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NoLifePrincess  作者: 墺離
8/11

狂気の王子-2

 「んっ…」


 目が覚めてまず目に飛び込んできたのは白のシーツ。

 ゆっくりと身を起こしてあたりを見渡すが周りは薄闇に覆われている。


 意識を手放す前の出来事を思い返し奥歯を噛み締める。

 肌に伝わる周りの空気とは違う冷やりとした感触に視線を落とせば、ご丁寧にも両手足に枷がつけられていた。

 

 (ディムロスめ)


 ひどく悪態をつきたい気分だった。

 地上に居を移してからというもの、いつかあれ(・・)が目の前に姿を現すのではないかと身構えていなかったわけではなかった。兄弟たちの中でもあのしつこさは群を抜いている。

 今まで姿を現さなかったことにわずかばかりに慢心していたのかもしれない。いずれにしろ今回のことは自身の失態だと猛省した。

 

 (あれが関わると何時もろくなことにならない)


 大人しく捕まっているつもりなどさらさらない私は、髪飾りに仕込んであった小刀を手に取ると枷を外しにかかった。

 

 ディムロス-・・"狂王子"

 18番目の兄王子の彼は兄弟や冥府の者たちから畏怖と侮蔑を込めてそう呼ばれる。

 数ある兄弟の中でもその実力は抜きん出ており、王位争いが始まると同時に率先して他の兄弟たちを殺して周った男だ。

 ただの頭の狂った殺戮快楽者-・・それだけならどれほど良かっただろうか。


 彼は第三王子であるミリアンに負けじ劣らず頭もよく、策略に長け、そして強い。

 どれだけその性格が破綻していても王候補の筆頭に上げられるほどの実力、それは私も認めざる終えない。

 

 思えばそんな彼に目をつけられてしまっているのが私の不運というべきことだろうか。


 初めて会ったときから-・・あぁ思い出しただけで虫唾が走る-・・何かと絡んでくる。

 何度死にそうになったことか…ミリアンお兄様たちが助けてくれなければきっと私はきっと生きてはいまい。あの顔を見るだけで顔が引き攣るようになった、苦手な、いや天敵といってもいい存在だ。


 誰が好き好んで人の苦しむ様を見て興奮を覚える変態などに好意を寄せるというのか。


 カチャー・・手枷が音を立ててシーツに滑り落ちた。これで手足を戒めていた4つの鍵がすべて解かれた。

 すっかり跡がついてしまったところ摩りながら、自由になった両足を動かしてもう一度自分のいる場所を再確認しようとして…周囲に響き渡る拍手に動きを止めた。


 「だいぶ上手になったじゃないか、レティ。昔より半分もかからなかったね」


 響く拍手と声は四方の薄闇から聞こえるばかりで相手が何処にいるのかは定かではない。

 身構えれば体全体の筋肉が必要以上に萎縮し、知らずうちに手の平が湿っていく。


 「姿を見せろ、ディムロス」


 「おぉ、怖い。しかし殺気立つお前は何よりも美しいよ、レティ」


 次いで聞こえてきた声は、思っていたよりもすぐ側ー・・耳元で囁かれた。


 「っ!!」


 ぞわりと総毛立ち、反射的に手にした小刀を背後へと振りかざす。

 だが呆気なくも小刀は宙を飛び、乾いた音を立てて薄闇の中へ消えていった。

 そして振り返り際には確かにそこにいたはずのディムロスの姿は私の視界から消え、何処に行ったのかと気配をたどる前に背後から伸びた()に私は顔からベッドに沈み込んだ。


 「まだまだ」

 

 「っ、離せっ!」


 「駄目、レティは我儘だから少しお仕置きしてあげないと、ね?」


 片手で頭を、膝で肩を後ろから押さえつけられ身動きがとれない。

 その束縛から逃れようと唯一自由な腕を動かそうとすれば、残った手が両腕を捕らえ後ろでひねり上げられる。容赦のないその力の入れようにぎゅっと歯を食いしばる。


 「どうしたの?痛いなら声を上げればいいのに、本当にいじらしいねレティ」 


 誰が出してやるものか、この男の前で悲鳴を上げるなど益々こいつを喜ばさせるような真似できるはずも進んでするつもりもない。更に食いしばる歯に力を込める。が、


 「ひっ」


 腕の痛みが突然なくなったかと思えば、突如として耳に伝わったぬるっとした生暖かい感触に思わず口から声が漏れ出てしまった。

 耳朶を甘噛みしたその口だゆっくりと味わうように首筋へと降りていく。時折、歯をたてては強く噛み後をつけては反応を楽しんでいるようだ。


 「いい香りだ…なぁレティ、ドレスは何色がいい?血の様な真っ赤なドレスか?それとも冥府に相応しい漆黒、あぁ、お前の髪に合わせて純白もいい…どれも映えそうだ。いっそのこと全部着せてしまおうか」


 うっとりと話すディムロスを肩越しに睨み付ける。


 「何度言えばわかる、私はあなたの花嫁にはならない!」


 「何度言わせればわかる?お前は俺の花嫁だ」


 ふっ、と背中の重みがなくなった。ディムロスが身をおこし体を離すのを横目で見ながら素早くその下から抜け出すと距離をとった。

 

 「本当にいけない子だ、レティ。それともそんなに俺に"お仕置き"されたいのか?」


 「誰がー・・っ」


 くつくつと笑いながらディムロスは腕を組んだ。


 「レティ、可愛い可愛い俺のレティ。昔懐かしい"遊び"をしよう」


 「?」


 「よくやっただろう?」


 ほら、とディムロスは両手を大きく広げた。

 すると彼の足元から大きな"影"が広がる。


 「!?」


 瞬きの間に"影"は辺りに広がりつくし、四方を支配していた薄闇でさえ飲み込んでしまう。そしてあたりは真の"黒"に塗りつぶされ何も見えなくなった。


 『"鬼ごっこ"だ、レティ』


 闇の中に響く声。

 その声はどこまでも優しく、そして狂気を滲ませた響きを持つ。


 『5分時間をあげよう、そしたらゲーム開始だ』


 パチンと指を鳴らす音が響けば、今度は私の足元を始点に"影"が去っていく(・・・・・)

 やがて闇が消え、あたりは色を取り戻した。

 だが目の前に広がるのは先ほどまでとは違う場所ー・・前後左右、何処までも続く煉瓦の塀が取り囲む巨大な"迷路"。


 『無事にゴールまで辿りつけれればお前の勝ち。今夜はそのまま帰してあげよう』


 でも、と憎たらしい声は続く。


 『"(おれたち)"に捕まったらお前の負け。たっぷりと"お仕置き"をしてあげる』


 ガチャン、と頭上から歯車が回り始めた音がした。上を見上げれば天井の見えない闇、そこから吊るされた巨大な砂時計。

 砂はもう落ち始めている。


 『さぁ、上手に逃げきってご覧?』


 私は走り出した。






 

 

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