神殿
神殿をグルっと回ってみた。
「思ったより厳重ですね」
「空はどうだ?」
「……結界」
「門が2つね。どちらも5人の門番がいるわ」
「幻魔術対策もされていると思います」
となると方法は少ない。
「囮か?」
「いえ、千花さんと浅葱さんに潜入してもらいます」
「他はどうするんだ?」
「こういうのは大抵抜け道があるんです」
まあ、一応、国のトップだからそれくらいはしてるか……。
「それで、私たちはどうやって入るのですか?」
「今のだと、全員抜け道のほうがいいのではないですか?」
「2つの可能性を考えています。実は1つは抜け道がない場合。もう1つは、抜け道が相手に漏れている場合」
『抜け道は総じて狭いからのう、戦闘には向かんじゃろ』
「僕達の勝利条件は、手紙を教皇に渡すことです」
「逆に敗北条件は、多いな。手紙をとられる。スパイに捕まる。一般兵に捕まる」
しかも、手紙は1通しかない。
「どっちが持つのですか?」
「教皇に届きさえすればよいのです」
明がニコリとする。
「もしかして、あんた、首が飛ぶかもしれないわよ」
「ある種反逆罪じゃないですか?」
美咲と俺は理解した。
「……極悪」
「大丈夫でしょうか?」
百枝と千花も不安げだ。
「さっぱりわからん」
勿論柚木だ。
「別に終着点は神殿じゃないって話よ」
「……おい!」
じゃあ、俺と千花は囮か……。
まあ、俺達でやってもいいのか。
条件は目に止まらぬ速さで抜けること。
衝撃は風で止める。
「行きます『天の雷』」
「解放『獣化』。獣技『瞬迅加速』」
門へと突っ込む。
「今日は風が強いな」
「もう、風が強くなる時期か」
「何か布みたいなものがかすめていった気がするんだが」
「こら、集中しろ!」
門番の会話にひやりとしながらも抜ける。
すぐさま柱の影に隠れる。
ドレスはマズかったか。
「神殿の柱は大きくて助かるわ」
「ですね……誰か来ます」
千花の言葉に風の羽衣を纏う。
幾分か、スカートが体に密着する。
カツン、カツン、カツン……
それにしても、王宮と違って一般開放されてないんだな。
カツン、カツン……
はあ、早く行ってくれ面倒だ。
カツン、スッ。
嫌な予感。
千花に向かって合図する。
「魔弓流『飛燕』」
天井に飛ぶと同時に足元を矢が通過。
世界最強とほぼ対等な流派がここで終わるはずがない。
「何者!」
順番おかしいだろ。
「魔弓流『千翔雀』」
さっきのより遅い矢だが無数に - いや、1000本ちょうどか - 飛んでくる。
それにしても返事の間もないのか!?
「そういえば、魔弓流の人は矢が届く範囲の生き物は全て知覚できるらしいですよ。恐らく、音か熱です」
それ先に言えよ!
「正体バレるのは良くないからな……千花は教皇を頼む」
「わかりました、お気をつけて」
はあ、明たちと合流しないとな。
絶対文句言ってやる。
さて、知覚方法は魔力ではないなら、千花の気配を消すのは簡単だ。
「出てこい! 『追燕』」
おお、曲がった。
って、こっちに来る!?
『追跡してくるんじゃな。恐らく、言霊で強化している分、かなり追ってくるじゃろうな』
『なんで、見えてないのに……まさか、知覚されるだけで駄目なのか!』
『大まかな狙いだけでここまで追ってくるのじゃから、強者じゃな』
「『火燕』!」
「さっきと同じ速いやつか」
目の前で追跡してくる矢とぶつかる。
……違う!?
目の前で火がつく。
「『紅蓮』!」
顔を見られてはまずい。
が、俺には渚しか無い。
直線攻撃は、相手の視界に入るので却下。
「『氷泉の具現化』」
「『濡黒羽』」
相手の姿がぼやける。
……幻術系か?
「関係ない」
鈴を鳴らす。
「音の届く範囲は……凍れ!」
「ちっ! 『火燕』」
火で溶かされるか。
相性と条件の悪状況が重なってかなり不利だ。
こちらに走ってくる気配を感じ鈴を鳴らす。
氷の壁だ。
保つか?
ピシッ!
『ヤバい、気が付かなかった!』
『何じゃ?』
『あいつも時間稼ぎだ!』
俺の背後の扉の方から慌てて走ってくる音がする。
『ふむ、そうか。他の警備が来るのを待っていたということじゃな』
『どうする』
『安心せい、来るぞ』
何が?、と聞き返す間もなく、煙が爆発的に発生する。
なるほど、熱も視界も音も遮るのか。
今なら!
気配を感じ、横に転がる。
痛っ!
こんなかでも狙えるのかよ!
「行きます」
千花か!
「狙えるらしい」
この一言だけで全て通じたようだ。
「獣技『瞬迅加速』」
千花がたどってるのは匂いか?
視覚と聴覚が使えない今だとその可能性が高そうだ。
しかし、まだ時折飛んでくる矢は正確……もしかして、空気の流れか?
「『天羽』」
ここら一体の風を止めた。
すると、矢はこなくなった。
そうだよな、もっと早く気がつくべきだった。
この国は風の国、風の気配に関して敏感なのか……。
「そういえば千花……教皇は?」
「明さんに渡して来ました。宿に行きます」
『はあ、あいつ倒せなかったな……』
『まあ、なんじゃ。結果的にこちらの勝ちじゃ。問題なかろう』
『そうなんだがな……』
はあ、ここからが本番だ。
気合を入れて、宿の扉を開けた。
「きっと、驚かれると思いますよ」
入る直前の千花の言葉は不吉なものとしか思えなかった。