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神とともに歩む者  作者: mikibo
王都外出編
57/98

サバイバルという名のキャンプ 三日目

「ここで、大事な問題がひとつ」

「そうね」

「それが一番厄介じゃないでしょうか?」

「そうですね。僕たちは少なくとも後2つの罠を潜り抜けないといけません」


そう、

「やっぱり、いかにして戻るかだよな。仮に2つ潜り抜けたところで、帰れるかどうかは別問題だ」

「でも、行くしかないですよね?」

「そうだな」


うっそうとした矢の森を後にする。


「後2つはどういったものなんでしょうか?」

「さぁ、来たことないしわからん」

「ですね」

「そういえば、人骨ありませんでしたね?」

「ここに来るまでに死んだんじゃないか?」

「でも、地図があるのは不自然ですね」


確かにな。


「それにしたって一体この先に何があるんだろうな?」

「さぁ、こんな場所があるということすら知りませんでしたから」

「私もです」

「どっちにしたって、行くしかないでしょ?」

「そうだな。行けばわかるか」

「時間がありません。とりあえず、昼までには後二つの罠をくぐらないと、今日中に王都に帰るのは難しいかもしれませんね」

「それじゃあ、急ぎましょう」



夜明け前、先は暗い。

足元に気をつけながら走る。





そして、

徐々に空が白み始める頃。


「どうやら次はここのようですね」

「これって簡単だよな?」

「見た目で判断してはいけません」


目の前にあるのは向こうまで距離が30メートルぐらいある谷。

そこにかかっているのは一本のロープ。


「丈夫そうだし。いけるだろ?」

「魔術は使えないようですね」

「ここもそうなのですか?魔術が使えない僕には分かりませんでした」


千花の忠告を聞く。


「このロープは頑丈です。おそらく、美咲さんのダガーナイフを突き刺そうとしても刺さらないでしょう」

「そんなに硬いのか?」

「はい。ですから、気をつけるのは、矢やビッグイーグルなどの魔物だと思います」

「まず、俺が行く。俺一人ならとりあえず、飛ぶくらいはできるからな」

「お願いします」

「油断しちゃ駄目よ。何が起こるかわかんないんだから」

「美咲さんの言うとおりですね」


さて、

「行きますか」


足をロープの上に乗せる。

少し進んで、ジャンプして試す。


「切れてないと思うぞ」


元からの切れ目が無いか確認した後で走る。

とりあえず、何も無かった。


「ただこれだけみたいだ!」


振り向いて叫ぶ。

向こうでは順番を決めたらしく美咲がロープの上に乗るのが見える。

おもむろに走り出す。


後の二人もすぐに渡り終える。


「今回のは拍子抜けでしたね?」

「確かに物足りませんね」

「そうね。でも、これも何かあったに違いないわ」

「何かって?」

「ここにいた鳥類の魔物。ビッグイーグルの親玉、ガルーダみたいなのがね」

「そいつは今どこにいるんだ?」

「獲物を探しに行ってるか、おそらく……」


美咲が考え込んでしまった。


「行くぞ。時間がないしな」


また、暫く走り続ける。

「それにしても他の生物がいないとか不気味だな」

「多分、結界で切り離されているからなのでしょう」

「結界か……」

「むやみに破壊しようとしてはいけませんよ。破壊されたときの対策されているのもありますし」

「面倒だな」

「仕方ありません。結界を破壊するには、その核を破壊するか、結界強度を超える魔力をぶつけるかの二つしかありません」

「核ね」

「術者によって違いますから、何を使っているかなんて皆目見当もつかないのでどうしようもないんです」


あきらめろということか……。


「見えてきました。多分、あれが最後だと思います」


千花の声に前を見やる。





……は?



視線の先にいるのは、

長い尻尾、大きな翼、尖った牙、鋭い爪、煙の立ち上る顎。


「……ドラゴンですか?」

「ドラゴン?」

「災害級でSランク指定の魔物になってます」

「イレギュラーですね」

「どうします?」

『まぁ、とりあえずくつろぐといいんだな』

「そうだな……え゛!?」


誰だ今の声?


「誰かくつろぐって言ったか?」

「何言ってるの?」

「僕じゃないですね」

「それじゃあ……」


明の言葉にドラゴンの方を見る。


『なんだ?そんなに見られると恥ずかしいんだな』

「もしかしなくても喋ってます?」

『そうじゃな。念話というものだな』

「はぁ」

『おぬしは感度が高いようだな』

『まぁ、日常だしな』

「私には途切れ途切れにしか聞こえないんだけど?」

「私は聞き取りにくいですが、ちゃんと聞こえてます」

『波長が合ってないんだな』

「千花ちゃんが聞こえるのは、もしかして……」

「はい、父のおかげだと思います」

「僕もハーフだからでしょう。ちゃんと聞こえています」

「……私だけちゃんと聞こえてないの……?」


地面に手をついて落ち込んでいる。

美咲ってこんな芝居がかったやつだったか?


『大丈夫だな』

「……ッ!聞こえたわ」

『波長を合わせたんだな』

「で、何でここにいるんだ?」

『それは私の台詞なんだな』


きょとんとする俺たちに声がかかる。


「おう、お前らも来てたのか」

「冬樹、これいったいどういうことよ? ちゃんとわかるように説明してちょうだい」

「ん? 簡単な話だ。ここら辺いったいには、争いを好まない魔物たちが生息しているんだ」


こともなげに答える冬樹。


「そうですね。魔物たちは一般人から恐れられていますから」


こともなげに相槌を打つ明。


「それで、あんなに厳重な罠があったんですね」


こともなげに納得する千花。


「え……わからない俺はどうしたらいいんだ?」

「どうもしないわよ。で、これは国の依頼でいいの?」

「あぁ、そうなるな。一定期間あけて、Sクラスのやつらでここにきている」

『病気とか見てもらってるんだな』

「他にもいるのか?」

「いるぞ。ガルーダとかもそうだしな」

「もしかして、グランドワームとかもか?」

「あぁ、あいつもそうだな。最近は、暴れまわっていたから頭を冷やしてもらうために離れた場所に移したんだ」

「……僕たち倒してしまいました」

『問題ないんだな。あいつもそれくらいのことはわきまえてるんだな』

「死の責任ですか?」


千花が聞いたことのない言葉を発する。


『そうなんだな。命を狩るものは命を狩られることを覚悟する、これが真理なんだな』

「ってことは、そいつを殺した俺たちも……」

「殺した分、覚悟がいるってことね」


話の限りでは千花はそれを知っていたんだろう。

明もさっきから無言で頷いている。

美咲も生命に携わるものだ、聞いたことがないにせよ体得してるだろう。



……俺は……どうなのだろうか?

覚悟をしているだろうか?

俺は、昔も人を殺していたのだろうか?

だから、恨みを買って、斬られていたのだろうか?



答えは出ない。



『どうしたんだな?』

「いや、なんでもない」

「それよりも、もうそろそろ帰らないといけないのでは?」

「そうだったな。出る方法を教えてくれ」

「ん? そういえばどうやって入ったんだい?」

「いや、質問に答えてくれよ」

「あのですね。兵士さんたちが持っていた地図です」

「それだったら簡単だよ」

「魔術で開くんだ」


…………


……



沈黙。


「ごめん、普通の魔術使えなかったんだったね」

「普通じゃなくて悪かったな」


明から受け取った紙を冬樹が地面に置いた。


「魔術解凍!」


術式が展開されていく。


「ここは立ち入り禁止区域だから、もし誤って入った場合はこれ脱出するんだ」

「へぇ、助かった」

『また来るんだな』

「じゃあ、冬樹もまた」

「おう」


光に飛び込む。


「おぉ!」

「これは入り口ですね」

「早く戻りましょ」

「そうですね。他の人にも迷惑をかけていると思いますし」


明の懸念ももっともなので、移動を開始する。

まだ、完全に日は頂上に達していない。


「何とか昼前につけたな」

「久しぶりの町です」

「お腹がすいたわ」

「もう少し我慢してください」


勿論、腹が減ったと主張しているのは美咲である。






砦に行くと入り口に何人か入っていくのが見える。

挨拶しながら、中に入る。

階段を上り、執務室へ。

今はドジな蛍さんは見当たらないようだ。


「で、この三日。どこへ行ってたんだ?」

「いや、迷子になりまして」

「そうなのか?いや、地図が一枚なくなっててな」


沈黙。


「嬢ちゃんなんかあったらしいな」

「いろいろとね。詮索はご法度よ」

「わかった、わかった。報酬だ、受け取れ」

「おう、もう終わりでいいのか?何チームか戻ってきてなさそうだが?」

「問題ない。決まりを破って、皆、自分のチームを見に行ってるからな」


笑って言う。


「じゃあ、お暇させていただきます」

「おう、なんかあったら頼むぜ。もちろん、お前らも何かあったらできるだけのことはしてやるぞ」


礼をいい。

砦を後にする。


「さて帰る前に」

「ご飯ね」

「行きましょう」

「僕、いい店知ってますよ」

「そこへ行きましょう」


食事を取る。


「確かにうまかったな」

「ありがとうございます」

「腹ごしらえしたし、帰るか?」

「その前にお土産買って帰りませんか」


千花に提案されて、あの2人を顧みる。


「そうだな。あいつらはこの国も初めてだしな」

「そしたら、決まりですね」

「どういったものにしましょう?」

「食べ物は冷めてしまうから、今度一緒に来たときにしたらいいんじゃないか?」

「あんたにしては珍しく気が利くじゃない」

「いつもだろ」

「で、どうします?」


口論になりそうになったところを明がぶった切る。

なかなかやるな。


「そうですね……こんなのはどうでしょう?」


取り出したのは、きれいな石。


「……え?」

「これは?」

「いいんじゃない」


何がいいのかわからない。

っていうかどこで?


「千花わかるか?」

「いえ、さっぱりです」

「これはね。魔力石っていうの」

「はぁ」

「主に大きな魔力溜りの近くにできる魔力の結晶です」

「この国に大きい魔力溜りがあるのは三箇所。王都の北の都市、テュラストのさらに北、アクレシア皇国との国境にあるバルス山脈、王都の地下深くとここよ」

「王都でも買えるんじゃないのか?」


ここ以外でも買えるのなら

お土産としては不適格ではないのか。


「お土産となりえる理由は二つよ。1つ目は魔力溜りは土地によってその性質が違う。もう1つは、政治的問題」

「どんな?」

「ここなんかは完全に私たちの国にあるわ。でも、北の魔力溜りは国境にあって……」

「個人は採掘できないと?」

「そういうことね」


俺の考えが肯定される。


「ってことは……」

「王都は国の中枢であり、魔力溜りは魔物を生む存在でもあるから一般人を入れるわけには行かないということですね」

「そういうことです」

「で、ちなみにどういう性質があるんだ?」

「王都の方は光る性質があるの」

「光る?」


俺が聞き返す。


「うん。まぁ、軽く見ただけだからあれだけど、普通のランプぐらいの明るさはあったわ」

「便利だな」

「高いから買えないけどね。ほとんどが魔道具になっているわよ」

「そんなに高くして誰が買うんだよ?」

「貴族ですね。自分のステータスになりますから」

「なるほどな」

「ところで、魔力石はそのままもっていても意味がありません」

「え?」

「これに刻印をする事で効果を発します」

「刻印か……」


それなら知っている。

前にもやった。


「千花さんのペンダントに使われているような普通の鉱石にも刻む事ができます」

「へぇ」


そのペンダントを見やる。


「魔力石はいわば魔力の塊です。内包する魔力を使えば、簡単な魔術ぐらいは使えます」

「明さん、その魔力石というのはミスリルと同じなんですか?」

「そうですね……ミスリルと魔力石は、魔力を蓄積できると言う点では同じですね」

「違うところはあるのか?」

「えぇ、もちろん。ミスリルは加工がしやすく、空気中の魔力を回収するという能力があります」

「ほぉ」

「魔力石は加工がしにくく、使えば使うほどなくなってしまいます」

「……魔力石って欠点しかないんですか?」

「そんな事はありません。硬度が高く、市販の剣では傷すら作れません」

「防具にもってこいだな」

「しかも、ミスリルと違ってその硬度の高さから、上級魔術まで刻印する事ができるんです」

「ん?それならミスリルってどれくらいのものが刻めるんだ?」

「そうですね。普通の武器では初級の中くらいまで、ミスリルでも中級の……これも中くらいしか刻めません」

「なるほど。で、ここの特性は?」

「これです」


差し出されたのを見る。


「触ってもらえます?」

「あぁ」


言われたとおり触れるが何もない。


「何も起きないが?」

「行きます。千花さん、これに魔力を流してください」

「はい……これでいいですか?」

「結構です」

「翔さん、もう一度触ってもらえます?」

「あぁ……ッ!」


触れた瞬間に痛みが走る。


「な、なんだ?」

「これは、魔力で自分のものにできるんです」

「他のはできないのか?」

「できません。これだけが特別です」

「おぉ」


っていうか、何故、俺が実験台?


「要するに、それは千花ちゃん専用になったってことよ」

「なるほどな」

「お土産だけじゃなくて皆さんの分もありますから」

「おぉ、ありがたくもらっとく」

「僕は20歳を待たないと魔力を外に出してはいけないので、個人用にはできないのが残念ですね」

「ところで、これって売ったら高いのか?」

「いえ、高くないですよ」

「こんな凄いものなのにか?」

「えぇ、刻印のランクや種類、数で値段が変わってくるんです」

「どうしてだ?」

「あんたは自分の手の内を他人にばらしたい?」

「いや……そんなことはないが」

「これには、自分の持っている魔術しか刻印できないわ」

「そういうことね」


自分が使える魔術を刻む必要は無い。

それにおいそれと他人に自分の魔術は渡せないってことか。


「で……誰が刻印するんだ?」

「僕の知り合いにやってくれる人がいるんで、そこにお願いしに行きます」

「行くか?」

「大丈夫です。僕一人で行ってきます。先に戻っておいてください」


と、言い残して走っていった。


「行くか?」

「そうね」

「行きましょう」


と、歩き出そうとして前をふさがれる。

着崩した服装にナイフをちらつかせている。


「なんだ?」

「おい、そこの女どもを……ガッ!」


なんかむかつくので、殴り飛ばした。


「にゃろ! このアマが! 行くぞ!」


一斉にナイフを出して、突っ込んでくる。

そんなことしたら、捕まるだろうに。

っていうか、俺は女じゃない!

と、考えながら手刀を落とす。

隣では


「そんな使い方したらナイフが可哀想じゃない」


とか言いながら、刃の部分を切り落としていく。


「あれってダガーの速度か?」


反対側では、おとなしそうに見えるからか千花に向かって数人が飛び掛っている。


「ご愁傷様。このチームは……」


千花の手首に巻いていた布が閃く。


「女が一番怖いんだ」


数人が吹き飛ばされる。

到底布が出せる力には思えないんだが……気にしない。


倒れている奴らを放置して歩き出し

……頭上から来た斬撃を渚の鞘で受ける。


「マジかよ」


明らかにさっきまでの奴らとは力量が違う。

怪しげなフードをかぶっていて姿はわからない。


「美咲みたいな格好だな」

「あんた斬るわよ」

「冗談だろ……?」

「本気よ」

「すいません」


と、行ってる最中に斬りかかってくる。


切り下げ、切り上げ、切り下げ、薙ぎ。

1歩下がって、2歩下がって、飛び退る。


「剣筋がきれいですね」

「千花ちゃん、これ食べる? 買ってきたんだけど」

「お茶会に俺も混ぜろよ!ぬわッ!」


伏せる。


「悪手です」


千花の指摘がくる。


「大丈夫……だ!」


振り下ろしを渚で受け止め、押し返す。

剣圧でフードを吹き飛ばして……


「え?」


紫がかった髪が広がる。


「女?」

「あんたに言われたくないわよ」

「姫様はいったい何をなさってるんですか?」


美咲の冷ややかな指摘……


「は? 姫?」

「そうよ。なんか文句ある?

「いえ、ないです」


っていうか、麻奈花は前に実戦経験が無いとか言ってなかったか?


「剣筋がきれいだったのはそういうことだったんですね」

「で、何でまた俺を狙った?」

「私と同じように女で剣を使ってるから試しただけよ」

「だから、俺は男だって言ってるだろうが!」

「そうなの? 初めて聞いたんだけど?」

「……あ。初めてだ」

「殴っていい?」

「いや、待て早まるな」


初対面を殴るとかどういう神経……殴りかかる以前に斬りかかって来ていたが。


「あれ? 皆さん何面白いことやってるんですか?」

「明か? 早すぎじゃないか?」

「いえ、頼む人がいつものところにいなかったもので、探しにきたんですよ」

「ひ、人違いじゃない?」


目の前の姫が挙動不審だ。

何も聞かれてないのに自分から名乗りでるとか……。


「僕は人の気も見えますから。間違えませんよ」

「いや、いまさらフードかぶってもわかると思うぞ」


俺の言葉にかぶりかけたフードをしぶしぶ下ろす。


「高位の刻印が使えたのはそういうことでしたか」

「王族は基本的な魔術全般を学ぶからね。例外もあるけど」


美咲の言葉に月夜の家族を思い浮かべる。

……この国の未来が不安です。


「それにしても、こんなところに護衛もつけずにいてもいいの?」

「私強いし、無魔術『幻姿フェィルズ』を琴音さんに刻んでもらってるから」


魔力石すごいな。

地味に自分の強さをアピールしているのは無視。

ん?


「なんで、姫だってわかったんだ?」

「え? あぁ、私には妨害を行うような効果は無効化しちゃうから」


美咲の知られざる真実……ってことは、魔力無効化も効かないって事か。

なるほど、だから、あの森でも魔術が使えたんだな。


「僕も千花さんも気で見てますし」

「じゃあ、何で今まで気がつかなかったんだ?」


不自然ではないか?


「その怪しげなローブの効果ですね。おそらく着たら、気の放出が抑えられるんでしょう」

「そういうことか」

「翔さんは観えたんですよね?」

「あぁ、観えたな」

「何が見えたのよ?」

「魔力が観えたんだ。俺の特技とでもいったところか?」

「そうなの」

「で、これからどうするんだ?」

「刻むわよ。出しなさい」


何をかは聞かずともわかったので、皆それぞれ取り出す。


「とりあえず、全員に空魔術『断空リジェクション』を刻んどくわ」

「この2つに光魔術『聖域サンクチュアリ』をお願い」

「僕は風魔術『加速アクセル』を重ねがけで」

「俺は……水魔術『快癒ヒール』で」

「あなたたち遠慮ってものがないの?」


ぐっ!


「わ、私も頼んでいいですか?」

「いいわよ!」


千花だけ何故に扱いが違う!


「えっと、火魔術『陽炎ミラージュ』をお願いします」

「はいはい、お得意様だし、おまけもあげちゃうわ」

「ホントですか?」

「えぇ、闇魔術『吸魔スポイル』も刻んであげるわ」

「それって……」

「魔力がなくなっても放っておけば使えるってことよ」

「でも、明さんはこれまで使ってるの見たことないですが?」

「石の大きさと質が足りなかったのよ。闇魔術『吸魔スポイル』だけあっても魔術が使えなくちゃ、意味がなかったしね」

「そうですね。この質の石は奥深くまで行ったときに見つけたものですから」


貯めた魔力を使えないんだから、仕方ないな。


「それに、これを職業にしてたら……ね」

「半永久的に使えるのはまずい……か」

「そういうこと、ほかの人には言わないでよ」

「誰か知ってる人はいるのか?」

「……ん……麻奈花さんくらいね」


やっぱり知っていたか。

当たり前すぎて、驚きすら沸かないな。


「無魔術『刻印マーキング』」

「おぉ」


自分の持っている石が光を放った。


「いくらだ?」

「え?あぁ、別にいいわよ。うちの国、財政難ってわけじゃないし、気まぐれで明のも作ってだけだし」

「ありがとうございます」

「やっぱり、この子をお代でどう?」

「却下よ!!」


美咲が突然声を上げる。


「いや、至近距離でそんなに叫ばなくても」

「あんたに千花ちゃんは渡さないわ!!」

「あら、私とやろうっていうの?」


美咲がダガーを、姫が剣を抜く。


「ふぇ?」


千花は状況に頭が追いついてないらしい。

戦闘のときの判断力はどこへいったんだ?

俺が美咲の、明が姫の武器を受け止める。


「何でとめるのよ!」

「いやいや、普通に考えて国と事を構えるなよ」

「千花ちゃんのためなら」


つっこんでいいのか?

これとつっこんでいいよな?

一分ほど膠着状態が続き、突然後ろの殺気が消える。


「何であいつ顔が赤いんだ?」

「僕にはわかりません。斬りかかっても動きを見切れるように目を合わせていただけなのですが」


『それが原因じゃな』

『どういうこと?』

『さてな』


いきなり話しかけてきた渚は疑問に答えなかった。


「で、姫さんはこれからどうするんだ?」

「私は……」

「見つけましたぞ! 皆の者かかれ! 姫様を侮ってはならんぞ!」

「私は逃げるわね。これを義妹に渡してちょうだい」


と、俺に魔力石を渡すと、走っていってしまった。

姫さん、運動能力高いな。

多分連れ戻しに来たであろう兵士たちも必死そうだ。

騒々しい音を立てて、走り去っていく。


「帰るか?」

「そうね」

「刻印もしていただきましたし」

「僕も賛成です」

「でもな……」






帰りは歩きである。



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