湖上の…… 1/4
急展開です……すいません
「何でこんなことになってるんだろうな?」
俺たちは今船の上にいる。
「そりゃ、運が悪かったからよ」
時は数時間前に戻る。
「君たちには教国立学園に行ってもらうのです」
「は?」
校長室に呼ばれたのは、俺と美咲と千花と明、それから柚木である。
「一種の交流です」
「いや、それはなんとなくわかっていたが。なぜ俺たちなんだ?」
「実力なのです」
嘘だ、絶対嘘だ。
「魔術学、最下位の俺とかまったく関係ないだろ」
「げ、気づかれたのです。適当に開いた生徒名簿に載ってたからとか言ったらまずいのです」
いや、適当に鎌かけただけなんだが。
むしろ、わざとらしさを感じる。
「いえ、この人は素で残念な子ですから」
副校長!?
身内に厳し過ぎません?
「えへ、それほどでもなのです」
ほめてない、それほめてないから!
「なあ、本題はどこいったんだ?」
柚木の声で我に返る校長。
「と、いうわけで行って来てほしいのです」
「ちょっと待て! 間がいろいろ飛んでるぞ!」
「面倒なので別にいいのです」
よくない、そっちがよくなくてもこっちは全然よくないから!
説明ないとか、ホントありえないから!
ぜえぜえ……心の中だけで突っ込んだというのに疲れるとは、恐るべし。
勿論こんな事になったのだから……
「今日もプリン抜きがいいみたいですね」
ご愁傷様、そして、ざまあみろ!
「はう!?それはひどいのです。極悪非道なのです。鬼なのです。悪魔なのです」
「ほう、そんなこと思ってたんですね」
「えっと、そんな細かいことは置いといて説明するのです」
その言葉に俺たちは反応する。
「逃げた……?」
「逃げたぞ」
「逃げたな」
「逃げましたね」
「逃げたわね」
上から
千花、柚木、俺、明、美咲である。
まあ、いわゆる仕返しだ。
「みかたがいないのです!?」
「ちょっとお話しましょうか」
と、言って連れて行かれた。
っていうか、記憶がなくなるなら、説教意味がなくないか?
……いや、むしろ思い出すほうが怖いから抑止力にはなるのか?
でも、常習犯の校長には効果がないから意味がないのか?
って言うか俺の記憶喪失がこの人の所為だったら
……笑えねぇ。
この人ならできる気がして笑えねぇよ!
という冗談は置いといて。
『その割には口調が本気じゃったがのう』
『うるさい、うるさい、何にも聞こえない』
『なんかむかつくんじゃが』
さて、放置だ放置。
「で、どういうことすれば?」
「今回は交換留学生です。向こうとこっちで相互に生徒を出し合っていくのです」
「なるほど……で、俺が聞いてる内容と違うけど?」
「最後まで聞くのです。一週間、向こうの学校へ行って授業を受けてレポートかいてもらうのです」
「めんどくさいんだが」
「問題ないのです」
「ほお、何かいい案があるのか?」
コイツには敬意を払わない。
次も絶対いらんこというからな。
『そこまでわかっていて何故問う?』
『様式美ってヤツだ』
校長が口を開く。
「私が書くわけじゃないので面倒じゃないのです」
ほら見ろ、予想通りだ。
「副校長、殴って良いですか?」
「御随意に」
「やっぱ駄目か……え!? いいの?」
ま、まさか許可が出るとは。
「どうぞ。叩けば治るかもしれません」
「そんなことないのですよ。殴っても痛いだけなのですよ」
そうやって、頭を抱える。
じゃあ、遠慮なく。
「明」
「任せてください」
校長は明に羽交い絞めされる。
さて
「やめるのですよ」
頭の上にたんこぶを作った校長が涙目で話始める。
「今回の目的は南の対策なのです」
「南のって言うとあれか? 帝国の話か」
「はいです。この国は教国と同盟を結んでいるのです」
「それがどういう風に関わってくるの?」
「そうですね……これはあなたに渡しておきましょう」
美咲に便箋が手渡される。
「これは?」
「教国の教皇に宛てた手紙です」
あれ?
「この学園にいる『聖女』だよな?」
「まあ、あの子の親ですね」
「なら、そいつに頼めば、良いんじゃないのか?」
「それは安全じゃないのです。当然、あの子にはスパイがたくさんつくのです」
「で、目立たない俺らが使者として行けと?」
「正確に言うと使者の一人なのです」
「伝書鳩と王国兵士からも使者を出しています」
副校長の重ねた説明で、ようやく理解する。
「つまり、俺たちは囮であり本命だと?」
「そういうことなのです……誰です?」
校長の冷めた声。
背筋が凍るようなその声は、普段の容姿を伴った可愛さを微塵も感じさせない。
「空魔術『探索』」
それと同時に『天羽』で俺も探し当てる。
相手も手練らしい逃げるのがはやい。
『紫電』を使うかどうか悩む。
「氷空混合魔術『氷獄』」
膨大な魔力が動く。
「おいおい、凶悪すぎねえか?」
「柚木もできるのか?」
「まさか……混合魔術なんてものも初めてだぜ」
「俺もだ」
強すぎじゃないのか?
「鶫後は頼むのです」
声が元に戻る。
「どうしたのです?」
「いや、校長ってすごかったんだなと」
「ふふっ、敬うといいのです!」
「あ、前言撤回」
「うう、それは取り敢えず置いといて、こんな感じなのです」
「っておい! この仕事危険すぎるだろ!!」
「報酬は?」
美咲が問う。
「ないのですよ? あくまで学校行事の一環なのです」
「嘘でしょ!?」
「お前、言っても食い散らかすだけだろ?」
「あら、私は食を大事にしてるわよ?」
「お金もというか、食費を大事にしろ」
「あの食費とかも自分持ちなのでしょうか?」
千花が口を開く。
ああ、確かにそこは重要だ。
俺たちはコイツがいるからな。
「学食だから、安いのですよ」
「自分持ちなのですか?」
出た!
千花の上目遣い。
「う、自分たち……自分……自……うう、学園が持つのです!!」
よくやった!
「で、いつ出発だ?」
「今すぐ行ってもらうのです。これがチケットなのです」
船のチケットを渡される。
「なあ? 思ったんだが、転移とかでいけないのか?」
「国外転移は犯罪なのです。そんなことしたら、問答無用の戦争なのです」
「……はあ」
ここまで厳しい理由がわからんが、まあいい。
「いくか。まずは、港までいかないとな」
と、言うわけで俺たちは船に乗っている。
自分乗った船を見渡す。
明はマストに登っている。
怒られないか?
柚木は船首付近で座っている。
……葵の名前をずっと虚ろに呼びながら。
船酔いだろ、早く部屋に行った方がよくないか?
美咲は恐らく厨房だ。
いらんことするなよ……頼むから。
「翔さん、翔さん。イルカですよ!!」
一番はしゃいでるのが千花なのが気がかりだ。
誰が、みんなの暴走を止めるんだ?
『主も暴走するからのう』
『うるさい』
さて、気がかりな事は多いが……。
「バンデン島への到着は3日後だ!! それまではゆっくりしとくといい!!」
船長の声が響く。
4国の船の中継地点、バンデン島。
とりあえずの目的地。
「何かおきそうな気がするな」
そう、悪い予感ほど当たるというのは真理である。
そして、それは思っていてたよりも早くバンデン島に到達する前に起こることを
……俺たちが知っているはずがないのである。