逃走
美咲と崎見一回一回書き直すのはめんど……間違えるので会話文では崎見、地の分では美咲で行きます。
よろしくお願いします。
「逃げてばっかりだよな」
柚木がぼやく。
「何言ってんのよ。傍から見れば、悪いのは私達なのよ!」
「えっと、誘拐だから傍から見なくても・・・・・・」
美咲に千花が訂正を入れる。
「それにしても、百枝ってすごい……」
転移まで使えるとか相当だ。
「俺の存在意義が……」
「もともとないわよ」
一撃死だな。
沈没する柚木を眺める。
そういえば……
「転移の負担は?」
「そうだ! あれだけの距離飛んだらだいぶ疲れるだろ!」
「負担……皆無……」
世界の均衡が崩れるぞ!
「そんな馬鹿な……」
「空間……特異点……探知……接続……終了……」
さっぱりわからん。
頭を捻る。
すると百枝が近づいてきて
「偽物」
と、言った。
……は?
え? 何? 俺、偽物なのか?
思考を遮られる。
「なるほど、空間の歪みを利用した転移技術ね」
納得しているゼリーを食べ終えた教皇。
「空間の特異点とは……そう」
テーブルクロスを指さす。
「これが空間とするでしょ。転移はここからここまで移動するのに自分の力で分解と再構築を行うの」
「はあ」
「だけど、空間っていうのはこんなにきれいなものじゃないの」
そう言って、しわを作る。
「このしわ一つ一つが特異点。この特異点はとても不安定な物、ゆがみやひずみと呼ばれてるわね。これらは常に安定な状態に戻ろうとしているわ。そこで」
「特異点同士をくっつけることで安定な状態にしようということですね」
明はわかったのか?
「特異点同士をつなげるっていうのはその性質上、魔力は必要ないわ」
「もっとわかりやすくならないか?」
これは柚木に同意だ。
「そうね……部屋が二つあるでしょ。その間には壁があるの。これが転移で越えなきゃいけない部分」
「はあ」
「そこには初めから特異点っていう窓もついてるんだけど出入りするには不便」
「そしたら……」
「そう、窓を大きくして扉にしてやればいいの」
「あとは開けるだけ?」
教皇が頷く。
「でも、そしたら、なんでこれは普及しなかったんだ? 俺だってできると思うんだけど?」
そんな柚木に呆れたように美咲が答える。
「何言ってるのよ。その窓の先に隣の部屋があることが前提よ。もし、先が崖だったらどうするの?」
それに明が補足する。
「本物の崖なら生きていられるかもしれませんが、空間だと……何も残らないと思いますよ」
うわ、運がなかったらとっくに死んでるな。
『運などではないわい。わしが転移の基盤になっていたからじゃよ』
『どういうことだ?』
『わしはこの世界で最も大きな特異点じゃ。何せ神じゃからな』
『この際、神については置いておく。で、どうなんだ?』
『もうそろそろ信じてくれてもよかろうに……あれの条件は』
『いや、まあ、どうでもいいか』
『扱いがぞんざいじゃな』
「追燕!」
もう来たのか!?
さっきより格段に見つかるまでの時間が短くなっている。
だが、何故わかったかを考えているさ余裕はない。
ってか、教皇も働け!
矢面に教皇をたてる。
「私を盾にしないでくれる?」
「チッ! 避燕!」
「また、ヒエンか……」
教皇をぎりぎりかわし、俺たちを通り過ぎた後………反転した!?
おいおい。
反転したのを切り払っている間にヤバそうなものか構築されている。
「天槍雲雀!」
つがえる矢の先に光が集う。
うわー、あれ食らったら死ねるよな……
「穿て!」
「『天破絶爪・虎連双牙』!」
放たれた矢に向かって、渚を振る。
召喚された虎と槍が激突し大爆発を起こす。
『のわ!? 使わせる前に大まかな中身ぐらい教えろ!』
『そんな暇などなかったじゃろ』
うそぶく渚にきれていると百枝が俺の腕をつかむ。
「帰去浪偽」
時間稼ぎにはなったようだ。
目の前が揺らぎまた別の場所へと移動した。
「逃げ続けることなど出来はしない」
彼の口の動きがそう告げていたことに一抹の不安がよぎった。
確かにそうだ、負担は少ないとはいえ、決してないわけじゃない。
転移そのものの手法が精神的負荷が高いのだ。
この中で、最も戦闘慣れしていない奴、つまり、柚木がどれだけ耐えられるかが逃げ続けられる時間である。