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神とともに歩む者  作者: mikibo
初仕事編
42/98

今日は誕生パーティー 準備・上

  SIDE 翔



朝、早く起きる。

ここに来てからの日課だ。

しかし今日はいつもと違う。



自分に向かってきた拳を鞘に入れたままで、受け流す。

そのまま、渚を振る。

キーンッ!

高い音を立ててはじかれる。

相手の拳には黒い鱗から作られたこてが装着されている。

後ろに下がり体勢を立て直し、地面を蹴って前に出る。

相手の速度は速い。

瞬きをしているともっていかれる位にだ。



そんなギリギリの状況。



向こうの地面がえぐれる。

こっちに仕掛けてくる気だろう。


それを見て、居合いの構えで振る。

もちろん、鞘に入れたままだ。

間合いに入れた瞬間、翻ってかわされる。



「さて、準備運動はこれくらいでいいか?」

「そうですね」


なにかの拍子に抜けては困るので模擬刀に持ち替える。

ここからは力を使う。


ルールは竜化と異能の使用なしだ。

ただし、竜族特有の身体能力と俺の技は許可された。


千花は勘違いしていたのだが、『天破』とか『旋風』は天羽特有の技ではない。

知っているが使えないので、あまり意味はないのだがひとつの刀にはひとつの技がある。

一種の奥義みたいなものだ。


さて、俺自身の技は『天破』と『旋風』しか覚えていないので、大したことはできない。

が、目の前の明は違うだろう。


「では、行きますね」


と、残像を残す。

体はギリギリ反応するが、明の移動速度の余波により跳ね飛ばされる

が、しっかり受身を取る。


「チッ!」


舌打ちしながら、立ち上がって跳び退る。

俺自身の技は効率が悪いせいか、刀の具現化と一緒で渚がいないと回数は使えない。

っていうか、千花はこいつにどうやって勝っただろうな?

気配だけを頼りに、刀を振る。

手ごたえはない。

と、目の前に明が5人いる。

魔術は無しと言ったから、これは魔術ではない。

それに明は魔術が使えない。

気ではそんなことできないといっていたので、


『技』か…。


「断ち切れ 『旋風』」


広範囲であるからかわすのは難しいのに、2人しか斬れなかった。


「行きます」


と、3人同時攻撃を仕掛けてくる。


かわすのが精一杯だ。

それも、いつまで持つかわからない。

自分の左手で受け止めて、1人を吹き飛ばす。

地面にたたきつけられた衝撃で、消える。

さっきのように増える技は難しいのだろうか?

あと2人なのに、使ってこない。

だが、相手の動きが速い。

当たらないんじゃ意味がない。


考えろ。



相手の攻撃を受け流し、振る。

はずれか。

だが、後ろに飛んでいるならば、かわせないだろう。


「『天破』!」


あと1人、残すは本物だ。



追いつく方法は今のところない。

ならば、

追いつけるように止めるしかない。


明がこちらに突っ込んでくる。


『旋風』は切断能力だ。

ならば、

『旋風』の範囲を狭くして

密度を上げる。


新たな技につけた名前は

「『地砕』!」


ぶつける先は




地面だ。


俺の前に捲れあがった地面の即席の壁ができる。

明の姿は見えないが、


「『天破』!」


その壁を吹き飛ばした。


止まっていれば、こちらの勝ち、さすがの拳でも反応できなければ同じだ。


土煙が引くと、あちこちぼろぼろな明の姿。

そして、掻き消える。


「『崩拳ほうけん』!」

「…ッ!そう、うまくはいかんか……」


瓦礫が吹き飛び、こっちへ向かう一撃を反射で避ける。

やっぱり耐えるか。

止める方法がだめなら、自分の速度を上げるしかない。

足に『天破』をイメージして、攻撃直後のわずかの硬直の間に突っ込む。


一か八かの勝負。


それは成功し、刀をのど元に突きつける。



「降参です」


明の声と同時に模擬刀が砕ける。


「いや、俺の負けだな」


明の武器こぶしは健在、それに対して武器かたなが折れた俺。

どちらが有利かは日の目を見るよりも明らか。

だから、俺の負け。


「じゃあ、引き分けですね。僕はもう動けません。『分身』と『駆動』に『崩拳』を使ったんで体力がきれたんです」

「でも、お前には円月輪があるんだろ?」


与えられるものには興味がない。


「そうですが、この高速機動で円月輪よりも早く動ける人にはむしろ使えないんで同じですね。むしろ、体が重くなる分不利ではないかと」

「それ以上言わせるのは恥ですよ」


九十九さんがやって来る。


「それじゃ、また、次の機会にでも」

「今度は勝つぞ」

「負けませんよ」


そして、九十九さんにアドバイスをもらう。


「明様はまず、体力が必要です。それと気を操る方法も効率が悪いです。『分身』なら効率を上げるだけで、今の2倍から3倍は容易に可能になります。それに、気の消費を恐れて、細かな技ばかり使うのはやめた方がいいですよ。力負けします」

「はい」


次は俺の番か。


「翔様は、戦闘中の開発力は素晴らしいのですが、根本的な身体能力が足りません」


確かに

「魔力も無限ではなく、また、気と違って現在の技術ではそれを封じることができます」


ってことは、純粋な身体能力だけじゃ、魔力でそれを補えないところに追い込まれたときが不利ってことか。

瞬時に頭を切り替えて、明の方を向く。


「さて、今日は街に出ますか」

「そうですね」


お願いして少しパンをもらう。


「いってらしゃいませ」


出てきたはいいけど、どうやって中に入ろうか?

そんなことを迷路の生垣をふり返りながら考える。



見上げると空が明るみだしている。





通りへ出ると人がごった返している。


「朝早いっていうか、日も完全に出てないのに何でこんなに人が多いんだよ……」


初めてこの街に足を踏み入れた時も、前に武器などを見てまわった時もここまで人はいなかった。

そんな不満も喧騒にかき消されていくが、隣にいた明には聞こえたらしい。


「そんな朝だからですよ。今日出す売り物を行商人から買ったり、牧場や農家から持ってきたりする人たちが多いからですね」

「なるほどな」

「兄ちゃんたち、邪魔だからどいてくれ!」


大男が荷車を引いている。


「すまん」


即座に謝って、その行く先をふさぐまいと避ける。


「あんたたち邪魔だよッ!」


今度は恰幅のいいおばさん。


「すいません」


今度は明が謝る。


「とりあえず、ここを抜けよう」

「そうですね」


広場に出た。


ここはさっきと打って変わって閑散としている。

というより、まだ住民が寝ているのだ。

時計台を見上げる。


「まだ、7時になっていないんじゃ仕方ないか」

「そうですね」

「そうだ、暇だし。円月輪見るか?」


昨日の千花との戦いで、割れたらしい。


聖布、恐るべし。


「確か、西通りですよね?遠くありませんか?」


西通りまで行くのは確かに遠い、現在いるのは、南通りの中間部に位置する広場だ。


「いや、ここにはもうひとつ店があるんだ」

と、扉を開けて中に入る。


相変わらず、暑いな。

外は少し肌寒いくらいなのに、ここは汗ばむほどだ。


「なんか用か?」

「俺じゃなくて、こっちだ」

と、後ろにいる明を指さす。


「投擲用武器なんて、内には置いておらん。武器は使い捨てるもんじゃないからな」


偏屈だ。


「そうですか」


ん?…初見で投擲用武器だって言ってきたところに突っ込み入れないのか?


「円月輪って使い捨てなのか?」

「ほぉ、また珍しいものを使っておるな」


腰の高さぐらいまでしかない少女が通っていく。

赤い髪に白いワンピース。


「朱里か」


名前に反応してこっちへ歩いてくる。

見上げてにっこり笑うので撫でてやる。


「どうしたんですか?」


ますます、笑って主の元へ帰っていく。


「朱里は女の子だ」

「?」

どうやら見えないらしい。


「かすかな気の揺らぎが見えますがぜんぜんわからないですね。なんなんですか?」

「精霊じゃよ」

「?」

「見えるものも稀じゃから、放置しておったんじゃがな」


それならば

「光さんも見えたんじゃないんですか?」

「あれは、赤い人型がいるって言っておったな」

なるほど、俺よりは見えないってことか……


なんか優越感。


朱里が爺さんに背伸びして耳元で何か言う。


「仕方がないのぅ。朱里の頼みだ。作ってやろう」


朱里が飛び跳ねている。


「ただし、大事に使えよ。さもなくば、叩き壊しに行くからな」

「わかりました」


明が神妙な顔をして頷く。


扉を開けて外に出ると


寒い。


「温度差か…」

「そうですね。あっ、見てください」


さっきよりも人通りが落ち着いている。


「何、買うべきだろうな?ほとんど初対面だぞ?」

「そうですね。無難にアクセサリーといきたいところですが、そこは女性陣がカバーしているでしょう」


確かに、美咲は知らないが、千花はネックレスを買ったとかいってたな


「どうするんだ?自慢じゃないが俺は記憶がない」

「そういえば、ギルドカードにも表記されていましたね。そうですね……僕もこんなことは初めてなのでわかりかねます」

「町を歩いて、適当になんか探そうぜ。考えていたって仕方ないしな」

「そうですね。ここからは別行動にしましょう。同じものを買うわけにもいきませんし」


その通りだな。


「じゃ」


別れて辺りをぶらつく。



お菓子を売っている屋台が多い。

しかし、あのレベルの料理が出るんだから、それも却下か……

困ったな。

花とかは……枯れるだろうしな。

大体何選んでいいのか分からん。

できたらお金で買えないものがいいんだが、そんなものが売っているわけもない。

どうしたものか……

花屋を一瞥してから、再び辺りをぶらつく。

あてどなくさまよううちに、知らない道に入り込んでしまったようだ。

すべてが知らない道なのだが。


「これが裏通りってやつか?」


辺りを眺めながら、歩いていく。

前の方から走ってきた自分の腰くらいまでしかない少年に体当たりされる。


「大丈夫か?」


起こしてやると何も言わず青いぼさぼさの髪を翻して走り去っていった。


「無愛想なやつだな」

「おい、お前無くなっている物はないか?」


俺に話しかけてきたのは人相の悪そうなたとえるならそう……ごろつきって感じの奴らだ。

数は三人。


「無いが」

「財布でも確認するんだな」

手で探る。

「あ!財布が……」


「坊主、教えてやったんだから、礼もしてくれるんだよな?」

「当然だよな」


「無いと言うとでも?」


って言うか、すられていたら礼もできないだろうに。

俺の手には巾着袋が乗っている。


「裏通りとはいえ、それなりに道は広いし別に曲がり角でもないんだから、ぶつかってくるやつに違和感を覚えるのは当然だろ?ましてや、変な動きをしていた気づくさ」


少年にスられたので、スリ返しただけだ。

まぁ、ポケットに金貨一枚入れてやったから生活していくには十分だろう。


「じゃ、ここ通らしてもらうぞ」

「ガキが調子に乗りあがって」


馬鹿か?馬鹿なのか?

どういう展開で俺が調子乗ったことになっているんだ?

疑問を呈するまもなく、相手が突っ込んでくる。



俺の手に渚は無い。


それが相手にとって幸か不幸かは俺の知ったところではない。


遅すぎるパンチを避けてまっすぐ歩いていく。


止まらず、走らず、ただ真っ直ぐに。


相手に触れられた瞬間にその手をつかんで、勢いを利用して殴って投げる。



数秒後、俺の後ろには三人組が地面に寝ていた。




周りの好奇な視線を無視して歩く。

見回すと壊れかけの家やぼろぼろの小屋やごろつきのたまり場であろう酒場があった。


「ん、何も無いか」


きびすを返すとさっきの少年とそれより1,2歳年上に見える顔色の悪い赤みがかった黒髪の女の子が立っていた。


「ほら、ゆう

「なんでだよ!」

「ゆ~う。ゴホッ、ゴホッ!」

「分かったよ」


悠と呼ばれた少年はポケットから金貨を取り出す。


「はい」

「はいじゃないでしょ!」

「わかったよ。盗んでごめんなさい」

「弟がすいませんでした。なんでもしますから、悠だけは……」


ん?

話が見えない。

俺なんか……悪役か?

傍から見ると、金をせしめていじめているようにしか見えないだろう。


と、考えていると女の子の方が





血を吐いた。





「姉ちゃん!?」

「は?……ちょっと待てい!」


なんともマヌケな声である。

予想だにしなかったことが起きた。

さっきから、少し咳は気になっていたが、いきなりこれはないだろ


「何がどうなってだよ」

「肺病だよ。栄養状態が悪いからねぇ。あんた、そいつらの知り合いなんだろ?どっか離れた場所に連れて行っておくれ、うつされたらたまったもんじゃないからね」


周りにいるやつらも頷いている。


「おい、悠。ここら辺で一番近い医者はどこにいる?」


美咲に頼るつもりは無い。

頼むとしてもどうしようもないときだけだ。


「行ったことないから東通りにいることしか分からない」


っ!前言撤回だ。

素人目にも分かる一刻を争う状態だ。

仕方ないやってもらうか…。


「死にたくないやつは消えろ」


俺を中心に風を撒き散らす。

野次馬どもは酒場に避難する。


「うつされたくないんだったら、部屋にこもってろってんだよ」


俺が飛んでいるという目撃情報は極力減らす。


そして、

「はぁ~。悠、俺が死なないことを祈っとけよ」

「それはどういう!?」

「『天の雷』」


二人を抱えて、飛ぶ。


「うわあああああぁぁぁぁぁ~!」


叫ぶ悠の体を抱えている手とは逆の姉の方は気を失っているらしい。




轟音を伴って、庭先に落ちた。



ものの数秒でついた恐るべしこの力。

恐怖に顔を引きつらせている悠。


「あんたは何やってるのよ!!」

「おぉ、ちょうどいいところに来たな」


俺らがいないから、代わりに見回りをしていたであろう美咲がやってくる。


「何よ」

「こいつを治して欲しい」

「は?何言ってるのそんなもの医者に見せれば……って、ちょっとその子をおろしなさい」


言われたとおり、地面に横たわらせる。

何時に無く真剣な顔だ。


「男共は後ろ向いていなさい」


服を引き裂く音


「何で、こんなになるまで放っておいたのよ?」

「お金が無かったんだよ!」

「もう、末期症状じゃない」


悠の言葉は聞いていないようだ。


「助かるのか?」

「医者じゃ無理ね。翔、その子をここが見えないところに連れて行ってちょうだい。数分したら私を回収しに来て」


俺は悠を抱えて離れる。

どうやら、俺にも見せるつもりは無いらしい。



離れてから、直ぐに

懐かしい感覚とともに光が落ちた。




「なんだ?」




それから、数分して約束のとおり見に行くと美咲も倒れていた。

近くに行くと起き上がって


「疲れたわ。まったく、今日はゆっくりできると思っていたのに」

「あー、すまん」


謝罪はしておく。


「大丈夫なのか?」

「私を誰だと思っているの?」

「そうか……?……おい!もしも~し……寝てやがる。まったく寝てたらかわいいのにな」


と、

ここあってから数日ではかれた暴言の数々を思い返す。


「あーいや、寝ててもその時のことが思い出されて悲しくなってくるわ。」


美咲を右肩に乗せ、治っているようなので切り裂かれた服の方を見ないようにしてもう一人のほうも肩に乗せる。


「さすがに二人は厳しい」


と、完璧執事九十九さんに後を任せ再び買い物に出かける。


鳴り響く

時計塔の鐘の音を聞きながら








今度は何も起きませんように




見上げた空に願うのだった。



どなたか服の表現の仕方が勉強できそうな小説またはサイトを教えてください。

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