護衛って大変!一日目・下
地味に出てくるキャラが全て無詠唱で、チートさを醸し出していることに気づいてしまいした。
<SIDE 翔>
今日は厄日だなと思いながら、九十九さんの後ろを走っていく。
千花も俺の後ろについてきている。
「千花は二人のところへ、九十九さんは他の使用人たちをお願いします」
「わかりました。翔さんも気をつけてくださいね」
「承知。次の角を右に行って突き当りの階段を降りたところです」
そういうと次の曲がり角で九十九さんと千花の姿が掻き消える。
「速いな」
と、言われた通り突き当りにあった階段を降りる。
そして、そのまま灯りの消えた廊下に飛び出そうとして、殺気を感じ渚を振る。
黒いナイフが両断される。
しかし…
「気配が読めない。相手も強者ってことか」
攻撃してきた瞬間はわかるのだが、そのあとの気配がまるで分らない。
しかも、灯りが消されているため視覚に頼ることもできない。
止まっていると分が悪いので走り出す。
多角的にナイフが飛んでくる。
罠を張る時間はなかったはずだ。
「ちっ!相手は一人じゃないのか」
跳んできたナイフは全部で8本。
少なくとも4人はいる。
渚で3本を斬り、後は体をひねってかわす。
そして、相手が投げて、態勢が整っていない隙をついて加速し、斬る。
しかし、まるで手ごたえがない。
しかも斬った途端、土塊と化した。
「ゴーレムか。やっかいだな。相手の数が把握できない」
そして、今、俺は走り続けている。
もう、6体目だ。
しかもすべてゴーレム。
広いところに出れば一発でわかるのだろうが、なんせここは…
屋敷そのものが広すぎる。しかも、侵入者対策にご丁寧にも『迷宮』がかかっている。
突然前から飛んでくるナイフを紙一重でかわす。
その時、ナイフから垂れた何かの雫が地面に落ちる。
ジュワ!
「まじかよ。地面が溶ける程の毒とか聞いてねぇぞ!」
かわした勢いのまま突っ込んで斬るが、これもゴーレム。
らちが明かないな。
気配を感じ、渚を振る。
ギンっ!
「翔様、私でございます」
九十九さんか。はたまた、ゴーレムか。
俺の一撃を軽く受け止めたのだから、多分本物だろう。
「敵はゴーレムを使ってくる。その上、敵は気配がわからない」
軽い説明だけしておく。
「こんな狭いところではやりにくいですね。それに琴音様や月夜様がおられるとあっては下手な破壊系統は使えません」
手はないのか。
消耗戦はずっと気を張り詰めている俺たちより向こうのほうが分がある。
『風を感じるのじゃよ』
この感じは
『渚か?』
『そうじゃよ。主は天羽と紫電を持っているじゃろ?』
『紫電?あの雷公を使った時の奴か?』
『わしはその時、そこにはおらんかったのでな。まぁ、たぶんそれじゃろ。それらには特徴がある。天羽は風を、紫電は雷が扱えるんじゃ。じゃから、風を使って感じるのじゃ。地上において風を感じないものはほとんどないのじゃからな』
「天羽」
俺がつぶやくと渚の表面が淡く光って呼応する。
「探知するのでその間の援護をお願いします」
「承知しました」
九十九さんが構える…食器を。
「えっ?皿とナイフですか?」
「そうですが?お早めになさってください」
飛んできたナイフを皿でいなしてのままの勢いで返す。
すごい。
だが、それ以上にシュールだ。
俺は自分のなすべきことをなすために屋敷内の風を天羽の持つ風に変えていく。
固まっている人の多いところは、使用人や千花、月夜や琴音さんのいるところだろう。
そして、人間の気配をもたないものが8体。これは、多分ゴーレムだ。
今、一体消えた。
九十九さんのおかげか。
屋上にゴーレムの生まれる気配。
「見つけた。屋上です」
「では、行く方法が遠いですよ。中を通り抜けなければなりません。その天羽は確か…風を使うのでしたよね?」
「はい。……なるほど、できます」
飛んできたナイフにナイフを当てるという離れ業を見せながら、窓まで行って開けてくれる。
この人もナイフ何本持っているんだろうか?
そんな疑問を後にして俺は窓から飛んだ。
「天羽の具現化」
俺の背に風の翼が伸びる。
一気に風で屋上に上る。
多数のゴーレムが出現する。
つまり、迎撃トラップ。
「面倒だ。『旋風』」
詠唱なしで威力を抑え振る。
ゴシャッ!ドスッ!
目の前のゴーレムの集団が崩れ落ちていく。
黒い影を見て、突っ込む。
風の速度を持っているから、動きも速い。
相手の目の前まで一瞬で移動して渚を構える。
俺のミスは周りを見ずに天羽の具現化を解いてしまったことだ。
突然だが、ゴーレムは魔力のみで構成されているわけではない。
当然、その媒体となる土やそれに準ずるものが必要である。
この屋上には出入り口がない。
そして、出入り口がないのだから、その媒体となる土が置かれているはずもない。
さて、それではその素材がどこから持ってこられるのだろうか?
答えは簡単である。
屋根からだ。
つまり、俺は……下の階に落下している。
「ちっ。足元が抜けるというのは計算外だ」
舌打ちしながら、黒い装束を着たやつを探したが、見つけることはできなかった。
「これはまた派手にやりましたな」
「すいません。相手のゴーレムが屋根を使って作られているということに気付かなかったので。それと逃げられてしまいました」
「まぁ、いいでしょう。あくまでもあなたへの依頼は護衛であって、刺客の排除は最優先ではありません」
九十九さんには頭が上がらないな。
「さて、このままとはいきませんし直しますか。土魔術『修復』」
屋根が戻っていく。
おぉ、すごいな。
「今日はどうなさいますか?」
「どうするとは?」
「お泊りになるのですかということです」
「千花も積もる話もあるだろうしお願いします。それと依頼の間、朝に鍛錬をお願いできますか?」
「かしこまりました。私でよければ」
よし。
これで力の使い方を学ばしてもらおう。
~ SIDE 千花 ~
私は今、いっちゃんの部屋にいます。
翔さんは明日が早いそうなのでもう寝に行ってしまいました。
「なっちゃん、久しぶりね」
「そうですね、いっちゃん」
椅子にかけて用意された紅茶を飲みます。
「あっ…これは」
「そうよ。なっちゃんが来たから取って置いたやつを開けたの」
銀貨十五枚はくだらない高いものです。
ただそれに見合うだけの香りがすばらしく、渋みも好ましい刺激的なものです。
「あれから何年ぶりかしらね」
「6年でしょうか?」
「そうね。私が9歳のときだからね。あなたがこの町からいなくなったことを知ったときは、目の前が真っ暗になったのよ」
「ごめんなさい」
謝ってから外の様子を確認します。
日は沈んだけど、今日の月はまだ出ていない。
「……出なかったら良いのですが」
「どうしたの?」
「時間が長くのばせれば良いのにな、と」
「どうして?」
「なっちゃんと長くいられるしね」
これは本当だけど同時に嘘をついている。
私の家族しか知らない秘密。
それを知らないから。
「そうだね。ところでいっちゃんはどうしたの?急に戻ってきたのはなんで?」
「家出してきたの」
「へぇ、そうなんだ」
「あんまり驚かないのですね」
「だって、いっちゃんのことを誰よりも良く知ってるんだよ。それにこれでも驚いているほうだしね。世界が見たいとかじゃないの?」
「うん」
その後は懐かしさに口が言葉をつむいでいく。
最近あったこと、離れた後の暮らし、会ったときのこと。
楽しさの中に時間が過ぎていく。
とっくに暗くなっている空に
月が昇りはじめる。
「じゃあ、私はそろそろお暇させていただきます」
「そうだね。日が沈んで月が昇るからでしょ?」
「えっ?何で…?」
「それくらいは知ってるよ。ずっとそうだったんだし。まぁ、話せるときに話して頂戴」
「うん」
やっぱり私は恵まれている。
決められた部屋に戻り、持ってきていたかばんを開き黒い外套を取り出す。
「白鎌」
その呼びかけに装束とは正反対の純白の鎌が顕れる。
そして、私は街灯の明かりが残る昼間の喧騒を失った町へ飛び出していった。
呼んでくださってありがとうございます。
私にしてはまともな伏線が張れたような気がしています。
ちなみにこの後の描写はまた後日という感じです
あしからず
2012/03/25 渚の口調改変