護衛って大変!三日目
< SIDE 翔 >
朝、目覚める。
一日で慣れてしまった。
知らない天井。
朝の修練をお願いしに九十九さんのところへ行く。
「この依頼を受け終わった後にでもまだ教えてもらえますか?」
「ほぉ。私も久しぶりに休暇をもらいましょうか。確認した後、お知らせいたしましょう。」
そして、構える。
今は修練、目先のことが大事だ。
「翔様伏せてください!」
その声に反射で伏せる。
「朝に襲ってくるだと?」
そのまま、横に転がり跳ね上がって距離を取る。
鎌を振って、刈り取ろうとしてくる。
「あなたは……。」
「娘は返してもらうぞ。」
「……?あっ!」
これはもしかして……。
「龍炎様ですか?」
九十九さんに先に言われる
しまった、すっかり忘れていた。
「そうだが?」
確か、麻奈花がどうにかするって言って様な気がするんだが?
「娘を誘拐した奴に情けは無用だ。」
ちょっと待て、家出だろなんていったら殺されるよな。
「お父さんのばかぁ~!」
ガンッ!
突然の声と鈍い音。
クリーンヒット。
千花の鎌が後頭部に炸裂していた。
「少しお話してきます。」
ズリズリ
気絶した自分の父親を引きずってどこかへ行ってしまう。
「翔様、大丈夫でございますか?」
「あぁ、なんともないです。あなたのおかげで。」
「千花は大丈夫ですかね?」
家出したことを父親に怒られないのか?
っていうか、今まで父上って呼んでいなかったか?
「私は龍炎様のほうが心配ですが。」
「それはまたどうして?」
「どうやら私の仕置きより厳しいそうです。」
「………ドンマイです。」
月夜や琴音の状態を思い出し、あれよりひどいのかと姿の見えなくなった龍炎に合掌する。
「さて、九十九さんお願いします。」
俺は何も見なかった。
「さて、行きますよ。」
ドゴンッ!
つんのめる。
気にしないといったそばからいなくなったほうからものすごい音がした。
今日は武器を使う。
ただし、技は使わない。
水の羽衣だけ纏って構える。
まだ、そこまで強いわけじゃないが使えるレベルにはなっているだろう。
毒も防げそうだしな。
刀に手を置いて構える。
居合は、強いが初動を抑えられると勝てない。
目の前にコインが落ちてくる。
九十九さんには多分速度では勝てない。
紫電でも使わなければ、だがそれを使えない、今は…。
地面に着いた瞬間、九十九さんが接近してくる。抜くまでの時間をどうやって稼ぐかそれは。
地面を蹴って後ろへ飛ぶ。
距離がないなら作ればいい。
そして振る。
キンッ!
甲高い澄んだ音が響く。
今、俺は渚を持っていない。
ナイフを切ってしまうほどの威力だ。
当然、他の武器も壊れるだろう、ということを考慮している。
一合、二合…。
十五合目で俺は刀を弾き飛ばされる。
それを昼まで、続ける。
「お食事の用意ができました。」
九十九さんは謎だ。
いきなり修練の最中に言い出すんだから。
そして、皆が席に着く。
昨日より多い気がする。
最近めっきり静かになった二人組。
依頼を受けた俺たち。
そして、龍炎さん。
龍炎さん!
なんということでしょう、神は私を見捨てなさったのですか。
と芝居じみたことはやめて千花を見る。
すると、にっこり笑ってうなずいた。
大丈夫なんだな。
安心して食事を終える。
「よし小僧、表へ出ろ。」
えっ?
ホントに大丈夫だったんだよな?
「お父さんっ!」
聞き間違いじゃないみたいだな。
「大丈夫、実力を見るだけだから、その鎌をしまって。」
俺に対する言葉遣いと違わないか?
「今からお前が娘にふさわs…「お父さんのバカッ~!」…グフッ!」
千花が顔を朱くしながら殴っている。
「それ以上やったら死ぬぞ。」
「大丈夫よ。死ぬ前に私が治すから。」
扉を開けて美咲が入ってくる。
「お前のせいでひどい目にあったんだぞ。この仕事俺が受ける予定じゃなかったんだろ?」
「何言ってんの?私がはじめからこの仕事が受けられるならやっているに決まっているじゃないの。おいしい料理と優雅な時間が仕事で手に入るならね。」
麻奈花の言っていたことと違う。
「話がかみ合ってないんだが?どこ行ってたんだ?」
「私は賭博場の管理の手伝いをやっていただけよ。」
「初めに食べきれないほどの食事はなぜ?」
「常識よ。足りないなんて言われたら、面目が立たないじゃないの。」
「次の日はちょうどいい量だったんだが?」
「あそこにいる九十九さんがそれくらいできないとでも?冒険者上がりなのに、執事メイド学校を首席で卒業っていう人なのよ。」
すごっ!
尊敬の目で見る。
「それは昔の話ですよ。」
「冒険者Sランク持ち、冒険者を引退した後ついた二つ名は『最強の執事』。」
「あなたがかの有名な。」
龍炎さんが目を輝かせている。
「さて、片づけるので私はこれにて。」
食べ終わった皿が文字通り消えていく。
「早業。」
「お見事。」
みんなの歓声を後に立ち去る。
多分、退却だと思うのだが。
さてと、どうしてこうなった?
食後に回避されたはずのバトルが再燃。
俺はなぜか、渚を構えている。
「じゃあ、行くぞ。小僧。」
速いが、九十九さんほどじゃない。
後ろに跳んで、居合をしようとするが鎌が長い。
抜く暇もなくかがみ、転がる。
切っ先をかわし、嫌な予感に体を跳ね上げ、宙を舞う。
さっきまでいた位置を柄が穿ち、その勢いでこちらに向かってくる。
前考撤回、この人も同じくらいやり手だ。
こんな剣術だけじゃ勝てる気がしない。
今でこそ拮抗しているが、しばらくすれば俺が押されるだろう。
「天羽。天の羽衣。」
具現化はしない、目立つからだ。
「『千刃』。」
離れたところから、居合で風の刃の嵐を起こす。
「『烈波』。ぬるいぞ小僧。」
全部切り落とす。
さすが、千花の父親であり、師匠。
「『旋風二閃』。」
旋風を二回転で放つ技だ。
さっき考え付いた。
「本気を出さないと大したダメージにはならんぞ。」
そういった龍炎の体から闘気があふれている。
「破!」
えっ!?
そんなのありか?
風が消し飛ばされたぞ。
― 我が血を贄となし 契約し給うは 風の神 ―
手を切り血を渚にかける。
「面白い。」
― 風に宿るその力は 切断 ―
「行くぞ。『絶風はd…』グギャ!」
いきなり体当たりされた。
「翔さん何考えているんですか?この都市滅ぼす気ですか?それにお父さんも「面白い。」じゃないですよね?」
やばい、これは。
「紫電の具現化。」
逃げるが勝ち。
急いでその場から離れる。
後のことは知らない。
龍炎さんが正座させられていた。
ナニコレ、千花、コワイ。
トントン。
肩をたたく人を振り返ると
そこには阿修羅が立っていた。
こうして夜は更けていく。
ちなみに、逃げた罰則として千花の部屋で一時間の説教後、重しを膝に乗せての正座と夕食抜きである。
なぜ、現在形かというとその名の通り現在も進行中だからですね。
どうやら、次の日までこれを解いてくれる気はなさそうだ。
しかも、魔力を弾く性質があり、どかすことができない。
その上、手足は魔術で縛られ、声は結界内で閉じ込められている。
そして、目の前で千花が寝ている。
ベッドが目の前にあるのに- 自分のではないが -寝れないとはひどい拷問である。
しかも部屋の隅。
こうして夜が更けていく。
千花が地味に怖いです。