第2章 あと1週間で、終わる
また、元の世界の夢か。
家族と過ごした、何気ない日常の夢。
友達もいなくて、恋人なんているはずもなかったけれど、看護師の仕事だけはなんとかこなせていて、不満があるわけでもなかった日々。
この世界に来て、もう五年が経つというのに。
この世界では、たった一人だという現実を見せつけられる夢だった。
私は友永明日香、三十五歳。
三十歳のとき、飛行機事故に巻き込まれ、その直後、このローディア国に落ちた。
たぶん、家族はあの事故で死んでいる。
何度も思った。
どうせなら、あのとき一緒に死なせてくれればよかったのに、と。
けれど私は、生き残ってしまった。
そして、なぜか異世界。
今は王立病院の看護人として働いて三年になる。
夜勤もある。慣れたはずの仕事なのに、最近は体に残る疲れが長くなった。若い頃みたいにはいかない。
この国では、異世界人を最初に見つけた者が、経済力さえあれば五年間その面倒を見る決まりがある。保護人として認定される制度だ。
何十年に一度、様々な世界から人が落ちてくるらしい。珍しいことではあるが、絶対にない話でもない。そういう世界。
私を見つけたのは、第4騎士団の騎士、ジンさんだった。
それから二年間、私は彼の家で世話になった。
といっても、彼はほとんど騎士団の寮で寝泊まりしていたし、恋人でもない男女が同じ家に住むのはよくないからと、私がいるあいだは基本的に泊まることはなかった。本当に、最初の数日、私が混乱していた時期を除いては。
その二年間で、ジンさんの多大な協力のもと、この世界で生活するための基盤を整えた。
異世界人に与えられる特有の能力なのか、文字も言葉も、なぜか最初から理解できた。
元の世界で看護師だったこともあり、この国で看護人として働くための手続きも、思った以上にスムーズに進んだ。
三年前、私はジンさんの家を出て、王都で部屋を借りた。
働き始め、自分で稼ぎ、自分で暮らす。当たり前のことを、ようやく当たり前にできるようになった。
三十五歳だ。
いつまでも誰かの善意にぶら下がっていられる年齢ではない。
五年が経てば、異世界人への国からの特別補助手当ても打ち切られる。
王都の家賃は高い。
手当がなくなったあとも、ここで暮らし続けるのは現実的じゃない。
頼れる家族も、帰る場所もない世界で、無理をして体を壊したら終わりだ。
それに何より、ジンさんは、保護義務がなくなっても、私がここにいれば、責任感の強さと優しい性格で、きっと私を気にかけ続けるだろう。
王都にいれば、私はその優しさに甘え続ける自信があった。
あと一週間で、保護期間も、特別補助手当ても終わる。
だから私は、王都を出るつもりだ。
家賃が安くて、治安がよくて、仕事がある町。
そんな場所を、探さなければと思っている。。
それだけは、もう決めている。




