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神とともに歩む者  作者: mikibo
常識学習編
27/98

隠し事はばれるものです

  <SIDE 翔>




「それって、千花の父親じゃないのか?」

凍った時間が動かしたのは予想外にも自分の口だった。

「……そうね。」

麻奈花の歯切れが悪い言葉が宙に浮かぶ。

時間は動いても、この空気は動かないようだ。

なんかこの空気は苦手だ。


この空気を吹き払うべく、俺は行動を起こす……ことはなかった。

なぜなら…


「どうして、父はギルドを離れているのですか?」


千花が口を開いたからだ。

さっき、麻奈花の口から父親の話が出たときは、心臓が止まってしまったのではないかというぐらいの直立ぶりだった。


麻奈花はというと返事に困り、視線が宙をさまよっている。

さっきから自分の思うように話が進んでいないせいか、少し動揺が大きいようだ。

最初のイケイケはどこへ行ったのやら。


「会話検索……該当文なし。」

「何だ?」

「わ、わかりません。」

千花も突然の麻奈花の意味不明な発言に戸惑っている。

「マザーにリンク。コード:ジョーカー、会話文のエラーを確認。質問に対する応答が設定されておりません。マザーに対応を要請します。」

『ふぅ。案外、エラーが出るのが早かったわね。申請を許可。術式の展開を確認。他のドールとの齟齬を解消。』

三人以外、ほかには誰もいないはずなのに、俺たちとは明らかに違う声が響く。

「こちらも展開を確認しました。」

『完全空間転移発動。警告。5秒以内に半径5メートル以内から退避してください。』

「な、なんだ?」

近くにいる麻奈花から意味不明な文字の羅列が現れる。

『5。対魔術緩衝壁起動。』

「えっ?」

何かが真奈花を覆う。

『4。正常に起動したことを確認。』

千花を見ると固まっている。

『3,2』

「やばい。離れろ!」

声とともに千花が後ろに跳ぶ。

『1』

麻奈花を中心に空間が捻じ曲がっていく。

『0』


ドーーーーーーーン。


「対魔術緩衝壁解除。ジョーカー、状態の報告を。」

『了解。自身の損傷皆無。術式の損傷同じく皆無。障壁の損傷軽微。』

「術式の起動に成功。その他のドールとの情報の共有を。」

『了解。コレクター、スピード、イグザクトに情報をリンク。…成功。』

「実験を終了。ジョーカーに一時権限を譲渡。」

『了解。通信を遮断します。』

何事もなかったかのように話をしているのは、さっき聞こえた声と真奈花の声だ。

「あんた誰だ?」

白衣の下にドレスを着ている。

何とも理解できないアンバランスな服装だ。

「真奈花ですが?」

いきなり現れた女性はそれがあたかも当たり前のように言う。

「はっ?どういうことだ?」

「それよりも、さっきのは何ですか?」

千花はこの人が誰だかはどうでもいいらしい…というより転移のほうが気になるらしい。

「空間転移よ。従来のは、目的地と自身の位置、それから転移させるものの情報。これらを起点に発動するものだけど、これはちょっと違うのよ。空間そのものを転移させることによって、転移させるものの情報と自身の位置が必要なくなったのよ。これによって、詠唱時間を100分の1以下に短縮できるようになったのよ。」

「す、すごいです。」

誇らしげに言う女性とそれを尊敬のまなざしで見つめる千花。

俺にはどこがすごいのかがまったく理解できない。

「えぇ~っと、何がすごいんだかわからないんだが?」

「これだから凡人は。」

なんかものすごく傷ついた。

「あのね。大丈夫だよ。知らない人も多いからね。」

その千花のフォローが痛い。

胸にチクチク来る。

「しょうがないわね。普通に転移魔術を使うと十分はかかるわ。」

「あぁ。じゃあ、さっきのはなんだ?カウントダウンは5秒だったが?」

「結論を急がない。まず、私の話をよく聞きなさい。」

「さっきも言ったように転移魔術は本来十分はかかるわ。それは処理する情報が多すぎるからよ。」

「情報?」

「そう。転移魔術には、目的地と自身の位置、それから転移させるものの情報。これらが必要になるわ。」

「はぁ。」

「だけどね。自分の事をあなたはどれだけ正確に知っている?」

「どういうことだ?」

「性別、髪の色、目の色とかの外見的な特徴や嗜好はわかるでしょう。」

「そうだな。」

「じゃあ、あなたは自分の身長、体重、自分の身に着けているもの、考え方、記憶とかいった内面的または見えないものに対してはどれだけ知っている?」

「確かにわからないな。」

そりゃ、そうだろう。

誰だって食べたものや寝ている間に伸びてしまった爪、これらを誰が把握できるかっていう話だな。

「これらを正確に知覚しておかないと転移はできない……いえ、ちょっと違うかしら。成功しないって言った方が正しいかもしれないわね。」

「どういうことだ?」

「自分のことをよく知っていたとしても、たとえば、自分の記憶が確かでなかった場合。その記憶は消えるわ。転移魔術は自分の位置を変える魔術じゃないのよ。転移魔術っていうのは、……自分を分解して指定した位置で再構築するという術なのよ。」



記憶が消える…だと。



「それはどういうことだ?詳しく説明しろ。」

今にもつかみかからんばかりの剣幕で言う。

まるで、自分の体が自分のものじゃないみたいだ、と冷静に心の隅にいる自分は分析している。

「落ち着いてください。」

息を吸い込む、地下特有の誇りくさい空気はなかったが、冷えた空気と古い書物の匂いがして、頭が少し落ち着いてきた。

「人に物を頼むときの態度がなっていないわね。まぁ、いいわ。転移魔術を成功させて、自分を分解して完全に再構築するには、分解した物質を自分自身で把握しとかなければいけないのよ。まぁ、当然よね、これは、建物を組み立てるのにも材料をきちんと把握しておかないとできないのと一緒よ。だから、自身の情報せっけいずを把握していなければ、そこは空白になってしまうのよ。それが記憶の喪失よ。それから外見的特徴の把握に失敗すれば……」

「存在そのものが消えるってか?」

「そういうことよ。だけど、あなたの場合その可能性は限りなく低いわね。」

「どうしてだ?」

「普通の忘却とのように時間がたつにつれて消えていくようなそんなぬるいもんじゃないわ。記憶そのものが消えるんだから、自分が記憶を無くしたということにさえ気づくはずがないのよ。記憶の残滓すら残さず消える。つまり、記憶がないという認識を持っていて、記憶の断片が残っているあなたが転移魔術の失敗によるものだとは、ほとんど考えられないわね。何事にも絶対はないのだけど。」


「そうだな。……!ちょっと待て、何であんたがそのことを知っている?」

「さてね。」

話してくれる気はなさそうだ。

残念ではあるが、諦めるしかないか。


ん?関係ないことではあるが、思いついたことを言ってみる。


「人を転移するのにそれだけの情報がいるんなら、空間を転移するのにはもっと情報が必要になってさらに時間がかかるんじゃないのか?」


この一言を放ってしまったことを直ぐに後悔することになった。


「聞きたい?聞きたいよね。それはねぇ。」

ニヤリ


しまった。

「依頼の話を…「そんなの後でいいじゃない。」…さいですか。」


しまったぁぁぁ!

なんかスイッチ入れちゃったよ。


「こらっ、聞いてるの?えっと、どこまで話したっけ?そうそう、空間の情報を読み取るのには、大量の時間が必要となるわ。でもね、空間そのものを入れ替えるのならその必要はないのよ。その場合に必要なのは、行き着く先の座標だけ。だから、自分自身の情報を読み取る魔術を使う必要のある転移魔術よりも数段早い時間で転移が可能になるのよ。これには一切行動をしない無生物ならば、本体だけも飛ばすことが可能よ。なぜ、動物が使えないかも知りたいよね。人や動物みたいに生き物は自分が止まったつもりでも心臓とかが動いてしまっているから、それは行えないのよ。そのための代替案が、空間を無生物と捉えて転移させる方法を思いついたのよ。」


……何言ってるかぜんぜんわかんない。


千花の方を見ると理解しているみたいで、しきりに頷いたり感激した声を出している。


「全く分かっていないようね。これの素晴らしさが。」

「とにかく転移するまでの時間が速いって事しか分からない。」

「まぁ、いいわ。」


……っていうか。

「あんたは何者だ?」

勢いで忘れかけていたが何とか思い出した。


俺すごいぜ、さすがは俺。


あっ!


でも、瞬間記憶持ってるから忘れたほうがむしろ問題なのか!?


今、思ったが俺の記憶を少し垣間見てからの俺の口調少しずつ乱暴になってる気がする。

まぁ、変える気はないがけどな。


「私は麻奈花よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。」

キッパリと言う自称:麻奈花の背景にキラッという言葉が見えるような気がする。


「じゃあ、さっきのは誰だ?」

「わたしの最高傑作よ。」

「えっ、さっきの人間じゃないのか?」

「人間に見える人形ってことですか?」

「そうよ。さっきのは、自動人形ドール、コードネームはジョーカーよ。でも、便宜上、麻奈花と呼んでもらっているわ。そろそろ、名前付けてあげたいんだけどね。百代ももよでいっか。ジョーカー、それでいい?」


決めるの早っ!

ってか適当!?


「イエス、マザー。ありがとうございます。」


あんたもそれでいいんかい!


はぁはぁはぁ。

突込みって疲れる。


「で、父はどうしてやめたのですか?」


一気に空気が重くなる。


「………今、その問いにそれを私が答えるわけにはいかないわ。それか、知りたいのなら龍炎に聞きなさい。」

「いえ……。」

今度は千花の歯切れが悪い。

「どうしたんだ?」

「実は私……」

言葉をいったん切る。

「家出してきたんです。」

「「はっ?」」


これには情報屋の麻奈花もびっくりらしい。


真奈花が事情を聞いている。

なぜか俺は聞かせてもらえなかった。


真奈花に理由を聞くと


「乙女の秘密を知りたがる男はモテないわよ。」


と、言われた。

まぁ、気にはなるが別に知らなければ大変なことになるっていうこともなさそうなので、聞くのはやめておいた。


真奈花が要約して言うには、(言うのかよ!と心で突っ込んだのに睨まれた。)

世界を本ばかりで見ているのは嫌だと言ったが、父親に聞き入れてもらえず。頭を冷やして来いと言われたから滝にいたら、たまたま翔がやってきてそれに便乗したということらしい。


「書置きはしてこなかったのか?」

「常識的に考えて不可能だと思いませんか?」

おっしゃる通りです。


「つまり、何か?その千花の父親から見たら、俺はさしずめ誘拐犯ってところか?」

「そういうことになるわね。まず間違えなく、理由も聞かれずにズタズタにされるでしょうね。」

なんか涙が……

「千花、帰る気は…「嫌です。帰りたくありません。まだ、世界そとを見てまわりたいです。ですから、ですから……。」ごめん。悪い。泣くなって。はぁ~。俺、殴られるの嫌なんだろうけどな。っていうか殴られても俺の記憶は大丈夫だよな。殴られて飛んで行ったりしないよな。」

「大丈夫よ。」

「龍炎も千花と同じように鎌もってるから、ズタズタにはなってもボコボコにはならないから。」


泣いてもいいですか?


「それと残念なお知らせがあるわ。」

「そんなもの犬にでも食らわしといてくれ。」

もはや、嫌な予感しかしない。

「いいのかな?聞かないと後悔するかもよ。街中で消失みたいな感じになるかもね。」

「……聞こう。」

「龍炎の精鋭部隊が10名、一時間ほど前に探索に出されたらしいわ。」


ぐはっ!

目の前に死出の道が見えるよ。


「まだ、探索範囲は広いから、ここに来るまでに5日ってところかしら。近くに町はここと山をはさんだ先にあるセェルベイしかないからね。しかも、セルベイは商業都市だからね。ここにいるのが看破されるのに4日かな移動で1日ってとこでしょうね。」

「俺が死ぬまで、あと4日か。」

「残念なことに今回は龍炎も探索に来ているのよね。まぁ、戦闘技能は高いけど探索系はそんなに高くないわ。だから、猶予はあと3日かな。」


いや、それでも短くなってるし。

どうしよう。

俺の未来って、死神に狩られて終わりなのかよ。

これ、終わったら聞こうと思っていた自動人形もどうでもよくなってきた。


「まぁ、頑張ってちょうだい。久しぶりの新人だから、潰さないようには言っておくから。」

「初めて真奈花がいい人に見えたよ。」

「なんか言った?」

「いえ、何にも。」


いまさらだが席に座るようにすすめられる。

そして、俺たちが座ると麻奈花も目の前に座って口を開いた。



「とりあえず、仕事の話をしましょうか。って、この言葉、何度言えばいいのかしら?」




よんでくださってありがとうございます



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