護衛って大変!一日目・中
食材の名前については実在しないものも登場します
あしからず
それと読者の皆様。
新年あけましておめでとうございます。
また、更新が不定期のまま、新たな話を書いてしまった私をお許しください。
というわけで、まったくこの話とは関係ないですが、もう一つの作品『一人ぼっちの魔法使い』もよろしくお願いします。
*現在ストップ中です。ご迷惑をおかけします。
< SIDE 翔 >
はっ!
目を覚まして窓の外を見ると日は最頂点に上りかかっていた。
「頭がズキズキする。」
月夜に殴られたところが痛い。
「人間の記憶って思いっきり殴っても飛ばないと思うんだが。っと、ここはどこだ?」
見渡して確認する。
高級そうな部屋である。
広さは宿の最上級クラスの部屋と同じくらいだ。
ベッドもふかふかで出たくないが、起き出して窓から外を見ると
ここが二階であるということだけが分かった。
風景のほうは城壁の外が見える。
ドアを開けて廊下に出る。
どっちを見ても遠くに突き当りが見えるだけである。
「無駄に広いな。」
呟いた後、何かの気配を感じて後ろを振り返ると。
九十九さんが立っていた。
「驚かせないでくださいよ。」
「その割には驚いていないように見えますが、今は使っていない使用人室までお連れいたします。そこで、皆さんがお待ちです。」
皆さん?
疑問に思いつつも何も聞かずについていく。
そして、九十九さんがある部屋の前で止まった。
「ここで皆様がお待ちです。」
「これも罠か?」
と、気絶させられた原因を思い出した。
「開けてもらっても?」
同じ失敗は二度は繰り返さない。
幻なら実体はないはずだ。
「かしこまりました。」
ドアが開く。
「…………なんでこうなるの?」
目の前にいるのは琴音さん。
後ろ向いている上に窓から光が差しているのでシルエットがくっきりしている。
それはいい……だけど、どうして、なんで、なぜ、裸なのさ?
ドアを開けた音に琴音さんがこっちを向く。
「きゃ~~~~!」
目の前に拳が迫っている。
そしてこの後の展開も読めている。
そう、これはまた俺、気絶させ…グフッ!
「散々だな。」
またもや意識がブラックアウトしていく。
次に目を覚ますとさっき寝かされていた部屋にみんなが集まっていた。
外を見た感じではあまり時間は経っていない。
気絶に少し耐性ができたのかもしれない。
さて、みんなって言うのは、千花と九十九さんとさっき俺を殴って気絶させた琴音さんとその後に俺を殴って気絶させた月夜だ。
「根に持つなんて男じゃないわよ。」
また心を読んでくる琴音さん。
「痛かったんだぞ!それとなんで琴音さんと月夜は縛られているんだ?」
手は自由に動かせるが、体も動かせない上に解けないような結び方だ。
「「出かけようとしたら、九十九に捕まって。」」
さすが親子、見事なハーモニーだ。
「当然のことです。それにあなた方は出かけるじゃ、ありませんでしたよね?明らかに逃亡しようとしていましたね。用事から帰ってきた私をご覧になって月夜様が慌てふためいているの見て、大体の事情が分かったのですが、あなた方は謝罪すべきです。お客様を使って親子で喧嘩とは情けない。事情を知って、翔様の様子を確認しに向かったところ、部屋ももぬけの殻で、琴音様の部屋から悲鳴と鈍い音が聞こえたときは肝が冷えました。」
「もしかして、月夜も幻が得意だったりするの?」
自分でも自覚があるが少し見当違いな事を聞く。
「そうよ。実体化もできるわ。」
それで、月夜が琴音さんと同じ事をしたことがわかった。
そして、なぜドアが開けられたのかも。
ため息をつき、わが身の不幸を嘆きながら、ここにいない逃亡者を思い浮かべる。
「千花、これが美咲が呼ばれた理由だったのかな?」
「そうだと思います。」
反省の色が見えないためか九十九さんが笑顔で言った。
「千花様、翔様。厨房の方に昼食の支度が整っておりますので、そちらに行ってもらえますか?」
「三人はどうなさるのですか?」
「そうね、私たちも昼ごはんにしましょうか?月夜?」
「そうですね、お母様。というわけで…」
ギロッ!
九十九さんの眼力で一蹴される。
もしかして、九十九さんこの家で、最強?
「少しお二人とお話しをしてから参りますので。」
と、言われ部屋を出る。
ちょうど九十九さんの指示でやってきたメイドさんに案内されて、広いテーブルのあるところに連れて行かれる。
一度も部屋から出ていないのにメイドさんも手配済みとは、九十九さんあなたは一体、何者ですか?
席に座って待っている間に、千花と今回の依頼について疑問に思ったことを話しておく。
「何で俺たちは、こんな早くに呼ばれたんだ?」
「誕生日の六日前にって事ですか?打ち解けておくためにじゃないのですか?」
千花は疑問に思わなかったらしい。
「そうだ、そこなんだよ。不思議に思わないか?呼ばれた俺たちには幼馴染の千花がいるんだ。だから、もう一人が仲良くできなかったとしても問題ないし、そのもう一人のほうも大して変なことをしなければ、三日もあれば話したり祝ったりするには十分だろう?」
「言われてみれば、そうですね。」
「だから、俺はこの事件の詳細をギルドの誰かが知っていて、誕生日の前後一日しか入らない護衛の代わりの対策として俺たちを行かせたのではないかと考えている。」
「麻奈花さんのことでしょうか?」
「多分ね。」
ガチャ!
「お待たせしました。食事をお持ちしたのでご自由にお取りになってください。」
メイドさんがやってきて手際よく食事の用意をしていく。
あっという間に目の前にたくさんの大皿が置かれていた。
速さにはもう突っ込まない、だって九十九さんの部下だもん。
だけどこれは……食べ切れるのか?
というよりこれは美咲が来る事、前提で料理作っているよね。
横を見ると千花が青ざめている。
昨日、あれだけ食べていた千花が青ざめる量ということなのか?
「これって、蒼い貴婦人と呼ばれる高級魚ですよね?あっちは紅の魔女ですか。」
「何を青ざめているんだ?」
「これ一皿で一般家庭の一年分の食事がまかなえます。」
「………はっ!」
軽く意識が飛んでしまったようだ。
一年分、一年分かぁ~。
…………?
一皿で?
目の前にある皿の数はざっと10は下らない。
ってことは軽く10年分ですか、あぁ、そうですか。
って全く実感わかないんですけどね。はい。
って、これ食べてもいいの?
どうしよう、これ後で請求書とか来ないよね?
「「頂きます。」」
食べ物に感謝と祈りをささげて、食べ始める。
まずはじめに、紅の魔女というものがかかった肉料理を食べてみた。
どうやら、紅の魔女は香辛料の名前らしい。
一口食べて……辛っ!
辛い、辛い、辛い、辛い、辛い、辛い!
……が旨い。
辛いのだが、後に引くような辛さではない。
それが肉に絶妙に絡まっている。
ガチャ!
今度は厨房と逆の扉が開く。
少しやつれた感じの二人と顔色一つ変えない九十九さんが現れる。
一言も交わすことなく食事が始まる。
お疲れ様。
まぁ、自業自得だがな。
琴音さんの魔術のおかげでメイドさんたちには普通の服の姿で見えているようだ。
それも普通の外出用のジャケットらしい。
なんせ自分にはそうは見えないのだから・・・・・・って。
良く考えたらこれ着ている意味ないんじゃないのか?
だがしかし、これ以外の服はないからあきらめるしかないか。
そして、夕方。
俺は九十九さんにお願いして、書庫を覗かせてもらっている。
記憶の在り処を探すためだ。
今はまともかどうかは知らないがちゃんとした服装である。
銀色で何枚かの何かの鱗がついた胸当てと黒いマントだ。
これらは、九十九さんがギルドに所属していたときのものらしい。
それから、魔道具ももらった。
しかも造ったものではなく、ダンジョンで手に入れたものらしい。
まず、ダンジョンとは。
まず、国が指定している国営ダンジョン。
これには一定のお金と実力があれば入れる。
自分の私兵を鍛えるために自分たちで作った私営ダンジョン。
ダンジョン作成には多額の金額がかかる。
ダンジョンギルドというものがあり、作成してもらう。
その後、教会にお願いして試練の神を呼び、ダンジョンとなるのだ。
これらの工程を終えるのに大体5年はかかるらしい。
ちなみにその中で瀕死に陥っても死ぬことはなく、入り口まで送り返されてくる。
そして、誰も入ったことのない未踏ダンジョン。
遺跡や神が気まぐれで創ったダンジョン。
すばらしい秘宝が眠っているといわれ、それを求め命を失っていくものが後を絶たない。
国営ダンジョンは、死ぬ危険もあるが一定の価値のものが手に入る。
私営ダンジョンは、死ぬ危険はないが宝などは一切手に入らない。
といった感じだ。
俺の目の前にあるリュックは、その未踏ダンジョンで手に入れたものらしい。
「先ほどのお詫びもかねてお受け取りください。」
と、言われて受け取ったのだが、これはすごい。
リュックの中には空間が圧縮されていて、かなりの量のものが入る。
ちなみに、渚が縦に入った。
交換条件は私のことは恥ずかしいから聞かないことである。
どうせ人伝いに聞くかもしれないのでは?、と聞いたが、そのときは諦める、と言われた。
これ多分すごいものだから、すぐにばれると思うんだけどね。
これは遠くない未来すぐに当たることになる。
日が沈んでいくのを横目に俺はため息をつく。
結局、収穫はなかった。
少し脳の構造について理解しただけだった。
外へ出て、渚を振る。
ひたすら素振りをする。
何か思い出せそうで思い出せない、そんなもどかしさを感じる。
踏み込み
居合
を繰り返す。
何かの気配を感じ、振り返りざまに渚を振り、途中で止める。
「気配に気づいて、相手も見る余裕がある。翔さんはすばらしい腕の持ち主だ。」
「九十九さんこそ。」
「私は老いておりますゆえ。」
「本当ですか?私のはこのまま振っても当たらない位置に立っているように思えるのですが。」
俺の目測だと、薄皮一枚切ることができないぎりぎりの距離だと思う。
「ほぉ、気づきますか。まだまだ力を隠していそうですね。」
「買いかぶりすぎですよ。俺は記憶喪失ですからね。」
「こういうのはどうでしょうか?私が考えた修行なのですが。」
いきなり光の玉が現れて、俺に向かって襲い掛かってくる、その数ざっと……。
「124。」
「動体視力、広視野に認知力も高いとはすばらしいですね。」
さすがは、九十九さんだ。
数が多いが、直線方向で並んでいるものはほとんどない。
つまり……。
「全部当てても124回は刀を振らないといけないってことか?」
「そうなりますね。でも、これらは今回は卵の殻程度なので、刀を使わなくても簡単だと思いますよ。」
それでも、まだ魔術も思い出せてはいないから使えるものはほとんどない。
が、二つだけ覚えている魔術があった。
ここに来る前に使った雷公。
その本来の雷公ともう一つ。
威力はわからないが、あえて本来の力から言ってみようと思い構える。
効果は目に見えたほうがわかりやすい。
前回は依り代となる刀がなくて使えなかったが、今回は渚がいる。
これがまた新たな厄介ごとを後に巻き起こすのだが、それを知るのはまだ先の話である。
そう、今は目の前の物を斬る。
- 天を舞い 空に見ゆることなき 吹く風を -
- ここに誘い 纏う衣と成す -
- わが身元にありし その剣に 降りよ-
渚が輝く。
- 天羽 -
自分の体が宙に浮かぶのがわかる。
そして、体を一回転させながら振る。
「断ち切れ 『旋風』!」
ザザッ!
一回でここにあった光の玉を全部斬ってしまった。
「…!!まずい。火系魔術『火門』、水系魔術『水盾』、風系魔術『風陣』、土系魔術『鉄壁』!」
光の球を切っても止まらない風の斬撃に、九十九さんが防御系の魔術をかけていく。
どうしたらいいんだ?
出したのは俺だがここまで威力が出るとは思っていなかったから、少し腰が抜けて立てない。
結局、一番外側にかかっていた『鋼鉄の壁』も斬れてしまった。
やばいかも。
「半分は抑えます。もう半分を!」
一瞬で斬撃の反対側に行かない限り、相殺できるのは半分だけってことだ。
「わかりました。市街側を頼みます。」
「はい。神鎌流『烈波』。」
「顕現せよ 我を守りし 堅固なる盾 『戦神の盾』」
ドーン!
どちらも消えた。
被害こそなかったものも迷惑をかけすぎた。
いや、地面が斬撃のせいでえぐれたから、被害はかなりあったというべきであろう。
完全に埋め終える間に日は暮れてしまった。
そして、現在俺は九十九さんの前に正座している。
「すいませんでした。」
「いえいえ、私があなたの力量を見誤っていたのですから。」
九十九さん、さすがだ。
やはり尊敬できる。
だが、完全に悪いのは俺なので、口を開く。
「だが、…。」
続きを告げることはかなわなかった。
ガシャーン!ビリリリリリッ!
どこかのガラスが割れる音とその警戒音が屋敷に響いたのである。
読んでくださってありがとうございます。
2012/02/27魔術名統一のため一部改変




