サバイバルという名のキャンプ 一日目
現在、サバイバル試験が始まってから、数分。
昼の日差しで少し汗ばんできている。
ジャケットの効果で、大したことではないが。
「これってほんとに役に立つのか?」
「初めはみんなこんなものですよ」
試行錯誤しながら、テントなどを張っていく兵たち。
誰も、今までやったことがないのが丸分かりである。
「俺たちは、九十九さんという完全無欠の先生に俺一人だけで教えられたからな」
「僕は初めから知ってましたし、美咲さんも冒険者に成り立てというわけではないですし、千花さんに関しては龍炎さんが手を抜くわけないですからね」
確かに、俺だけ……記憶喪失のせいでということにしておこう。
「この光景を見てて思うのだが、この国って大丈夫なのか?」
ここの練度はそんなに高くない。
というより、むしろ低いのではないだろうか?
「ここはほんとに新米ですから、最終的には4人であの山に置いてかれるみたいですよ」
「あぁ、俺たちが過ごしたあの地獄の場所か……」
あそこは、図鑑で見たのよりも数倍大きな魔物が徘徊していた。
「大体、3年ぐらい先ですけど」
「そこまでに叩き込むと……」
「学校へ行っていないものがほとんどらしいですから、学業と並行して、訓練が行われるそうです」
「俺たちもそろそろ行くところにあいつらの顔ぶれはあると?」
「多分そうですね」
今、目の前の光景はクラトバール山の前12ヵ所で見られる。
2箇所は俺たちがひとつずつ請け負っている。
千花と美咲は女性グループと行動中だ。
千花、強く生きろよ。
出掛けに数人の女性に囲まれて、抱えられて、連れ去られていってた。
首謀者は、恐らく美咲で間違いないだろう。
「目の前にいるやつらは全部で10チームの40人。かけているやつはいない……と」
3日以内に決められたチェックポイントを5箇所回る。
どのチームも他のやつらと出会わないようにチェックポイントも別にしてある。
だが、
「テントをたてるの7分以上かかったら、始められないって言うのも大変だよな」
「そうですね」
一時間経過
先ほどの喜々とした様子はない。
期間は3日であり、当然ながら、
今日テントを初めて触ったやつが夜に手探りでテントを張ることはできないだろう。
二時間経過
早くも疲労の様子が見られる。
出すだけならともかく。
成功しなかったら、テントをたたんでもう一度挑戦しなければならない。
三時間経過
初めての合格。
「合格。これが君たちの回る場所だ」
監督者が地図を渡す。
「罠も張っておいたから気をつけるように、
怪我をすることはないが時間をとられるようなものが多いからな」
四時間経過
残っているのは半数を切った。
後30秒足りずにやり直しているチームがあった。
五時間経過
「よし、がんばってくれよ」
最後の一チームを送り出す。
日没までに全員送り出すことに成功した。
「お疲れ様です」
「あぁ」
それと、同時に
周りで見ていた指導員から安堵の息が漏れる。
自分の教えていたチームが何とか最初の難関を突破したからだろう。
この山に昨日の夕方から設置した罠はさまざまである。
罠について何も知らない俺はとても興味津々だった。
無論、使う罠は非殺傷のものばかりであったが。
落とし穴や丸太が落ちてくる設置型の物。
かかった瞬間に拘束魔術が発動する物。
魔術無効化の常駐型の結界。
麻痺毒の吹き矢。
などが
多数仕掛けられている。
俺みたいに常時魔術の壁が張れたり、空が飛べたり、感知できたり
あるいは
明みたいに気による超回復能力があったりする
なら別だろうが
そんなことのできない彼らは1つ1つ解除または回避して行かないといけない。
当たり前のことだが、解除には時間がかかる。
必然的に回避を行わなければならない。
さて、
どうなることやら。
指導兵は自分のチームを陰から不測の事態に備えて監視という名目で応援しに行った。
……暇だ。
というわけで、
俺たちも予備のルートを使うことにしました。
当然のことだが、空飛んで……というのは無しである。
まずはテントの空き地に下りる。
「暇つぶしになるといいな」
合格して残った地図らしきものが置かれていたので、それを一枚もらっていく。
「気をつけなさいよ。あんたは初心者なんだから」
「あぁ」
空き地から森へと足を踏み入れる。
と、
同時に前に飛び込む。
土に何かがあたる鈍い音が響く。
その音に振り向くと自分が寸前に立っていたところに矢が突き刺さっている。
「これは結界内に入った瞬間に飛んでくる仕掛けのものですね」
入った瞬間とか陰湿だな。
「気をつけてっていったでしょ?」
「ああ」
さっきは生返事だったが、今度は実感がこもっている。
下手したら死んでたかもしれん。
「『天羽』」
自分の無知が恐ろしい。
こんな罠が普通だったら、この先死ぬかもしれない。
あくまでも予防線だ。
だが、十分だろう。
さらに進む。
五分経過
まださっきの空き地が見える。
「ここほんとにどうなってるんだ?」
「確かに100m進むのに1人大体200本の矢が飛んでくるって言うのは普通ではないですね」
「やっぱり普通じゃないよな?」
「何かの間違いじゃないの?」
「この矢は魔力で出来ていて、魔力溜りを源としているため、ほぼ無制限で撃てるようです」
千花の推測に驚きすぎて言葉が出ない。
「走るか?」
「そうですね。おそらく、その方が大丈夫だと思います」
「術式は?」
「木魔術『毒矢』です」
「毒は厄介ね」
と、
言いながらダガーで弾く。
「僕が先頭に立ちます。普通の毒なら気で浄化できますので」
一定の間隔をあけて走る。
前を走っている明に向かっていった矢が俺に当たったらしゃれにならないからな。
目の前に刺さっていく矢を飛び越していく。
しばらく走ると、刺突音は消えた。
どうやら、この領域は抜けたらしい。
と、思ったら
何もないのに気配がある広場があった。
「ん?」
「どうしました?」
「この広場ってなんかあるのか?」
顔の横をダガーが通過していく。
「あぶな!」
と、
金属が弾かれる高音が鳴る。
「透明な迷路のようですね。それ以外には何も仕掛けが無いように思われますが」
「試してみましょう」
「ん?何する気だ?」
底にある石を取って
「えい!」
声に似合わぬ速度で飛んでいく。
今度は鈍い音を立てて砕け散る。
「速っ!」
「制御できないので美咲さんほどは役に立たないですが」
「さすが、私の千花ちゃん。砦の奴らには絶対渡さないわ!」
「はわわ」
女って怖い……。
こんなところにいても埒が明かないので踏み込む
……なんて浅はかなことはせずに『天羽』で探る。
どうやら目の前の広場にはサイコロの様な四角い形をしているらしい。
その内部もすべて仕切られており20×20×20マスの立体迷路になっており、迷路ではなく一本道である。
さらに1マスは一辺が大体2メートルであり、その広場の広さと尋常ではない高さがうかがえる。
罠もなさそうだが、
「面倒だぞ」
「行きますか」
そして、
3時間経過。
目の前にゴールの気配。
当然、ただじゃ通れない。
目の前にはマスをいっぱいまで使った40メートルの壁。
ちょっと高い。
「行きます」
「僕も」
千花は獣族の力で、明は気の力で。
どちらにせよ人間業じゃないと思うんだがな。
美咲も壁を蹴って、上に向かおうとしたところで、滑った。
「何よ、この壁!油なんて」
落ちてきた美咲を受け止める。
多分、必要なかったと思うが。
「面倒だろ?行くぞ」
「え?ちょ……下ろしなさいよ!」
「下ろしたら、超えられないだろ。」
『天羽』を具現化し、一気に上る。
反対側へ降りる。
「べ、別にお礼なんていわないんだから!」
『別世界ではこういう行動にも名前があるらしいぞよ』
『ほぉ』
『ツンドラと言うらしい』
『ツンドラと言うのか……』
『なんでもツンツンドラドラと言う意味らしい』
『ツンツンはわかるんだが、ドラドラって何だ?』
『わしも聞いたことがあるだけで詳しくは知らんのじゃ。どうじゃ見直したか?』
『全然』
『……』
『嘘だ』
『……』
『ごめん』
『わしは寝る』
音信不通になった。
「……やく…しな……よ!」
「んあ?」
美咲に意識を戻す。
「早く下ろしなさいって言ってるでしょ!」
その声と同時に体が吹き飛ばされる。
「ぐは!」
倒れてる俺に声がかかる。
「食事は薬草のスープでいいですか?」
「それよりも起こしてくれ」
「あ、すいません」
明の手を借り起きる。
「美咲」
「……な、何よ!あんたがずっとそのままだったのが悪いんじゃないのよ!」
マジか!?
俺のせい?
「まぁ、いいか」
「いいのですか?」
「で、これからどうする?地図的には後5つくらい罠がありそうなんだが?」
「面倒だけど、面白そうだし。このまま行きましょ」
手渡されたスープをすする。
結構、美味い。
今日はここで休む。
「見張りはどうするの?」
「俺と明でいいか?」
「えぇ、問題ないです」
「というわけだ」
「そう、じゃあ。テント立ててくるわ」
数分後
「私はこのまま寝るわ」
「私も休ませていただきます」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
2人は張っておいたテントに入っていく。
千花の悲鳴が聞こえてきたような気がするが、気のせいだろう。
「暇だな。で、どっちが先にする?」
「僕はどちらでも」
「俺が先に行くわ」
「それではよろしくお願いします。この木が燃え尽きたあたりがちょうど4時間ぐらいです」
と、
寝に行ってしまった。
いつものように
『紅蓮』を具現化しながら、ボーっとしておく。
寂しく静かな夜の帳が下りた世界。
風さえも息を潜めている。
そして、
見上げた空には星が輝いている。
『紅蓮』は消したが焚き火の明るさが邪魔である。
ため息をつかずにはいられない。
この時期はあまり雨が降らないと聞いているので
明日にでも見れるといいのだがな。
焚き火を見て、テントに入る。
またも、気配で起きたらしい。
「交代ですか?」
「おう。いつの間にか時間がたっていたらしいな」
明が空を見上げる。
「星がきれいですね」
「だな」
「北に行くと空気がもっと澄んでいてこれ以上にきれいに見えますよ」
「暇があれば行ってみたいな」
「そうですね。そのときはみんなで行きましょう」
「じゃ、俺は」
「はい。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
テントに入り、眠りに落ちる。
大体
立体迷路(?)で歩いた距離は40mの道が20本それが20段で
16000m換算すると16km
意外と長いです
誤字ではないですよ!
ツンドラ
私の意図を離れてツンデレもどきになった美咲……どうしよう