護衛って大変!一日目・上
月夜は『つきよ』ではなく『つくよ』です
あしからず
<SIDE 翔>
はぁ、はぁ、はぁ。
俺は何でこんな目に遭っているんだ?
ほかにも警備の人がいたんじゃないのか?
それにまだ護衛の一日目だぞ。
背後に悪寒を感じ、渚を振る。
キンッ!
背後から飛んできたナイフは渚によって斬られる。
金属を斬ったにもかかわらず、まるで抵抗がない。
だが、そんなことに驚いている余裕がない、すぐさまナイフが飛んできた方向に突っ込んで、その犯人を気絶させる。
「後何人いるんだよ?」
そして、今日のことを思い返す。
朝、僕と千花は宿を出て目的の場所に来た。
もちろんなぜか、かわいいドレスのような服を着せられて、一応、ジャケットと渚は袋に入れて持ってきている。
門をくぐって、ドアをたたく。
ここまでの道のりの視線が痛かった。
門を通ってからドアにつくまで20分。
「遠い。」
「これが貴族というものなのですか。」
はじめのうちは俺も千花のように物珍しげに見ていたのだが……
「飽きた。って言うか迷子になっていないよな俺たち?」
「多分、大丈夫ですよ。」
「あれを見てもそう言えるか?」
俺が指差した先を見て絶句する。
そこにあったのはもしかしてと思って地面に置いといた渚だ。
「…………………。」
「…………………。」
立地条件のせいで市場の喧騒が聞こえる。
「………もしかして迷子ですか?」
「いや、もしかしなくても迷子なんだよ。」
俺たちの周りは生垣だ、それも俺たちの身長をはるかに超える、実に長さにして約3m。
「何か御用でしょうか?」
その声に振り向いて見ると、黒いスーツをまとった執事が立っていた。
「いや、用があるのはそっちなんだろ?」
「翔様と千花様でしたか。お話は全人の門のマスターから聞いております。こちらへついてきてください。」
と、行って歩き出す。
「この生垣はやはり侵入者に対してなのでしょうか?」
「はい、千花様。この生垣は空魔術迷宮の魔術がかかっていますので、たやすく進入する事はかないません。そして、侵入者用に同じく闇魔術吸魔がかかっております。が、効いてはいないようですね。さすがです。」
と、言って進んでいく。
千花のアミュレットだったか、それのおかげなんだろうな。
言う義理もないので黙っておく、大体言うなら千花が自分で言うだろう。。
と、突然執事が止まる。
目を上げると大きな屋敷があった。
でかいな、これが貴族の力というものか?
「ではこちらです。お入りください。」
と言って、ドアを開ける。
「忘れていたんだがあんたの名前は?」
「失礼、名前を名乗り忘れておりました。この屋敷の執事長をつとめております九十九でございます。」
「九十九さん、助かった。おかげで2時間も3時間も閉じ込められることはなくなったよ。」
自分で言ってて気づいたのだが初めてじゃないか?
俺がさん付けしたのは、それだけ尊敬するに値するということだな。
「いえいえ、執事として当然のことでございます。」
謙遜しつつも応接間に案内してくれた。
「まったくできる人だな。」
「その通りですね。」
千花と話しながらついていく。
応接間が大きい。
ギルドと同じ広さじゃないのか?
「奥様を読んでまいりますのでしばらくお待ちください。」
勝手に椅子に座って待たせてもらう。
しばらくすると背筋が伸びていていかにもできるという感じの若い女性が出てきた。
この貴族は代々女性が襲名するといっていたな。
ってことは
「いっちゃんのお母さんですよね?」
千花に先手を打たれた。
「いや、その聞き方はわからないと思うんだが?」
が、すかさず突っ込みを入れる。
「はいそうですよ。久しぶりですね。あのころはあんなに小さかったのに。」
わかるんかいっ!
「そうです、そうです。私は千花です。」
と、琴音と話している。
「年寄りは敬いなさい。」
心の中で呼び捨てしたのに。
心、読まれた!
「それくらい見てればわかります。」
でも、読まれないように心に壁作ったのに。
「あの程度で、私が…………謀りましたね。」
「今の自滅じゃ……「はかりましたね。」……はい、すいませんでした!」
琴音さん怖い、琴音さん怖い、琴音さん怖い、琴音さん怖い、琴音さん怖い。
< SIDE 千花 >
「いっちゃ…月夜ちゃんのお母さんですよね?」
「いっちゃんでも大丈夫ですよ。千花ちゃん久しぶりですね。」
「久しぶりですね。ご無沙汰していましたから。」
「と、挨拶も終えたところで、今回の以来の内容を説明するわね。」
横で翔さんが部屋に入って、何も話を始めないうちから、ぶつぶつと言っていてとても怖いんですが、どうしましょう。
琴音さんのほうを見ると、
「大丈夫よ、そのうちに治るわ。」
と、いっているので大丈夫なんでしょう。
「今回あなたたちにやってもらいたいのは、私の娘と一緒に誕生日を過ごしてもらうことよ。あの子も貴族があまり好きではないみたいだし、なにせ友達が少ないのよ。誕生会は、贈り物やら何やらで隙も多いから爆弾とか仕込まれたりすると危ないということで、貴族の友達はみんな親に止められているのよね。だから、お願いしたいというわけなんだけど。頼める?」
「いいですよ。何の問題もありません。」
友達の誕生日会なんて初めてですよ。
父上が許してくださいませんでしたから。
あっ!
「プレゼントを買っていないんですがどうしたらいいでしょうか?買ってくる時間ありますか?」
「いいですよ。あの子もあなたたちが来てくれただけでも喜ぶと思いますから。」
それでは私の気が済まないので、
「駄目ですか?」
と、聞いてみる。
「そうですね。でもまだ、誕生日まで六日もありますし明日にでも買ってきてもらえますか?」
「はい、わかりました。」
と、少し思案顔になった後に琴音さんが執事を呼びました、確か九十九さんでしたね。
「二人を案内してあげて頂戴。」
「分かりました。こちらへどうぞ。」
翔さんも顔を上げて目を輝かせています。
そんなにこの屋敷の探検が楽しみなんでしょうか?
私も結構楽しみにしているので人のことは言えませんが。
< SIDE 翔 >
怖い、できるだけ早くこの人から離れたいよ。
「大丈夫?少しやりすぎてしまったようね。謝っておくわ。」
どういうことだ?
「無系統魔術幻覚よ。あなたの知覚の部分に干渉したの、でも詠唱はしていないから威力は小さいのよ。だから、安心して。」
あぁ。って、安心できるかい!
「千花ちゃんと屋敷を回ってきなさい。」
スルーですか。
そうですか、ではいってくるか。
諦めた俺は立ち上がって、応接間から出て行った九十九さんについていく。
千花が心配そうな顔をしていたが、すぐに切り替わった。
多分、楽しみなのだろう。
護衛はほとんどしなくていいといっても、最低限のことは把握しておかないといけないということで、侵入者が出そうな場所の確認をしている。
まず、はじめに案内されたのが窓の多い、つまり進入経路の多い外側の廊下。
話によると、かなり強力な魔術もかかっているから簡単に割れたり入れたりしないそうなのだが、絶対はないということなのだろう。
次にテラスを案内された。
そこから街や城がよく見える、それからこの屋敷の生垣の迷路が絶えず変化しているのも、すごいとしか思わないね。
最後に特に華やかではないが、周りより少し装飾の入った部屋に連れてこられて入るように言われたのでドアに手をかけてあける。
そこには裸の千花と同じくらいの女の子が立ってい………ちょっと待て!
これはいったいどういうことだ?
女の子がこちらを見て、挨拶をしようとして気づく、
「こんにち……」
自分の姿に。
「ひゃわぁーーーーー!」
「すいません、すいません、すいません。」
千花と同じような奇声を発する。
幼馴染だからか?
「翔さんの変態。」
一部始終を見ていた千花にそういわれる。
「違うでしょ。どう考えても今の俺のせいじゃないよね?むしろ九十九さん、あなたのせいっていないし。」
「さっき用事があるからとかおっしゃって、テラスで別れたじゃないですか。」
「いや、ここに案内してくれたのは九十九さんだろ?」
「違います、九十九さんと分かれた後、すぐに翔さんが移動して、この部屋を開けたんですよ。」
これって幻k……あっ!
「琴音さん、やってくれますね。」
「正解、正解、大正解~♪」
「あなた自分の娘の裸を他人のしかも男に見せてなに遊んでいるんですか!」
「あの子の生活にも刺激を、ってね。大丈夫よ。あなたはその服装で、女の子にしか見えないし、今のは急にドアを開けられてことに対する驚きだと思うわよ?」
……服装?
そういえば、この服着てたんだ。
って、九十九さんも琴音さんもよく分かったな。
ん?女の子にしか見えていないって事は、やばい、早めに説明しておかないと最後に自滅するんじゃないか?
ガチャ
「まったくドアはノックしてほしいもの……なっちゃん?なっちゃんじゃないの?」
なっちゃん?
「よく分かったね、いっちゃん。」
ちょっと待て、千花となっちゃんって、これもかけ離れているだろ。
どういう渾名なんだよ。
「こっちは友達?」
「そうだよ。」
「女の子だからいいものを。いきなりドアを開けたら駄目でしょ。」
「……(どうしようどうしようどうしよう)。」
「でも、翔さんって男の子だよね?」
空気読んでくれ、頼むから。
「……………………………………。」
「……………………………………。」
どうしようこの空気。
「……………ひゃうぅ。」
千花と幼馴染って言うのは実は嘘で姉妹だったりしないか?
なんて考えてる場合じゃないよな。
どうしたものか。
「……れろ…。」
「何て?」
「わぁぁぁすぅぅぅれぇぇろぉぉぉぉぉぉぉ!」
ものすごい殴られてる。
こっちのほうが乱暴だ!
気を失ってしまいそ…ガンッ!…パタッ!
「翔さん、翔さん?」
声が遠のいていく。
なぜ、女性の人と会うたびに俺は気絶させられるんだろう。
そして、意識は暗闇に落ちた。
これが護衛対象、月夜にあった朝の話。
クリスマスにもかかわらず、25日に読んでくださった方、大感謝です。
それ以降に読んでくださった方もありがとうございます。
サブタイが途中で変更するかもしれません。
2012/02/11 魔術の統一を図るため
闇魔術『魔力吸収』→闇魔術『吸魔』に変更