南の策略3
おい……これはどういうことだよ!
周りは血にまみれている。
死が満ちあふれている。
動かぬ骸が……
俺の体は動かない、動けない。
「……い! ……おい!」
『大丈夫……あなたならきっと大丈夫。だから……』
呼んでる……誰が?
前にも見た女性だ……そうか、あれは……
答えを見つける直前に馴染みの衝撃が俺を襲う。
『またね。もう一人の……』
「お前は○○なのか!?」
応えはないまま俺の意識は浮上する。
「あんたは帰った方がよくない?」
珍しく美咲に心配された。
まあ、そんなこと言えば、意識を失うのは目に見えてるので言いはしないが。
「最近、夢見が悪くて、ごめんなさいね」
何か、大事な夢だった気がするのだが思い出すことは出来ない。
まあ、所詮は夢だ、そう思うことにする。
「崎見いってらっしゃい」
「本当に大丈夫?」
「こっちにはみんないるから」
明と千花がいれば大抵何とかなる。
百枝もいるし恐らく大丈夫のはずだ。
「『癒しの加護を 翼の加護を 大地の加護を 願いを 想いを 誓いを その身に神との約束を刻む』 気休め、無理はするな」
「心配しすぎよ」
周りが囃し立てているが気にはしない。
『ふむ、なかなかじゃな』
『ん、何の話だ?』
『いや、何でもないんじゃ』
渚も意味不明なことを言っている。
「あなたの方が気をつけなさいよ」
「大丈夫でしょ」
この会話通りにならないことはすぐにわかるのであるが、この時の俺はまだ知るはずもなかった。
「ここらへんで一番高いところでどこですか?」
俺は焔に聞く。
「そうだな、やっぱり教会の最上階……いや、この時期なら! 忘れてた、こっち来いよ」
引っ張られたのは、窓。
窓?
「え? 屋根の方がもっと高いのでは?」
「行くぜ」
そのまま飛び降りる、俺もろとも。
校長と一緒で、こいつも馬鹿なのか?
死ぬのか?
「来るぞ」
「な、何が?」
「『風魔術風盾』」
手を下に向ける。
と、いきなり体が持ち上がった。
「え?」
「驚いたか、この街は風が袋小路で上に逃げる場所が多い。だから、こんなことになるのさ」
ほう、なるほどなるほど。
だがしかし!
これは一発殴らなければ気が済まない!
焔は一瞬上に俺はそのまま下に落ち始めた。
風盾という下からの風を受けるものが失われたためだ。
『おぬしも大概馬鹿じゃのう』
『うわ、終わったかも』
校長も柚木も不在だ。
テレポートから助かることもないだろう。
百枝は今、授業サボって(だが、気づかれない)買い物に出ているし。
明と千花は魔術が使えない。
『終わったかも』
『あの変態はどうじゃ?』
『弓使いはうざいから却下だ。近づいてきたら蹴り飛ばす!』
名前呼ぶのも忌々しい。
っていうか、呼んだら確実に姿を現すだろう。
しかし、そんな懸念もあったが、地面に近づくにつれて速度が下がる。
まあ、馬鹿な校長でもこれぐらいの対策はしてるか……。
『窓から飛び出すような、阿呆な行動をとるものの言葉とは思えんのじゃが』
『あれ、俺のせいじゃないし! 巻き込まれただけだし!』
そのまま着地する。
『『天羽』を使うことがなくて助かった』
『まあ、ばれたところで騒がれて命を狙われるだけじゃろうがな』
『おい、東よりひどいじゃねえかよ』
『総本山じゃからな』
ああ、理不尽で憂鬱だ。
他愛もない話、興味を引く授業。
そんな世界が一変する。
その第一声目は
「魔物が来たぞおおおお!!」
今、不穏と絶望の扉が開き始めた。