護衛って大変!二日目・上
< SIDE 翔 >
朝もまだ明けない頃。
右に避け、後ろに跳び、左に躱しながら前に出る。
右に踏み出そうとして、反射で左に跳ぶ。
「今のは危なかった。」
「翔様、どんどん行かせてもらいます。」
俺の周りに浮いているのは12個の光弾。
それが俺の周りを飛んでいる。
使用可能なのは防御魔術なのだが、張り方を知らない俺は躱すしかない。
目の前から6個飛んでくるが、これは囮。
後ろに回ってきた4個を躱す。
が、それすらも囮。横から一個ずつ飛んできて逃げ場がない。
それならばと、地面すれすれをダイビングする。
そして、その勢いで立ち上がる。
この服も汚れてはいるが、破れたりはしていない。
全くすごいの一言に尽きる。
「もう、そろそろ。ウォーミングアップも終わりですか。」
「そうですね。」
一息。
「具現化に光弾60個で行きましょうか。」
「すべて躱して?」
「はい。」
……スパルタだ。
「天羽の具現化。」
俺の背中に翼が顕れる。
それと同時に光弾が展開される。
「では、始めます。」
「はい。」
まずは、飛翔。
旋回、急上昇、降下、上昇、そこから急降下。
続けること一時間。
日が昇り始める。
冬の日の出は少し遅い。
「それでは、お食事の用意ができましたので、どうぞ。」
そういわれ、九十九さんにつれらて屋敷の中に入っていく。
先に座っている人たちを見て、
「千花はどうした?」
「おはようございます。」
寝ぼけ眼で出てくる。
「千花、自分の部屋行って顔洗ってこい。それから、ちゃんと鏡見ろよ。」
「ふぇ?……ひゃう!なんでこんなもの着ているんですか?」
あわてて、戻っていった。
うん、恰好がすごかった。
寝ぼけてとった服がそれだったのか。
出てきたのは、ゴスロリ、この前に来ていたやつだ。
っていうか寝ぼけすぎだろ途中で気づけよ。
「いや、幻覚か?」
「よくわかったね。」
月夜が笑っている。
「あんだけ、親子にかけられたら気づくに決まっているだろうがっ!」
ドタドタ!
「お待たせしました。」
「次はメイド服だぞ。」
「ふぇっ?……なんで……こんなことに?」
おい、完全に幼馴染にはめられているぞ。
パタッ
「おぉい、って気絶したぞ。」
「やりすぎたかしら?」
月夜が手を振ると千花の服がウエディングドレスに戻…ってないだろこれは!
「やりすぎだろ。」
「月夜様、琴音様。お話がございます。こちらへ。」
二人の顔が、しまった!という顔に変わる。
「私は何もしていないわよ。全ては月夜がやったことじゃないの。」
あわてて、取り繕う琴音さん。
「それにしても、綺麗なウェディングドレスですね?私も見たことがないのですが?」
突然、九十九さんが話しかける。
「あなたは知っているはずよ。だって、これは私が着てい……あ。」
「そうですよね?琴音様が結婚なされたときにお召しになっていた物です。どうして、見てもいない月夜様に再現できることがありましょうか?」
そう、幻は万能ではない、見たこともない者や物は再現できない。
琴音さんの顔に汗が……自業自得とでも言っておこうか。
その後、二人は隣の部屋へ連れて行かれてしまった。
床に寝かせたままというわけにもいかないので、抱えてからどうするべきか迷う。
部屋に連れて行くべきか、このまま目ざめるのを待つか。
部屋に連れて行く方を選ぶ。
このままいてもどうしようもないしな。
しかし……
「ここはどこだぁ!」
迷子になっていた。
そして、近くにメイドさんがいたので、聞き連れて行ってもらう。
部屋に入り、ベッドに横たわらせると顔が異常に朱かった。
「濡れタオルありますか?」
「いえ、あなたがそこから立ち去れば治るかと思うのですが……。」
と、メイドさんに意味不明なことを言われつつ、立ち去ることにする。
~ SIDE 千花 ~
ありがとうございます。
陽菜さん。
機転を利かして立ち去ってくださったメイドさんを思い感謝します。
さきほど、何やら揺れるなと思い目を開けたところ、目の前に翔さんの顔が……。
一瞬で状況を把握したわけなのですが、どうしようもなく。
そして、言い出せるわけでもなく。
どうして、背負ってくれなかったのでしょうか。
わざわざ、お姫様抱っこなんて恥ずかしくて。
思考が、こんがらがってきました。
これから、どうしましょうか?
すぐに戻ってきたら、間違いなく起きていたことがばれてしまいます。
どうしましょう?
ですが、昨日も力をかなり使ったので、お腹がすいています。
コンコン!
ビクッ!
どうしましょう、誰かきました。
「失礼します。千花様、大丈夫です。私ですから。」
どうやら陽菜さんのようです。
ちなみに陽菜さんは、昔からの女中さんなのですが……。
「若いですね。」
「ありがとうございます。これでも、362歳で、あなたたちから見ればおばあちゃんといったところですけどね。」
彼女は樹族である。
「それにしても昨日は驚きました。隣町のステリアから帰ってきたら屋敷で警報が鳴り響いていたのですから。まぁ、九十九がいるから大丈夫とは思っていたんですけどね。九十九も竜族ですしね。」
「え!」
「なに驚いているの千花ちゃん?ってそういえば、九十九もあのころはいなかったからお互いのことも知っているはずないわね。」
竜族も樹族と同じ長寿族である。
「それにしても。翔君のことはどうなの?あの子すごいわよ。魔力なんか人じゃないみたい。まぁ、この際それは置いといて。で、どうなの?」
それはおいといてもいいのでしょうか?
それよりも・・・。
「どうなのってどういうことですか?」
「好きかどうかってことよ。」
「・・・・・・ふぇっ?な、な、なんでそんな話になるんですか?」
「ほ、ほぉ、脈ありかな。」
「からかわないでください。怒りますよ。」
「ふふふっ。恐い恐い。私、仕事に戻るわね。それとこれでも食べちゃいなさいな。」
リンゴをこちらに投げる。
ガチャン!
ドアが閉まる。
「わからないのですよ。私がこんな日常で人に触れあって、話することは久しぶりなんですから。だから、一人の人間として好意はもててもそれが好きに直結するかはわからないんですよ。」
シャキリッ!
かじったリンゴは甘酸っぱかった。
~ SIDE 陽菜 ~
出て行ったはずの扉にもたれかかっていた体を起こす。
「千花様も、立派に成長したのですね。後は母親次第ってところですね。」
そんな聞く人もいない言葉を残して、微笑みながら仕事場へ向かうのであった。
今回は千花をいじる回でした
2012/02/03 誤字修正