新たな仲間と続く仕事
Side 翔
食事の後
明もギルド証が渡され、食事の席に座ったままで俺たちは簡単に自己紹介を進めた。
いつもと違う気配、そして、風景。
目の端にとどまっている端整な顔立ち、いわゆる、ハンサム。
彼の名は明。
身長は大体俺と同じ。
年は16歳、やはり見た目通り同じ年だ。
円月輪と格闘の組み合わせと気を使って中近距離で戦うらしい。
そして、種族は竜族と人族のハーフ。
長寿族の血を引いているが、成長速度は人族と変わらないと言っているので多分人の血を多く受け継いだのだろう。
魔術は竜族の血の影響で、20歳になるまでは使えないらしい。
ひととおり、話が済んだところで明が解散しようと立ち上がる。
「おまちください。今回の依頼は、まだ達成されてはおりません」
琴音と月夜は、少ししたら戻ると言うことで、今は俺たちと九十九さんしかいない。
「今回の依頼とはどういうことですか?」
「明様はご存じないと思いますが、明日はお嬢様の誕生日なのです」
「そうなんですか?」
それまでいるのが俺たちの依頼だからな。
でも、俺たちは問題を起こしそうな気がする。
誕生日を祝うためにパーティーを開く上に立場を考えると来客数が多いはずだ。
やっぱり、問題を起こすだろうな。
同じことを二度考えることで、問題の重要性を認識する。
「僕もいていいですか?そのような経験がこの先できるかも分かりませんし」
「どうぞ、ご参加ください。多いほうがお嬢様もお喜びになるでしょう」
そして、俺が疑問に思っていたことを聞く。
「九十九さん」
「なにかご用ですか?」
「気になっていたことがあるんだけど」
一瞬、九十九さんの目がきらりと光ったような気がする。
「それは?」
「前回の襲撃に関してです。前回は今回よりも言っては何ですが強かったと思います。タイミングや連携、逃走の仕方まで。あの試験はいったい何のため?」
「まず、試験の日程は一日だけ、この入隊期間は一年の内、月夜様の誕生日までの一週間。これは、絶対です」
「ということは…」
俺は想像をめぐらせる。
「あの襲撃は本物ということですか?」
千花に先を越された。
「はい。そのとおりでございます」
「何の話ですか?」
そのことを知らない明に数日前の出来事を語る。
「すごいですね。美咲さんのお腹と同じくらい驚きです」
「それどういうことよ」
明も馴染んでいる……っていうか、馴染みすぎだろ。
で
「その後はどうなったんだ?」
「捕まりましたよ。龍炎さんが向かったそうです。この話はこれでいいでしょう。それと、そろそろその話し方は厳しいんじゃないですか?」
数日間、俺は九十九さんに丁寧語だったが……記憶を思い返すと、確かに少しずつだが口調が戻りつつある。
「すまない。無理だった。それに口調がかぶるしな」
「確かに僕とかぶってますね」
こちらの口調は天然だな。
そして、龍炎に出会ってしまった襲撃者たち、ご愁傷様だな。
「他のやつらはどうしたんだ?」
さすがに気絶したままって言うのもひどいしな。
「もう帰しましたよ。貴族の力をむやみに誇示しようとするものは、陽菜に制裁されました」
陽菜さん怖い。
「それと翔様」
「はい?」
「あの今朝の話は許可が下りました」
会話に首をかしげる周り。
「何の話?千花ちゃん分かる?」
「いえ。私も知りません」
「たぶん、僕はまったく関係ないだろうね」
そんな3人を放置して話を進める。
「期間は?」
「明後日から2週間です。ただし条件があるそうです」
「ほぉ」
条件か…何が出るやら。
「美咲様、千花様、明様、お嬢様の4人も連れて行くことと依頼を受けることの2つです」
「どうする?」
みんなを見る。
「だから、何の話よ?」
「僕は強くなることか面白いことならばいいですよ」
「いっちゃんも行くなら、私も行きます」
まともなのは、美咲だけか?
「修行だよ。まず、依頼の内容は?」
美咲以外の参加はとりあえず決定だろう。
そこで九十九さんが手紙を開く。
『え~。千花ちゃんは元気かな~?』
なんだこれは?
開かれた手紙の上で手のひらサイズの麻奈花が立っている。
『これを見ているって事は、無事にこの手紙が成功したってことだね?』
「すごいですね。彼女は、文面を立体に起こすことに成功したのですか」
九十九さんの感嘆が聞こえる。
『君たちには学園に入学してもらいます。もちろん身分は隠してだよ』
っていうかこいつの喋り方は子どm……
『翔君、秘密ばらすよ』
何、この文面心読むの?
って言うかあんたは俺の何を知っているんだよ!!
『さぁ?』
「手紙って会話もできるのかよ」
「その前に学園に行くってどういうことかを突っ込むべきではないかと思うんだけど?」
まったくもってその通りである。
「目的は?」
『東の通りにある一番大きい建物よ』
こういうときだけ手紙のふりするのか?
『ふりじゃなくてこれは手紙よ。そんなことできるわけないじゃない』
できてるじゃないか!!
『目的はあなたたちに常識や同年代のレベルを知ってもらうためと、学生という身分を使えるようにするためよ』
「学生という身分を使えるようにするっていうのはどういうことかしら?」
美咲の疑問はすぐに答えが返ってくる。
『学生という身分を使えば、その学友に貴族がいるということも珍しくないでしょ。たとえそれが、最上位貴族だとしてもね?大体、月夜ちゃんを守るのは難しいわ。学園では騒ぎにならないように名前を偽って身分は平民で通しているから、九十九も陽菜もついていくことができないのよ』
「そこで僕たちの出番ということですか」
『その通り』
これってもはや未来予知ってやつか?
本当にこれ先に返事決めているんだよな?
「いっちゃんと一緒に学園生活ですか。いいですね」
「お前はどうするんだ?」
美咲の方に聞く。
「私は別にいいわよ。どうせ、学園生活以外はやることはないでしょうしね。まぁ、私には学園生活でも大したことはないんだけどね」
ダガーと回復魔術だけって言ったら、ほとんど戦闘にはかかわれないからな。
「月夜はどうするんだ?」
「お嬢様は(無理矢理)連れて行きますから」
なんか、一瞬心が見えたような……。
『決まったようね?』
「間違いなくこれつながってるだろ?」
『この前の襲ってきた奴らは、王国法によって牢屋行きが確定したわ。強制労働3年ね』
無視されたことを起ころうと思ったが、そういう雰囲気でもないだろうな。
『それじゃ、九十九。その手紙を翔に渡しといて』
「わかりました」
俺に手紙が渡される。
すると小声で
『あなたの正体の輪郭が見えてきたわ。裏づけが取れたら、教えてあげるわ。……相応の対価をもってね』
その後、直ぐに
『それじゃあ、また』
と言って
バンッ!
手紙が爆発した。
いい加減にしてくれよ、まったく。
「それは何ですか?」
「?」
手を見るとカードが乗っている。
「そのカードを自分のギルド証に重ねてください」
九十九さんに言われるままに実行する。
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名前:翔
種族:???
ランク:E
所属ギルド:全人の門
戦闘:魔刀使い
備考:記憶喪失
学生(クラス?)
我らはこの者が我がギルドに
所属する事を認める。
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備考が増えている。
クラスがまだ出ていないのは、学園に言っていないからだろう。
って言うか、都合よすぎだよな、全員がFクラスとか。
いや、どうせ麻奈花とかがなんかやっているからなんだろうから、当然といえば当然か。
ん?
「ランク上がってないか?」
「あ、そうですね」
「私は上がっていないわよ」
「僕はさっきもらったばかりですから、変わってないですね」
どういうことだ?
「見せてください」
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名前:美咲
種族:***
ランク:c
所属ギルド:全人の門
戦闘:癒し手
備考:学生(クラス?)
???
我らはこの者が我がギルドに
所属する事を認める。
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名前:明
種族:表示不可
ランク:E
所属ギルド:全人の門
戦闘:気使い
備考:混血
学生(クラス?)
我らはこの者が我がギルドに
所属する事を認める。
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「美咲さんってランクCだったんですね」
「千花ちゃんより前からギルドにいるしね」
美咲のは種族を隠しているって事で、明は混血だから表示不可なのか、と推論を立てる。
美咲の備考の「???」って何だよ。
もはや備考じゃないだろ。
「私のも見せます」
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名前:千花
種族:人族
ランク:E
所属ギルド:全人の門
戦闘:神器使い
備考:死神の娘
学生(クラス?)
神鎌流紫段
***
我らはこの者が我がギルドに
所属する事を認める。
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「僕と戦ったときは本気じゃなかったんですよね」
「大丈夫だよ。私のところの門下生の一番より強いから」
「ちなみに千花は?」
「紫段ですよ?今は、抑えているから緑段ですが」
段位性というものがあって、赤橙黄緑青藍紫の順だそうだ。
「筆頭は?」
興味がわいたので聞いてみる。
「黄段ですけど?」
「黄段の上は緑段ですよね?」
明も自分のことが話題なので積極的だ。
「緑段と明はどっちが強いんだ?」
「緑段と同じくらいでしょうか?私とやりあえたのですし」
目に見えて明が落ち込んだ……わけでもなさそうだ。
「どうしたんだ?がっかりしているかと思ったんだが?」
「知らないんですか?神鎌流と魔弓流は世界最強と謳われる流派ですよ。喜びこそすれ、落ち込みはしませんよ」
マジですか?
ってことは龍炎は世界最強?
だから、死神か?
「魔弓流のほうは知らないんだが?」
「西の国に住んでいるらしいですよ。神鎌流と同じく数百年の歴史があるそうです」
なるほど、カルパス湖をはさんだ向かいの国か。
行ってみたいな。
「あれ?九十九さんは?」
話に夢中になっていて気がつかなかったが、どこにもいない。
テーブルの上に紙が一枚。
「主様とお嬢様を迎えに行ってまいりますので、御用があれば陽菜にお申し付けください、だそうだ」
「夜遅いですしこれくらいにしましょう。翔さんも明日にプレゼントを買ってきてください」
「僕もお供します」
そういえば、何も考えていなかったな。
まぁ、適当にすれば何とかなるだろう。
体を拭き、ベッドに横たわる。
ここ数日、続けていることだ。
風呂という物が本には載っていたが、この国にはないのだろうか?
つらつら考えていた俺の意識は、夢の中へと引きずり込まれていった。
2012/04/07 矛盾修正