南の策略4
今更なのですが、氷泉の鈴は、渚が鈴になるわけではなく渚の柄についているのです。今、そういった描写がなかったような気がするなと思ったので修正しました。
怒号と悲鳴。
戦いを経験したことがあるものはどれくらいいるのだろうか?
圧倒的に自分より強いものの前に立たされる恐怖。
「生徒の皆さんは講堂にお集まりください」
結界を恐らく張るのだろう。
だがしかし、弓を携えた者は上へあがっていく。
その一人がこちらを向き、慌てて走ってくる。
「客人は校長室へ! 不在と言えども最も安全な場所であるのは間違いない。場所はわかるな?」
「迎撃なされるのですか?」
「はい。では、失礼する」
牙狼は走って行った。
分かっている。
あいつの力は国を守護する上で最も強い力を受け継いだ者のはずだ。
あいつにも恐らく千花の親の龍炎と同じように師匠がいるはずだ。
そうすれば、きっと困ることはないだろう。
だがしかし、それがわかっていたとしても、仲間がいる。
恐らく、美咲のことだ。
文句言いながら、みんなを助ける手伝いでもしているのだろう。
なら、校長室を開けて俺が言うべきことは
「始めましょうか」
この一言だけでいい。
「さて、私は街の防衛のお手伝いをしに行きます。百枝さんも一緒に来ていただけませんか?」
「……承知」
俺たちは学園で迎撃だな。
「千花、屋上に行こう」
また面倒なことになると思うが、特に牙狼が……。
『一応、客人じゃからのう。傷つけでもしたら国の威信にもかかわるじゃろうて』
『それでも、何とかしないといけないからな。諦めてもらう』
『気を付けるんじゃな』
『おお、ってか、何だって行く先々でこういうことが起きるのかね』
そして、人の流れに逆らって、屋上へ向かう。
外に出ると空を頂点とした白い光の壁に街一帯が囲われている。
「『聖域』の多重詠唱による広域結界『神域』。この強度ならしばらく耐えることができますね」
日常的に多くの魔物が来るわけではないので、磨かれた技は長時間結界を維持する力ではなく、倒すまでの時間絶対に被害を出さないようにする力。
つまりはそういうことだ。
早くかたをつけないと、この街は滅ぶ。
「援護をください」
「客人は……」
「分かっています、ですがあなただけではこれを防ぎきるのは無理なはずです」
千花の言うとおりだ。
他の人たちが放った矢はほとんどダメージが通っていない。
「師匠などはおられないのですか?」
「……数日前に消えた」
ってことは……だ。
やばいよな、この状況。
外部からの救援はいつ来るかもわからない。
「牙狼、何があっても後にしなさい」
そして、呼ぶ。
「渚。『氷泉』」
近くにいた射者に飛んできた目玉の魔物を斬り飛ばす。
そして、渚を鞘に納める。
「一気に行く。『氷泉の具現化』」
柄の鈴を鳴らす。
小さい魔物たちは、そのまま凍って地面に落ち砕ける。
「『鎌黒』」
おいおい何時見てもおかしいよな。
千花が俺の後ろに迫っていたドラゴンを切断する。
牙狼も素直に受け入れる気になったらしい。
「ご助力感謝いたす」
俺たち、得体のしれない奴らな気がするがな。
先日襲ってきた奴と同じ力を使うんだから、まあ、ばれただろうけど。
「『千翔雀』」
多くの魔物が撃墜される。
その落ちていく魔物を踏み台にしてさらに多くの敵を斬っていく千花。
人間やめたのか?
いや、まあ獣人の先祖返りだからだろうけどな。
さて、俺も見せ場が欲しい。
「『氷魔一響』」
鈴の大きさが頭ぐらいの大きさになる。
せっかくなので近くの魔物をそれで殴った。
すると、俺を中心にして敵が凍り付く。
さっきの強化版ということらしい。
どれくらい戦い続けたのだろうか?
俺たちはもうボロボロになっていた。
声のために使っていた『天羽』が反応したのだろう。
味方の死の淵に。
美咲が血を吐いて倒れそうになっている。
柚木が倒れてる人を飛ばそうとして力尽きようとしている。
「おい、何してるんだよ……」
手を伸ばしても届かない、届くはずもない。
『紫電』でもこの敵の中を突っ切ることはできない。
なら、どうしたら、どうすれば……
分かっていた、初めから結論は出ていた。
ただ、気が付かないうちに、口では言っていることを心のどこかが否定していたのかも知れない。
そうだ、俺は
『俺は……おい、渚、記憶を返せ』
『ふむ、断ると言ったら?』
『自力で戻す』
どれほど無茶かもわかっている。
『それだと下手したら死ぬことになるぞ』
『それでも、ここで後悔は……したくない』
『そうか、ショウ。主はやはりこの選択をするのじゃな』
その時、世界は暗転した。