天秤のギルド上
毎週日曜日に更新していきたいと思います。
四大ギルドのひとつ、調和と中立を象徴する天秤を掲げる全人の門。
俺はそのギルドの扉を開けた。
「・・・・・・・・・。ここって、ほんとに四大ギルドのひとつなのか?」
どう見ても寂れているとしか言いようがない。
屋根には大きな穴が開き、暗くなり始めた空に輝く星が見えている。
奥のたくさん紙の張ってある板のとこだけが唯一きれいなのである。
「私がいない間にこのギルドに何があったの?もしかして、またマスターがキレたの?」
美咲が呆れて言う。
「そうだ。光のやつ加減もせずに打ちやがってほんとに。依頼掲示板と建物の柱や壁を守るので精一杯だったぞ。」
と、悪態をつく青年がいた。
それから、何事もなかったかのようにこっちを向いて言った。
「おかえり、美咲。そちらの方たちは、依頼者かな。見てのとおり立て込んでるし、受付時間も日が沈む前までだから、また後日に来てくれないか?」
「ただいま、冬樹。マスター補佐は大変そうね。それとこの二人は、依頼じゃなくて、入会しにきたの。」
「悪いことは言わない、やめとけ。この状態が週に一度は起きるぞ。」
「ほかに行く当てがないんで………。」
俺はこの人、なんか依頼人とそうじゃない人の扱いが違うぞ、と心の中で突っ込んでいた。
「そういうことも大事なんだぞ。」
あれ、心読まれてる?
「いや、心は読めないぞ。」
じゃあなぜ?
「顔に出てる。」
えっ!そんなわかりやすいのか俺は。
「いや、嘘だ。俺が君の精神にリンクしているからだよ。君、魂どうしたの?ずいぶん深いところにあるけど。」
「わからないです、記憶もないので。」
千花にでも聞けばわかるだろか?
「そうか。」
「ところで、この状況はどういうことなのでしょうか。」
と、黙っていた千花が口を開く。
「三日前に依頼が届けられて、その内容は大金持ちの気に入らない行商の移動依頼だったんだけどね、隣町のユゥフィーから王都デイジーまでの。咲と唐木が受けたんだけど、その間のミスカル峠を越えているときに、山賊が出たんだ。山賊自体はよく出るし、二人とも注意してたんだ。山賊は合わせて五人、力量もこっちが勝っていた。でも、行商のやつが勝手な行動をした。逃げようとしたんだ。当然、この手の行為に慣れている山賊から逃げ切れるわけがない。それをかばって、唐木は左腕を失ったんだ。それで、こっちについてから、あの行商が言ったんだ。あんな危ない目にあったんだから、お前らに払う金なんてないとな。で、光がキレた。」
と、一息つく。
「ふざけるな。二人とも腕は一流なんだよ。素人が、いらんことさえしなければ、左腕がきられることはなかったんだよ。お前も腕、消し飛ばすぞ。ってすごい剣幕でな。俺はここら辺一帯に、強化魔法をはった。軽くぶち抜かれたけどな。」
「確かにそいつは気に入らないんだが、なんで天井?商人に向かって放ったら、普通、壁だろ。」
俺が聞く。
「最後放つ瞬間にな。唐木が体当たりしたんだ。光が倒れて上に打ち上げたその結果だ。」
「マスターは、今どこに?」
と、美咲が聞く。
「憂さ晴らしに訓練所で魔術ぶっ放しているぞ。明日まで訓練所が残っていればいいがな。あれも一応国のもんだしな」
「マスターは大丈夫そうね。唐木さんは?」
「二階の右端だ、唯一破壊を免れた部屋だ。まさかあれするのか。知られてもいい覚悟はできたのか?」
「覚悟はしたわ。使えるのに使わない、救えるのに救わないって言うのはやっぱりできないから。」
「まぁ、緘口令は敷くぞ、一応な。期待はするな。」
「ありがとう。」
俺たちは二階に上がった。
「わたしはね。死人以外なら何でも治せるの。これは驕りでもなく、自慢でもないただの事実。」
「神の力か。」
「そう、普通の人が使うのは回復魔術でも・・・、私、うんん私たちが使うのは、再生魔術よ。でも、再生であって蘇生ではないだから死人には干渉できない。」
と、唯一残った部屋の前に立つ。
そして、美咲がドアを開ける。
そこには、ベットに横になっている腕を失った唐木らしき男とその横のいすに眠っている咲らしき女性がいたが、ドアを開けるとどちらも気が付いた。
さすが一流。
「美咲ちゃんどうしたの。」
と、咲が聞く。
「他言無用です。」
そしてささやく。
「母なる大地よ
我が願いを聞き届けよ
その母より生まれし子に癒しを
子より失われし物を
今ひとたびこの地へ返せ」
腕が形成されていく。
「こ、これはいったい?」
「だから、他言無用です。」
と、言って美咲は出て行った。
唐木と咲はずっと頭を下げていた。
2011/11/31 修正
2012/02/07 修正