金髪の男
本物の神谷と藤田さんは、さっき通り過ぎた運動場のような場所にいた。
「森川!清水!それに結城さんも!」
神谷がこちらに駆け寄ってくる。
「神谷、今の状況わかってる?」
「ああ……敵国が攻めてきたっぽいってことと、俺らが狙われてるってことくらいだ」
「じゃあ、俺たちが持ってる情報と変わらないな」
「逃げろって言われたけど、どこに行けば……」
その時、上から爆破音が響き、反射的に身を隠す。
「もう、ここまで来てるのか……?」
物陰から様子を窺っていると、突然心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。
「っ……!!」
脂汗が滲み、寒気が止まらない。
顔を上げると、そこに立っていたのは金髪の男だった。
「うっ……」
うめき声を上げた瞬間、顎をくいと持ち上げられる。
支配するような金色の瞳から、視線を逸らせない。
「久しぶり、凜ちゃん」
にこりと笑うその顔に、見覚えはない。
「……誰だ」
「……覚えてないの?」
「覚えるも何も、あんたと会ったことはない」
男はじっと俺を見つめ続ける。
理由もわからず、ただ気味が悪かった。
「……頭をいじられたんだね」
「……え?」
直後、背後から発砲音が響く。
短い黒髪に、紅く光る瞳の人物が銃を構えていた。
「チッ」
男は翼を広げ、銃弾を防ぐ。
「まあいいや。凜ちゃん、おいで」
「だから、あんたは……だれだ?」
意識が遠のきかけたのを舌を噛んで耐える。
何か大事なことがある気がするのに頭に霧がかかったみたいに思い出せない。
「ミカ……」
気づいた時には、口が勝手にその名を呼んでいた。
「僕のことを覚えてくれてた…わけじゃなさそうだね」
驚いて口を塞ぐ俺を見て、男はそう言った。
「とりあえず、ついてきてよ。悪いようにはしない」
真剣な表情に、思わず従いそうになった――その瞬間。
大剣が俺たちの間を裂き、壁に突き刺さった。
「アスモデウス!」
「お前、何勝手に俺の玩具に手出してんの?」
ゆっくり歩いてくる彼は、圧倒的な威圧感を放っていた。
「多勢に無勢、か……。絶対、迎えに行くから。待っててね、凜ちゃん」
男は大きな翼を広げ、空へと舞い上がる。
追いかけようとしたアスモデウスを、バルバトスが制止した。
「俺より弱いお前が出る幕じゃない」
「短慮な小僧には言われたくないな。今追ってどうなる?」
「……チッ」
銃を腰に携えた男が、こちらを向いて名乗った。
「やあ、俺はバルバトス。君がアスモデウスのお気に入りかな?」
「お気に入りかは知りませんが、お世話にはなってます」
「ここは安全じゃない。移動しよう」
そう言って、バルバトスは気を失っている清水と神谷を担ぎ上げた。
アスモデウスも溜息をつき、結城さんと藤田さんを抱えて続く。
俺はその後を追った。
辿り着いたのは、会議室のような場所だった。
「今回の襲撃、目的は何だ?」
問いかけると、アスモデウスが答えた。
「お前だ」
「……は?」
「指揮官が言ってた。気に食わねえ」
「どうして俺なんだ?」
「さあな……あ」
アスモデウスが近づき、了承もなく首に噛みつく。
「おい!」
だが、息が荒くなったのは噛んでいる彼の方だった。
数秒後、アスモデウスはそのまま倒れ込む。
「アスモデウス?」
彼は熱にうなされていた。
「何なんだよ……」
睨む俺から彼を引き離し、バルバトスが肩をすくめる。
「すまん。こいつはまだ子供でな」
「……はあ」
「君、心当たりは?」
「ありません」
「なら、あの男と君に過去がある。それだけだな」
そこへ勢いよく扉が開く。
「ここにいたのね!」
現れたその人は、清水を抱き上げた。
「パイモンか、ちょうどいい。話がある」
「ええ?珍しいわね。あら、アスちゃん酔っ払ってるじゃない」
「酔っ払ってる?」
「うわっあなた、随分匂いを撒き散らしてるわね」
「えっ?」
「ほんと美味しそう……」
「やめとけ。彼はあいつのお気に入りだ」
「残念」
短い会話の後、彼女は清水を連れて出ていった。
「……君も疲れただろ」
「はい。でも部屋の場所が……」
「じゃあ、こいつが起きるまでここにいろ」
「そうします」




