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繰り返す夢

あの男は「あいつに用がある」と言っていた。


(ってことは、あいつの過去を読み取れば分かるんじゃ……?)


僕は彼の首に噛みつき、血から過去を覗こうとした。

しかし、彼の血は芳醇な香りを纏い、理性を容易く奪ってくる。

味も、この世の何よりも絶品だ。

呑まれそうになるのをぐっと堪え、記憶の奥へと潜っていく。


――これは、錠?


探っていると、鍵のかかった領域に行き当たった。


「なんだこれ……ま、壊すか!」


全力で力を振るったが、びくともしない。


「んなっ……!?」


僕の力を防ぐほどのものが、こんなところに?

舌打ちした瞬間、視界が揺れた。


……クソ、時間切れか。


そこで、意識が途切れた。



「んっ……」


「あ、起きた?」


「ああ、君か」


「で? 急に噛みついて、成果なしってわけじゃないよね?」


「それなんだけどさ。君の記憶、鍵がかかってる」


「鍵?」


「自分でかけたのか、誰かにかけられたのかは分からない。でも君には、そんなことができる力はない」


「……誰かに、記憶を消されたってこと?」


「たぶんね」


(そういえば、あの男も“頭をいじられた”って言ってたな)


「なあアスモデウス。俺って、そんなに臭う?」


「は?」


近くにいたバルバトスが吹き出した。


「ははっ。臭くはないよ。パイモンも、そういう意味で言ったんじゃない」


「まだいたの?」


「年寄り相手に口が悪いな。まあいい。君も起きたことだし、俺は戻るよ」


「ありがとうございました」


「いいさ。君は気に入った」


「クソジジイ!!」


「アスモデウス、暴れすぎ」


俺が服を引っ張って制止すると、彼は意外にも大人しくなった。


「はぁ……じゃ、戻るよ」


指を弾いた瞬間、視界が白に反転する。


「あー、やっと戻れた……」


「アスモデウス、眠いから俺は寝――」


言い終える前に、意識が落ちた。



鼻を刺すほど濃い花の香り。


(ああ、またか)


昔から、何度も見る夢。


「ミカ! 絶対、絶対また会おうね! 約束だよ!」


叫ぶ俺に、君は泣きそうな顔を向けるだけだった。


「バイバイ、凜ちゃん……」


笑った君は、花吹雪に攫われていく。

勝手に取り付けた約束に、返事はなく。

伸ばした手は、空を切った。



痛みで目が覚めた。


「またかよ……」


「ああ、起きちゃった? 相当痛いだろうけど、頑張ってね〜」


「麻酔とか、ないわけ?」


「ここにはないよ。取りに行くのも面倒だし、再開ね」


「あるじゃんか……」


迫ってくるそれを、受け止めるしかなかった。

そして、あっさりとその時は訪れる。


「よし! 聞こえる?」


「……何をした」


「生きてるっぽいね。あ、鏡用意する」


映ったのは、頭と体が完全に分断された自分だった。


「うわぁっ!」


「じゃ、次」


回復魔法の詠唱が始まる。


「近くにあるとくっつくんだね。じゃあ、離れてたらどうなるんだろ。……もう一回ね」


「ちょ、待っ――」


再び、首が落ちた。

思考がうまく回らない。


「うわ……結構離れてたのに磁石みたいに戻った。頭側が基点か……あ、生きてる?」


「う……」


声にならない。


「生きてるっぽいね。今日はもういいや」


指を弾かれ、また白い部屋へ戻された。


(血が……足りない)


体が冷え、死を覚悟して目を閉じる。



「君は……あのときの」


「凜ちゃん? なんでここに……?」


「意識を失うところまでしか覚えてない」


「本物?」


「それはこっちの台詞だ!」


「なんでそんなに声を荒げるんだ?」


「……君を見ると、頭がひどく痛むんだ」


ズクズクと頭を深く掘られているみたいな感覚。

男はこっちに近づいてきて俺の額に唇を落とした。


頭の痛みは更に酷くなり、身を捩ることしかできない。

気づいたときには涙が出ていた。


「ミ……カ……」


「どうしたの?」


「約束……」


「うん。また会えたね」


花がほころぶような笑みを見たあと、また強い花の香りに包まれた。この記憶にも終わりが訪れる。



「……ミカッ!」


跳ね起きる。

そこにいるのは、泣いている自分だけだった。


(今のは……何だ?)


「あ、起きた?」


「アス……ごほっ」


名前を呼びきる前に、吐血した。


「アス、か。君にそう呼ばれるの、悪くないね」


視界が歪む。


「アスモデウス、何をした?」


「“アス”って呼んでくれたら教えてあげる」


「……アス」


「新薬の開発。ウイルスを入れた」


話す間にも、鼻血が落ちる。


「じゃ、薬入れるから大人しくして」


注射針が刺さる。


(痛みには慣れたと思ってたけど……病気は別だな)

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