襲撃
「一体なんなんだ?」
アスモデウスだけじゃなく、施設全体がざわついていた。
「何が起きてるの…?」
結城さんが不安そうに袖をつまむ。
「敵襲!敵襲! 戦闘要員は直ちに配置につけ!」
館内放送の怒号が響き、結城さんは小さく震えた。
俺はそっと背中に手をあてて言う。
「大丈夫。俺たちは動くなって言われてるし、ここにいれば平気だよ」
そう言うしかなかった。
*
「アスモデウス、行くぞ」
「へいへい〜」
彼は小柄な体で、場違いなほど巨大な剣を引きずりながら歩いていく。
「またお前たちか、しつこいな」
軽い口調と裏腹に、ひと振りで敵がまとめて倒れていく。
そこへ、白い光が降りた。
「……やあ。久しぶりだね」
「誰が会いたかったって?僕はぜーんぜんだよっ!」
現れた金髪の男は、アスモデウスの攻撃を涼しい顔でかわす。
「本日は何用で?」
「私の“大切な人”の気配がしたものでね。返してもらいに来た」
「大切な……もの?」
アスモデウスが一瞬動きを止める。
「それを渡せば帰るのかい?」
「今は、ね」
「探し物は?」
「綺麗な黒曜石だよ」
「……あー、やっぱ渡せない!」
アスモデウスが斬りかかるが、逆に吹き飛ばされる。
金髪の男は大きな白い翼を広げ、戦場へ飛び立つ。
「待っててね、凜。すぐ迎えに行くから」
*
「À地点爆破されました!侵入者…捌ききれません!」
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
「たすけっ…」
「森川くん、大丈夫なんだよね?」
「……わからない。でも、今できることは逃げないことだけ」
真っ白な部屋で身を寄せていると、勢いよく扉が開いた。
「森川!結城さん!こっち来い!」
「神谷!」
「葵ちゃん!」
俺たちはふたりに連れられ、さらに下へ降りる。
広い運動場を抜け、最深部に着くと清水がいた。
「清水!状況わかる?」
「いや、急にここに集められただけで……」
そう答えかけた瞬間、神谷の瞳が金色に光った。
嫌な予感が走り、咄嗟に結城さんと清水を突き飛ばす。
「っ……!」
衝撃が腹に食いこむ。耐えられる程度だが普通じゃない。
(清水は腰抜かしてる……本物だな)
「偽物は藤田さんと神谷か」
「「避けられちゃった」」
ふたりが同じ声で笑う。そして一つにまとまりながら言う。
「ほんとは排除したいけど、ミカエラ様の指示で“殺し”は禁止なんだよね〜…でも一人くらいならいいよね?」
(避けたら結城さんたちに当たる!)
踏みとどまるしかなかった。
衝撃で視界が白く弾ける――
次に見たのは、床に横たわる“自分の体”。
「ひ……っ」
体は真っ二つ。上半身と下半身が完全に分断されているのに意識はある。
震える手で傷に触れ、回復魔法をかける。
光が走り、身体がゆっくり元に戻っていく。
「……君、なんでこれで生きてるの?」
藤田さんの姿をした何かが、素直に驚いていた。
だがそいつの視線が結城さんへ向いた瞬間、嫌な予感が走る。
(間に合え……!)
ふらつきながら飛び出し、二人の前へ。
衝撃が胸を突き抜け、息が止まる。
「も、もりかわ……?」
「森川くん!?」
「いいから……回復魔法……!」
結城さんの魔法で、ようやく呼吸が戻る。
「ん?お前からミカエラ様の匂いがするんだけど」
「知るかよ……!」
金色の瞳がじっとこちらを見つめ――
近くで爆発音。衝撃波が飛ぶ。
「君たち無事?」
振り返ると、アスモデウスが黒髪を揺らしながら立っていた。
小柄なのに、その剣が妙に頼もしく見える。
「剣でかくね?」
「でしょー?お気に入り!」
軽く笑って、襲撃者をまとめて蹴散らす。
「ちょっと厄介なの来たから、逃げて」
いつになく真剣な顔で告げる。
「逃げるってどこに?」
「あっ、たしかにね。……まあ、頑張って」
そう言うと去っていった。
俺は血塗れになった二人を見下ろしながら言う。
「神谷と藤田さんの“本物”、どこにいるんだ……」
「たしかに……」
「森川くん、怪我は……」
「平気。痛いけど、死なないし」
「まずはふたりを探そう!」
「うん!」




