抵抗
「柚木大丈夫?」
「ああ、視界が揺れているだけだ問題ない」
柚木の体力はついに限界に達したようだ。
かといって、反撃する訳にはいかない。
彼らが攻撃しているのはこちらが教皇を誘拐したからだ。
どうする?
足音が迫ってくる。
そういえば……
「成り行きで逃げていたけど、教皇放せばいいのでは?」
俺の一言が盛大な沈黙を呼び起こす。
柚木以外でも精神に負担がかかっているようだ。
大体、話すことは全部喋ったのだ、今更追われる理由を持って逃げる必要もない。
「これにサインしてくれませんか?」
交換留学生の証明だ。
これを発効して、学校内に逃げることにした。
よしこれでよし……とは、行くはずもないか……。
矢がつがえられる。
来るか!
「後ろです!」
明の声にとっさにしゃがみ転がる。
頭の上を刃が通り、明の円月輪がそれを弾きとばす。
おいおい、すっかり忘れてたぜ。
『記憶だけが唯一のお主の能力じゃろうに』
『こいつらに手紙を盗まれたら失敗か……もうすでに教皇に渡した後だから問題ない』
渚を突きつけようとすると目の前を矢が通過する。
「やりにくい……」
後ろを確認し、小声で百枝に尋ねる。
「3分……」
3分しのげばこちらの勝ちだ。
「私と明がスパイをやる」
おい、ってことは残ったのは……
はあ、また、面倒な役回りだ。
今日、12度めの邂逅。
「おとなしく投降しろ」
もうすでにここまで逃げているのだ。
諦める訳にはいかない。
そもそも、
「今更……」
百枝が俺の言いたかったことを的確に告げる。
「仕方がない、貴様らの命の保証はしないぞ」
いやいや、今まで十分殺しに来てただろ!
それに教皇まで殺しかかってるってことに気がつけよ!
言葉にならない間に向こうが話を進めていく。
「しかたない」
おいおい、街滅ぼす気かよ……。
つがえられた矢だけでなく、弓も炎をまとっていた。
「この術はあらゆる魔力を無に返す浄化の炎宿したものだ」
そう威圧してくる奴に無言で返す、投降する気などないと。
「そうか、破魔・天葬朱雀」
魔力じゃないから、無に返すことはできないぜ!
渚がホラ吹いてたら死ぬけどな!
「『氷魔一吹』」
鈴を振り下ろす。
そう、目の前のものすべてが凍った。
そして、拮抗する。
相手の驚愕の表情に溜飲が下がる思いがした。
「3分……」
スパイと戦っている美咲と明に合図する。
美咲の接近戦からナイフ投げによる牽制に変わる。
明は陽炎でこっちまで戻ってきた。
「『氷泉』」
俺も牽制しつつ下がる。
そして、戦闘に参加できない千花のところに集まった。
「帰去浪偽」
これで、教皇を置き去りにして逃げることに成功した。