラクターだと判断するかもしれないし――最悪、モンスターだと判断するかもしれない。


「・・・っていうか、スキル発動する時どうすんの?」


普通なら画面を切り替えて発動するスキルを選ぶのだけれど、俺にはそれが出来ない。

俺は初期スキルが何だったのかを思い出す。


(・・・確か、地面に陣を描いて、発動するスキルで、炎を出す奴だったような)


俺はその陣を鮮明に頭の中で思い出す。

――が、思い出す必要は無かった。

何故か無意識的に炎の陣が頭の中で浮かび上がり、俺の右手が光り始めて何だか熱くなってくる。

黒い皮手袋のお陰で熱は遮断されているような気がするが・・・。


―――ボッ


「うわっ」

「スキルは問題ねぇみたいだな」


俺は急いで落ち着いてその炎を消そうと思うと瞬間、手のひらの炎は消えて行った。

本当に熱いという感覚さえもある。

此処までリアルに感じると本当に実感する――。


「・・・あ、悪い。電話だ」


そういうとマサトのPCは固まって動かない。

今まで思ってたんだが、俺の視界には他のPCはまるで生きているように見える。

別に俺と同じように、このゲームの世界が現実(リアル)ではないのに。

今のマサトを見ると、どうやら画面から意識を離すとそのPCは抜け殻のようになるらしい。


(俺にとっては、NPCも生きて、意識を持った人間に見えるってことかな)


そうだとすれば、俺はNPCと会話できるってことなのか・・・?

プログラムの存在のはずなのに?


「・・・ま、今考えても無駄か」

「・・・――ソーヤッ!!」

「な、何だよっ!?」


急に俺の肩を掴んだマサトは焦りながら目を見開いて俺の顔を見ていた。


「お前ッ・・・今、電話でっ・・・」

「・・・?」

「お前が、病院に搬送されたって・・・!」






「・・・つまり俺が、《β(ベータ)》握り締めたまま自分の部屋で倒れてたってこと?」


頷くマサトに俺は考え込む。

つまり俺は肉体ごとコノ世界に放り込まれた訳じゃなくて・・・魂(?)みたいなものがPCに入り込んでいるってことか・・・?

考えれば考えるほど頭が真っ白になって行って、俺は溜息を吐いた。

今日一日で色々ありすぎる。


「で、お前は今病院に搬送されて、集中治療室に居る訳だ。・・・とりあえず、俺、色々調べるから」

「・・・うん」

「管理者にも一応、言っといてやるから。神殿付近の街は、確か【アイリスタウン】のはずだ。・・・とりあえず、お前死ぬなよ?」


そういうと、マサトは【ログアウト】という文字を表示させて消えて行った。


(・・・とりあえず、街に向かってみよう)


そこで、とりあえず宿屋を探して休むしかない。

・・・それにしても、こんなにまで身体に違和感が無いなんて。

流石に、多少の・・・つまりは身長やら体重やらの所為で違和感は感じる物の、腕の動かし方とか感覚とか此処まで違和感がないと逆に冷静になることが出来る。

現実味が無いってことなのかもしれないけど・・・。

・・・とりあえず今は生きる事を考えよう。

下手をすれば、俺はコノ世界で死ぬかもしれないんだ。

死んで再びゲームのように再生される保障なんて無いんだ。



俺は神殿付近を後にして、とりあえず近くにあるという【アイリスタウン】と言う場所に向かうことにした。

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