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覚醒世界のカタルシス  作者: 朝露 壱
第2章 ―Loss―【亡失】
19/26

Episode:18 The thing to protect 【護るモノ】

終わりなき幸福を君にだけに、贈るために。




「――……ッ」


何もない、本当に質素な部屋の中で、ロウソクの炎だけが揺々と揺れている。

――カグラは身体を起き上がらせる。乱れた息に、額には汗が滲んでいた。

懐かしく、息が詰まりそうなかつての記憶の夢。最も大事な親友を失った時の記憶の夢だ。

胸を抑え、顔を歪める。

(そうだ……もう一度、あの時のようにまた〈この世界〉でやり直すために……僕は)

狂気がザワザワと、胸の奥で騒ぎ始める――またもこの手から零れ落ちた

、最愛の友人。もう一度、この手に戻ってきて欲しいと騒ぎ続ける。


「ソーヤ……」


最愛の友人の名を呟き、再び苦痛に顔を歪める。

コレほど痛い思いをしているのに、彼は自分の元へは戻ってこない。この世界の〈神達〉は――またしても自分から、大切なモノを奪おうとしている。


「今度こそ僕が――ソーヤを、」










結局誰も見つからず、ギルド基地に戻ることになった。

暗くなると外は静かになり、まちなかで見かけるのは商人のPCやNPC達だけになる。

空を見上げると月と、そして星達が輝いていて、今にも自分が吸い込まれそうな感覚に陥った。

歩いている最中、考えを巡らす――あの黒服のPK(プレイヤーキラー)と、デルタ、そして忘却の城にいた、長髪の男……真理ルール……カグラ。

Happy Birthday。ソーヤ。という手紙の文章。あれは、俺に向けたものだろう。だが、俺の誕生日はまだ先だ。あの黒服の男が持ってきたと考えて当たりなのだろうけど、この言葉はどういう意味だろうか

そして、カグラ。真理(ルール)を求める者にして、【夜の國のギルド】のギルド長。空白の三年間の俺を知る、プレイヤー。

(三年間、俺はこのゲームをしていた。その時、俺は、真理(ルール)という究極のプログラムを探していた……その時、俺は何が目的でソレを探していたんだ?

わからないことが多い、知らないことが多い。

――情報を集めないと……デルタを探すためにも。


「あー!ソーヤー!」


声の方向を見てみると、ジーアスさんの宿屋で見かけた女の子と男性がこちらに向かって歩いてきていた。

男の方は口にタバコを加えながら歩いてくる。


「よっす。何してんだ?こんな所で」

「え、っと。今帰ってるところで……」

「ふぅん?あ、ソーヤギルド入ってるんだ?」

「あ、うん、まぁ」


二人は本当に俺と、数年も友人のような感覚で話しかける。

多分、彼等にとってはそうなのだろうが、俺にとってはこの前初めて会っただけの知り合い程度の関係なのだが。

(この人達の中で、俺はどんな存在だったんだ?……三年前の俺は)


「三年前の俺……か」

「ん?もしかしてお前、三年前の自分のこと、知りたいのか?」

「そっか。ソーヤって三年間の記憶無いんだったね」


二人は当たり前のように、俺に向かい合い、言う。

(あれ……俺、三年間記憶無いって、言ったっけ……)

――瞬間。突然背後に悪寒を感じた。


「ソーヤ?」


背後を振り向く俺に、二人は不思議そうに俺を見ている。

ピリピリした空気が肌を刺し、訳もわからない悪寒に襲われ続ける。

一歩ずつ後退り、その悪寒のする方向を向いたまま、暗闇を凝視する。

(なんだ……?何か、居る?)

ザワザワと、風が気持ち悪く感じ始める。


「誰だ?」


恐る恐る、声を絞りだす。足音が、近づいてくる。


「……なんだ?」


二人は臨戦態勢になり、男は銃を構え、少女は杖を構えた。



「  ソ ー ヤ  」



ブツブツと、断続的な声が発せられる。

暗い闇からゆっくりと這い上がるように現れたのは、銀髪で長髪の――男だった。

ブツブツと、何処かが切れる音が耳に入る……男の周辺。男の周辺にはノイズが走り、データが壊れかかっていた。

彼が歩く道を見ると、その場所もデータが壊れかけ、0と1の文字、そして暗闇だけが広がる穴が、幾つも出来ていた。

二人を見ると、額から汗が流れ落ちている。


「なんだありゃあ……おい。ソーヤ。お前アイツのこと知ってんのか?」


俺は首を振る。けどあのヒトは確かにあの、俺達がこの世界に取り込まれた時、〈歌〉を唄ってた人だ。

いや、ヒトか、それともデータで構成されたNPCなのか……わからないけど。

でも、あの時とは確実に状況が違う。〈あの日〉のような感覚――非現実世界に何か起きるようなあの目眩も何も感じない。

男は長い髪を、月明かりにキラキラと煌めかせながらこちらを向く。

その視線は真っ直ぐ――俺に。

髪の隙間から、瞳が覗く。

(紅い――)

ゆらりと、男はその身体を揺らめかせた。


「ソーヤ!後ろに下がってろ!」


二人が俺を後ろに追いやった。庇うようにして、長髪の男の前に立つ二人。

(あれ……。この光景、何処かで……?)

目の前でノイズが走り、何か、映像が目の前を通り過ぎた。

それは早すぎて分からなかったが、酷く、嫌な予感を残すものだった。


「どうすんの?何かやばい雰囲気なんだけど……」

「……まるであの時みたいだな」

「やめてよ。フラグ立つみたいじゃん。……でも、ソーヤを守らないとね。ソーヤだけは、絶対に」

「あぁ。そうだな」


少女は杖を構える。男は二丁拳銃を。

頭の中で陣を描くことによってスキルが発動するソーヤと同じように、頭の中でスキルを選択する。


「〈赤の弾丸(フレイア)〉!」

「〈精霊の砲撃(ブレイドレイン)!」


赤い弾丸が、蒼い砲撃が長髪の男へ向けられる。――が。


「―――」


――バギャアアアァァァァンッ……


「効いてないのか!」


砂煙が上がる中、平然と無傷で現れる男。

やはり視線は、俺へ向けられている。


「……ソーヤ……」

「ソーヤに近づくんじゃねぇ!!」


――ズドンッ

庇うように立った男は、簡単に吹き飛ばされた。


「がっ……」

「っ!おい……」

「《想夜(・・)》」


(俺の、リアルの名前……?何で――)

伸ばされる白い手――腕。

それらが、頬に触れられる。酷く冷たい――体温をまるで感じさせない。

金属みたいな、無機質な冷たさが手を、腕を伝い、ココロにまで浸透してきた気がした。

バシッ……

流れる映像――良く、わからない、が。コレは――。



【場所は城だった。『――』は、俺を睨みつけ、この非現実世界を】



断片的に流れるロゴ。途中で途切れ、映像も途切れる。

何処かの城のような場所だった。ゲームのような世界だったのに、なぜかリアルに感じられた。

そしてその城の中で、お互い向き合って、男二人は立っていた。


『―――』


(映像……俺……?それと――もう一人は……)


「お前は――」

「〈炎弾の陣〉」


――ドンッッ


「……」


長髪の男が立つ地面に描かれた赤い陣から、燃え盛る焔が湧き上がった。

焔は男の回りを生きているように囲み、燃やそうとするが男はその焔の中からやはり無傷で現れる。

男の視線は、俺ではなく、俺の後ろに注がれていることに気づいた。


「ソーヤから離れろ」

「カグ、ラ……」


鋭い目つきで睨みつけるカグラ。白手袋を嵌めた手を、男へ向けている。


「ソーヤ。お前は僕が護る」

「おっせぇよ……団長……」


二人が傷ついた身体を起こした。辛そうにしながら、二人はカグラを見上げた。

(今、団長って……)


「アイン、レイカ。後ろに下がって支援しろ」

「りょーかいっ」

「団長いいとことりすぎー」


二人は急いでカグラの後ろに回り、スキルの発動準備を開始する。

カグラも再び構え、陣を描き始め陣が長髪の男を中心に、再び現れ始めた。

男の手は未だに、俺の頬に当てられている。


「ソーヤから離れろって言ってんだよ屑データが」


ヴァヂィっと言う、火花を散らしながら追加属性を付与されたカグラの手が、振り上げられ、売り降ろした瞬間、電撃の剣に変化した。

それをもう一度振り上げ――振り下ろされる。

――ズドドドドドドドドドンッ


「う、ああああああっ!?」


地面が裂け、電撃が男へ向かう。

危うく俺まで巻き込まれそうになった。だけど、そのお陰で俺と男は離れる。


「っ……」


ブワッ……と、男の体が部分的に煙のようになった。

(二人の攻撃は効いていなかったのに、カグラの攻撃は効いている……?)

男は睨みつけるようにカグラと二人を見る。


「〈聖なる砲撃(セイントブレイク)〉!」

「〈暗闇の刃(ダークナイフレイン)〉!」


黒い、影のようなナイフが無数飛びながら向かう。同時に光の銃撃が男へ向かった。

男に当たるスキル。だが、やはり攻撃は効いていない。

俺は頭の中で素早く陣を描く。効かないのかもしれないが、試さなければわからない。


「〈赤撃の魔導砲(ブラッドフレイア)〉」


手の平に赤い粒子が集まり、ソレを男に向けて放つ。

振動と衝撃が身体を貫く。

攻撃は男に命中し、砂煙を上げた。


「ソーヤ……大丈夫か!?」

「あぁ……」


重い体を起こして俺はカグラを見上げる。衝撃で後ろに倒れたのが原因で見上げる形になっていた。

カグラは少し安心したような表情で俺の手を引き、起き上がるのを手伝ってくれた。

男を見ると、グラグラと揺れながら立ち上がったが。

(効いてる……!)


「ソーヤ。ここから逃げよう。アイツは危険だ。アイン。レイカ。来い。――発動。〈転移魔法〉」


世界が、暗転する。粒子のエフェクトと同時に消えて行ったソーヤと、カグラを見据えながら長髪の男は、表情を消す。

表情を表すことが出来るのは、『ソーヤ』の側にいる時だけである。

敵としてであっても、側に居ることによって彼は感情を表現することができるのだ。

――すると、すぐとなりでデータが壊される音が鳴る。


『Gurururururu……@::「・「「:;:」「¥^ー』


バキバキという、壊れた音を鳴らしながら現れたのは、データが壊れたモンスター。

この世界は非現実世界という異世界にこそなってしまったが、現実に限りなく近い存在にこそなってしまったが、この場所は飽くまで『電脳世界』だ。

データがあるのは当然だし、システムも存在している。――そしてプログラムも。


「――」


何かを呟き、男はモンスターの目を見る。


――ボシュン


一瞬でそのモンスターは弾け、消えて行った。

――何かに気づいたように顔を上げ、飛び散る黒いデータの破片を払うこと無く、男は消えて行った。









「……っと」


トン、と地面に降り立つ。

辺りを見渡すと、金属の壁、そしてロウソクに灯る炎だけが辺りの暗闇を照らしている場所。

【夜の國のギルド】のギルド基地だった。

カグラは少し離れた場所に現れ、服のホコリを払った。


「ソーヤ。怪我はないか?」

「団長ー。俺らのことも少しは心配してくださいよー」

「っつぅか何だったんださっきの奴」


二人を見ると、俺らよりも二人のほうが怪我を負っているようだった。


「どーしよー。私回復魔法無いよー」

「じゃあ俺が回復するよ」


俺は二人の前に立ち、両手を広げ、頭の中で回復魔法の陣を選び、描く。


「〈回復の陣(ヒールマーカー)〉」


淡い桃色の粒子が周辺を飛び、二人の傷を癒していく。

二人は完全に回復したらしく、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「サンクス、ソーヤ!」

「いや。別にいい。……それより、俺、帰っていい?みんな――待ってるはずだろうし」


俺は踵を返し、出口へ向かおうとする。ギルドからでなければスキルは発動しない。

(……え?)

出口に近いところまで来た時、背後で名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。

が、振り向いても、カグラと二人は俺を見ているだけ――……。


「……なんっ……」


カグラは俺の側に近寄ろうとしていたのか、一歩踏み出す形で止まっていた――固まっている。

まるで時間が止まったように、ピタリと。


「ソーヤ」

「……!?」


声がした方向を振り向く――そこには、大砲を担いだカイが立っていた。

オンラインゲームもよく自分はするのですが、今でもレトロなゲームが好きです。積んだりするのですが、それもゲームの醍醐味ですよね。自分は積んだら1年ほど経ってからクリアすることが多いです(´・ω・`)

終わってしまうのが惜しくて再開できないんですよね……。

ちなみに二人の名前が出てきました。男の方がアイン、少女の方がレイカです。

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