魔術は斯くも美しい 中
<SIDE 翔>
「はい!?今、なんて?」
「盗賊団をつぶしたって聞こえたのですが?」
どうやら残念なことに俺の耳は正常らしい。
いや、千花の耳も幻聴を聞いたのかもしれない、いやそうであってくれ。
「たかだかB級組織に私が遅れを取るとでも?」
「いや、そこじゃないから。規格外だな、まったく。」
「そうですね。」
その強さを前に俺たちは驚きを通り越してあきれている。
っていうか本当に倒したんかい。
「ところで、B級って何だ?」
流れで驚いてみたが、どれくらいなのか想像がつかない。
そんじょそこらの世間知らずなんかとはレベルが違うぜ。
……悲しい。
「この国、いえ、この世界には、犯罪組織が数多くあるの。それをランク付けしたもの。あくまでも目安だからね。まず、E級は10人位で、D級20人位は、C級は50人位、B級が100人位、A級はそれ以上の人数または国際指名手配されてるもの達ね。それと特A級が数に関係なく最高レベルの危険度を持った組織につけられるものよ。それと同じように危険人物についてもこのようなランク分けがあるわ。基準は、ギルドと同じで、強さや能力で決まるわ。E級が最低で特A級が最高、って事よ。まぁ、ギルドは、その下にもランクがあるけどね。」
……んん?
「って、さっきので100人も倒したのか?」
「えぇ。B級は一人30金貨だから、合計で3000金貨くらいかな。しばらくは生活には困らないわね。」
さりげなくすごいことやってるよ、この人。
っていうか考えてる観点がまるで違うぞ。
「そう言えば、美咲が言ってる神の杯ってやつは特A級なんだろ?」
美咲の話を思い返しながら、麻奈花に問う。
「正確なことは不明だけどね。私はこれは嘘ではないかと思っているわ。」
「!?……どういうことだ。」
「今まで殺された人たちの身元は誰一人としてわかっていないわ。」
「!?」
千花は何かに気付いたようだ。
「それがどうしたんだ?」
俺は全く理解不能だがな。
「あのギルドによって、1000人が殺されたとされています。それの誰一人として身元が判明していないのよ。」
「それの何が変なんだ?家族全員殺されたりしたらそうなるじゃないか。」
「本人とつながりがあるのは、家族だけじゃないわ。親戚、近所の人、郵便配達の人とかいるわけよ。」
「その人たちも殺されたらそうなるじゃないか。」
「察しが悪いわね。あなた、知り合いの知り合いの知り合い…っていう風に続いて行ったらどうなると思う?」
「!……ほぼ全世界の人を殺さなければいけないってことか。」
やっと分かったような気がする。
「そういうこと、それに確かに身寄りのない子供もいるけど、そういう子たちは施設に預けられているし、本人がわかるように国に登録されているわ。それなのに身元が不明っていうのはおかしくない?」
「じゃあなにがおきているというのですか?」
しばらく三人の間に沈黙が舞い降りる。
「わからないわ。実際に確かめないことには情報も入らないから何とも言えないしね。」
と、それからなにやら考え込んでから俺たちに言った。
「私の推測だけど、天の杯は誰も殺していないというよりそういったギルドではない。」
「ッ!?」
この話は根本から、今までの考えを壊すものだ。
「事情があってその殺人ギルドという名を背負っているのではないかというのが私の考えね。その理由も知らないしこの話が確実なものかどうかもわからない。だから、美咲に言っちゃだめよ。」
「言えるわけないだろ、こんな話。」
言ったら美咲はどうなるだろうか?
確実であっても確実でなくても苦しむだろう。
自分の家族を殺した犯人がわからず苦しむのか、その可能性を胸に秘めたまま戦場に踏み込むのか。
ただ、それだけの違い。
「それもそうね。」
俺の心の葛藤を一目で見抜いたようだ。
純粋にこの人がすごいと思わせる瞬間だ。
「ですが、今までの死者は何なんですか?」
「幻覚か人形かの二択でしょうね。」
「人形だったら気づくんじゃないのか?さすがに人と人形は間違えないだろ。」
「人形遣いのトップクラスの人はそれすら可能にするのよ。内部構造までもすべてね。」
「見分ける方法はないのか?」
「あるにはあるけど、困難ね。一つ目は、本人。これは無理ね。二つ目は、その人形遣いより強い使い手であること。これも難しいわね。人間並みに再現できるような使い手はそんなにいないもの。三つ目は、見抜きの魔眼くらいかな。これは絶対数が少ないから、使えないわね。」
「どうしてだ?」
「数が少ないから、値段もすごいのよ。魔眼って言うのは先天的なものだから特にね。それに、魔眼は忌み嫌われているから、生まれたときに殺されるか売られるかしてるから居場所もわかりづらいのよ。」
そんな入手不可能に近い情報にもかかわらず、わからないわけではない、と言外に告げている台詞に、背筋を冷や汗が伝う。
この人は絶対に敵にまわしたくない。
「別にお金を払ってやってもらえるのならやってもらえばいいんじゃないか?」
「それは無理、さっきも言ったように法外な値段のせいで、お金がなくなるわ。」
「別に2,3体程度でいいんじゃないのか?それくらいならそんなに高くないだろ。」
「一体につき金貨5枚よ。たとえ、その値段をクリアしてもだめね。戦うのはすべて人形とは限らないわ。人間がいるかもしれないわ。せいぜい人形使い同士が戦った可能性が上がった、程度のことよ。」
「どうしようもないってことか?」
「まぁ、そういうことね。」
~SIDE ??? ~
三人が|奥(仕事場)に行ってから数分後。
服屋コズミダ。
表の顔は古着からオーダーメイド、下着から正装まで何でもそろう服屋。
裏の顔は狡猾にして、弱みを握られたら最後と呼ばれる情報屋。
”策謀の魔女”と裏では有名だ。
この都市には未認可だが、二つ名を持つに相応しい奴らがかなりいる。
そういった人たちは、ギルドや民間人から称えられたり、裏ギルドから恐れられたりして名付けられる。
麻奈花は、後者だ。
「まったく、あいつだけは敵にしたくないわね。」
私のつぶやきは本人に届くことはない。
私がいるのは、店の近くの建物の屋根の上。
「くしゃみぐらいしてくれるかな。」
と、下を見下ろすと、気になる影が……。
「ひと~り、ふた~り、さんにん。まだ、あの子達は何もしてないのに、マークされてるのね。……ちょっと違うかもね。」
邪魔する子にはお仕置きが必要ね。
ホルスターから銃を取り出す。
手にしっくり馴染むつくりだ。
まったく、あの偏屈じいさんもいい仕事してるわね。
「魔弾装填 属性:無 付属:麻痺」
パン、パン、パン。
断続する軽い銃声が耳に届く。
それに伴ってかすかな魔力の残滓が漂っていくのが、観える。
いい音ね、さすがオーダーメイドだけのことはあるわね。
地面に倒れているやつらを回収する。
やっぱり3人まとめて持ち上げるのは重いわね……。
が、一人ずつ運ぶというちまちましたことは苦手だ。
「魔弾装填 属性:無 付属:強化」
自分に向けて銃を向ける、傍から見たらアホか若しくは自殺志願者に見えるだろう。
だが、人払いの術式を使っているため、この三人を除き、周りには人がまったくいない。
「人払いしたから、後で、麻奈花に怒られるかな?」
今度はつぶやく声に答えるものがあった。
「しょうがないですよ。」
耳につけてる機械から音声が流れてくる。
イアリング型の通話機だ。
自身の魔力を使って、声や映像を転送することができるものだ。
ただ、高価なため一般人が手に入れられることはほとんどない。
「広域探索をかけてちょうだい、美鈴。」
美鈴は私のナビゲーターだ。
「イエッサー。条件は何にいたしましょう?」
「麻奈花の店を中心に500メートル、違法性のありそうな武器または毒物の所持者よ。」
「半径500メートル、座標固定。
われは失せ物を探すものなり
隠せし物を見通す力をここに
それに至る道を示せ
出でよ《道を照らす明るき光》
…………………いません。過去1時間のに渡って動きなしでございます。」
美鈴もいい仕事してるわね。
「そう。なら面倒くさいしいっそのこと、じんm・・・質問しようか。」
せっかく担いだが放り出す。
一人は起きているようだ、それも驚いたことに少年。
「お前は何者だ。気配が感じられなかった。」
麻痺で体が自由に動かないだけで、全く動かないわけではない。
それでも、話せる少年はプロといってもいいだろう。
「訓練不足よ。私の知り合いならもっと分からないわよ。それから、あなたは自分が何者かって聞かれたら素直に答えるの?」
一呼吸おいてから、付け足す。
「それに今の状況を見て、あなたたちに問う権利があるとでも?」
「ぐっ、確かに。だが、これからどうするつもりだ。情報なら吐かん。殺すなら殺せ。」
「ひとつだけ聞きたいことがあるの。」
「答えないといっている。」
「あなた達のオーナーは誰?」
「………。」
沈黙したままで答えようとはしない。
だが、答えは倒れていた一人から返ってきた。
もう一人は起きれないようだ。
もはや失格ね。
「火獄、改革派の一人。理由は、月夜と縁の或る千花を殺して穏健派の一人、月夜の父である暁を挑発するためだな。」
「貴様、裏切るのかッ!」
さっき、私が失格とした男が立ち上がった男に糾弾する。
「僕は初めから君たちの仲間じゃないからな。裏切りなんてしたことないもんね。元から、僕は光の味方だしね。」
名前を呼ばれて頬が少し赤くなるのを感じる。
私もまだまだ修行不足だな。
「私の名前を教えてどうする!」
「いや、別に大丈夫でしょ。」
「あの、銀鷹だとっ!」
「大丈夫じゃないでしょ。ばれたじゃない!」
ジトッと相手の顔を見る。
二つの瞳がこちらを見つめてくる。
体温が上昇してくる、顔はたぶん真っ赤だろう。
あわてて目をそらす。
「冬樹のばかっ!」
「えっ?俺、何かしたか?」
倒れている暗殺者達は、おなかいっぱいみたいな顔でこちらを見ている。
いらいらして冬樹に向かって銃を向ける。
「魔弾装填 属性:火 付属:蒸発」
「ちょ…っと…それ…は…危な…い!」
全部、かわされる。
「それよりもすることがあるでしょ、だから落ちついて……ね?」
「そうね。」
私は、暗殺者達に向かって銃を向ける。
「あなた達は、命乞いはしないの?」
「人を殺してきた身だ。それくらいの覚悟はできている。」
裏の仕事をしているやつには珍しい澄んだ蒼い目だ。
「魔弾装填 属性:無 付属:忘却 加装:昏睡」
崩れ落ちる二人。
起きたときにここ数十分の記憶はないだろう。
「蒼い目のした子にはまた会うような気がする、ちゃんと暗殺業から足を洗っているといいのだけど。」
「大丈夫だよ。きっと、やめるさ。でも、そんなに心配なら連れて帰るか?ギルドの役に立ってくれると思うけど。」
「つれて帰りましょ。ギルドに入るかは本人の意思で決めさせるわ。この子の未来は自分で決めてもらわないと。」
「もし入ったら、将来有望な子がたくさんいることになるしね。美咲に千花ちゃんに翔、そしてこの子。確か名前は百枝ちゃんだったかな。」
「………ちゃん?」
「そうだよ。もしかして男の子だと思ってたの?」
そのとおりだ。なにせ、全く胸がないのだ。
「何考えてるか大体予想がつくんだけどさ。それってひどくない?男の俺が言うのもなんだけど。」
「うっ。」
「で、もう一人の方はどうする?」
「放置。あいつをギルドに引き入れても、いいことないわね。根性ないし。」
「じゃあ、帰りますか。」
一人の男を残していく。
人払いの術式を解除したから、すぐに人が来るだろうし早く去るとしますか。
毎度ありがとうございます
暇な方は評価もしてくれるとうれしいです。
主人公のチート補正がまだ出てこない・・・。
というより周りがチートになりそうな展開です。
しないけど(多分)