授業にでよう
目を開ける。
それと同時に横に転がる。
俺を襲う打撃から距離をとる。
屋根の一部が損壊し破片が宙を舞う。
「な、なんだ?」
「生徒会執行部風紀科低学年担当の葵です」
「はあ」
「先生の授業が始まります。速やかに教室に行ってください」
「なぜ?」
どうしてこのタイミングだ?
と、
ここで鐘が鳴る。
「顧問が私に捜して来いとおっしゃったので」
顧問ね……大方、副校長だろう。
行かなかったらおそらく、処刑だろうな。
ま、初めての授業だ。
なので、飛び降りた。
後ろで叫び声が聞こえるが、落下中なので風で聞こえない。
足に少し響いたが着地に成功する。
……?
何で降りてこないんだ?
「何突っ立てるんだ?授業あるだろ?」
いきなり現れたのは柚木。
「次の授業からな」
「ふーん。でなんかあったのか?」
「風紀科の葵っていうやつがな……」
「お前、屋根の上で寝てたのか?」
……!?
「何故、わかった?」
「あいつ高いところが苦手だからな。大方、先生の言うことを実行するために頑張ったが」
「……上りきったところで燃え尽きたと?」
「そういうことだな」
なるほど……
「だから、いきなり撲殺されそうになったのか」
「いや、それはいつも通りだ」
「……マジかよ」
柚木が消え、戻ってくる。
数秒前の違いは、抱えているものである。
「さすがだな」
「それほどでも」
「……なさい」
「?」
お姫様抱っこされているそれは何かいったような気がする。
「降ろしなさい!」
真っ赤な顔で叫ぶ。
「視線が集まっちまうぜ?」
「……あぅ」
「じゃ、いくか。俺、魔術学だけど?」
「俺もだ。ついでに、葵もな」
「それよりも早く降ろしなさいよ柚木!」
「やだ」
そのまま、塔の中へ入っていく。
これ、恥ずかしいよな。
俺は離れることにした。
階段を上り終えると柚木がいた。
まだ、抱えたままで。
「俺もお前の魔術に便乗すればよかった」
で、
葵に目をやる。
……気絶していた。
あらら、恥ずかしすぎたのか?
まあ、当然だろうけど。
っていうか、もう好きにやってくれという感じだ。
周りでは黄色い声が響いている。
なるほど、公認なわけだ(葵を除く)。
「お、起きたか?」
「って何でまだこの格好なのよ!」
初対面のときのクールさをどこへ忘れてきたのかはなはだ疑問である。
「普通に自分で降りればよくね?……ああ、実は降りたくないのか……なるほどなるほど」
納得顔をしてみせる。
すると、打撃が飛んできた。
俺をかすめ壁にめり込む。
わお……。
これ、本当に死ねるよな。
どうやら、俺の言ったことを理解したらしく。
すぐに飛び降りたらしい。
柚木が残念そうな顔をしているが問題ない、ここからがお前の見せ場だ。
足をかけて引く。
いきなりの俺の攻撃に反応できず、足元をすくわれ後ろに倒れる。
普通なら床にぶつかるだろう。
が、
ここには柚木がいる。
すぐさま支えられる。
「放せ!」
「すまん。柚木、俺ちょっとやりすぎて、足を捻挫させたかもしれない。保健室の場所がわからないから頼む。授業に遅れることも言っておくからな」
別のことを目で伝える。
柚木から笑いが返ってくる。
抱えるための大義名分である。
……共犯者だな。
さてと、あいつらが謎の展開の速さでうまくいくとは思えないが、足がかりぐらいにはなるだろう。
幼馴染か、その他もろもろの条件の下地があるのだろうからな。
「放しなさいって!」
……多分。
教室に入って、一年の席に座る。
「あ、翔さんです」
来たのは魔術学を受けている月夜と千花と悠と希である。
「おう」
挨拶を返す。
授業が始まるまで談笑を続ける。
先生が入ってきた瞬間に俺は渚を上にかざす。
硬質な音を立てて、俺の足が床にめり込む。
「お前、何協力してんだよ!」
「いや、葵がね。『転移』したらデートしてくれるって言うから」
「言ってない!」
振り下ろす力が強くなる。
おい!余計なこと言うな!!
「うるさく言うから、買い物に行く言っただけよ!」
「それをデートって言うんだよ」
だから、やめろ!
被害を被るのは俺だ!
と、いきなり圧力が消える。
「……校長先生!?」
「はいです?」
どうやら助かったらしい。
「やめちゃうのですか?」
え?
「やっていいんですか?」
ちょっと待て!
「面白いからありです!」
ありです、じゃないわ!!
「ぬお!」
手に力を入れる。
「って言うか、何で校長はここに?」
「魔術学の先生だからなのです」
なるほど。
「よそ見してるなんて余裕ですね」
「最初の授業はとりあえず魔術を使ってみようです」
嫌な予感。
「魔術媒体を使うと威力がでかすぎるので杖などは置いて使うのですよ」
「火魔術『炎舞』!」
「ちょっとそれはまずいだろ!」
至近距離で形成される術式。
葵のハンマーを跳ね上げる。
明らかにこいつの魔術媒体って、ハンマーだよな。
「『破魔』!」
術式ごと斬る。
葵が絶句する。
『主、何か知らんが狙われておるぞ』
「は?」
周りを見渡すと俺の方向に手が向いている。
しかも、術式を展開して。
ありえねぇ。
何故こっちを狙う。
『おい、月夜! あいつらに見せてる幻覚を解けよ!!』
相手の耳元に風で言葉を送る。
口の形の返事は、
『嫌よ』
わかってました。
わかってましたとも。
と、
俺にさらに追撃が来る。
しかもハンマーで。
後ろに逃げる。
が、
そこにあるのは壁。
ぶち破るか?
そおれしたら、間違いなく、説教コースだよな。
って言うか校長も止めろよ!
「『水の羽衣』」
さすがに無詠唱で相手にするには数が多い。
後は破魔で斬り続けるだけ。
が、
世の中とはそううまくはいかないようだ。
「どけ~!俺がやる」
ここで上のクラス参戦。
月夜がいるから可能性については考えていたが、タイミングが悪い。
「雷魔術『百雷』!」
でも、
ここで終わるようなやわな鍛え方はされていない!
「『天破絶爪』!」
回りに来ていた魔術もすべて吹き飛ばし切り裂く。
名前の通り、『天破』の進化系である。
そして、身体がかしぐ。
やべ、また、魔力使いすぎた。
未完成のまま、使ったからだろう。
目の前の色彩豊かな混合魔術
「……無事だといいな」
閃光と嵐と爆発が炸裂した。
……………………
…………
……
…?
痛くないぞ、校長が止めたのか?
疑問と共に目を開く。
……え?
目の前に立っていたのは、葵だった。
「すまない。もっと早く気がつくべきでした。あなたが的に見えてるということに」
「もっと早く気がついてほしかったな」
「無事だからよしとしよう」
「それは俺の台詞だ!」
そして、気づいた。
「お前無傷ってすごいな」
「柚木だな……空魔術『遮絶』をつかったんだろう」
そう言って、柚木を見る目は冷たい。
助けてもらったんじゃないのか?
「おい、これは何度も使うなと言っただろ! そんなに死にたいのか!」
……さっぱり理解できない。
「いや、これくらい大丈夫だって」
「そんなわけないって、いつも言ってるでしょ!」
わからん。
「どういうことだ?」
「創世魔術は、世界に干渉できる魔術です。が、それを使うには多大な魔力が必要です」
「ああ、それは前にも聞いた」
「そして、世界の変革は術者に代償を求めます」
「生命か?」
「そうです。人一人に使う分にはなにも問題ないでしょう。ですが、何度も使ったり大規模になるにつれて……」
「言わなくてもいい」
「すいません」
というわけで俺は
柚木をぶん殴った。
完全に予想外だったらしくきれいに決まる。
気絶したか……?
と、思ったら柚木の姿は消え後頭部に激痛が走る。
「お前、そんな事のために寿命使うなよ!」
ぶん殴る。
逃げないらしい。
踏ん張っている。
「これしか戦う術がないんだ!」
もはや、ただの殴り合い。
「なら、必要なときだけ使いやがれ!」
「大事なときに使いこなせない力で、好きな奴一人守れなかったら俺は後悔する!」
殴り返してくる。
「なら、その好きな奴はお前がそのむちゃくちゃな論理で死ぬ事を許容するのか!」
動揺したらしい。
きれいに入る。
「強くなれ! その力を使わなくていいくらいに!」
もう一撃加える。
「お前はここで終わるのかよ!」
俺の言葉に柚木の目に闘志が戻る。
そして、俺の一撃と柚木の一撃が交差した。
「俺はもうこんな面倒な事しないからな」
先に宣言しておく。
周りは静かだ。
「ああ、礼は言っておこう」
「あなたたち楽しそうですね」
大気も凍るような声。
「おい、逃げるぞ!」
「さっき使うなって言ったじゃないか!」
「そんなこと言ってたら、俺たちは死ぬぞ!」
と、背後からハンマーによる衝撃が襲う。
「馬鹿じゃないの!?」
葵もキレている。
前の副校長、後ろの葵。
「これ、終わったか?」
「お、奇遇だな。俺もそう思う」
「ご愁傷様なのです」
むかつくぞ、この校長!
『あなたもプリン抜きですよ』
校長が崩れ落ちる。
毎度、変わらぬ光景である。
「土魔術『修復』」
副校長の魔術により破壊された部分が直っていく。
さっきまでの惨状が嘘のようだ。
副校長がこっちを見る。
今回も俺は悪くない、と心の中で言い訳してみる。
「いいでしょう。授業の続きは私がやります」
「私がやるです!」
「次変なことしたら一ヶ月抜きですからね」
「うぐっ……やっぱりやめるです」
「はあ、そこはやりますって言うべきでしょう」
心の中で激しく同意する。
ああ
無気力結界のおかげでかなりだるい。
このままどこかで寝たいな……ずっと寝すぎな感はあるが。
そして、副校長が授業を始める。
うん、一言。
鬼畜だ。
っていうか、えぐすぎる。
最初の授業なのに殺す気か!
いろいろと口に出したいことはあるが自分の命は大事である。
……自重しよう。
こうして、授業は進んでいく。
あれ?
この作品ってこんな少年漫画みたいなシーンはいる余地あったっけ?