表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

夢が現実で現実が夢

凜は案内された部屋で、ひたすら魔法書を読み漁っていた。


「へぇ〜回復魔法って言ってもいろいろあるんだ。しかもどれも消費魔力やば…」


(試しに使ってみようと思ったけど、さっきの傷もう塞がってるし)


「他の魔法も探すか!」


立ち上がった瞬間だった。


「森川殿〜!」


「は、はい!」


「準備できたから、もう一回あの部屋まで来て〜」


「……はい」


(さっき“今日は終わり”って言ったよな?)


部屋に着くと、アスモデウスが嬉々として言った。


「じゃあ、これ繋ぐね」


そう言うなり、俺の体にプラグのような器具を次々と突き刺してくる。


(俺、ついに電子機器になったのか…?)


急速に体の力が抜けていき、焦りが込み上げる。


「ちょっ、力が入らないんだけど!」


「うまく作動してるみたい。これは君の魔力を吸い上げる装置。ようやく集中できるよ」


チェンソーを起動させ、その冷たい刃が肌に触れた瞬間──


「っっっ……!!」


痛みがデカすぎて、逆にどこか他人事になる。


「アス…モデウスッ!!」


名前を呼んで止めてほしかったのに、逆効果だった。

アスモデウスは一瞬驚き、すぐに口角を吊り上げて恍惚とし始める。


「……散々な目にあった……」


「うーん、君にやってもあんま意味ないね。つまんないし。明日は別メニューにするよ。早けりゃ二週間で全部試せそう」


(どのくらい経ったんだろ…みんなは元気かな)


そこからの日々は地獄だった。

熱傷、裂傷、圧傷、毒、窒息、精神攻撃──あらゆる痛みとダメージ。

耐性がつき、毒もほとんど効かなくなった。時にはウイルスを入れられ、免疫も作った。


でも、ひとつだけ耐えられないものがあった。

あの装置。容赦なく魔力を吸われるあれだけは無理だった。


魔力が枯れると、慣れた痛みが何倍にも跳ね返ってくる。

終盤はまさに地獄だった。


それでも──

これで少しでもみんなの役に立つなら

そう思えば耐えられた。


疲弊しきった体は強制的にスリープモードに入り、夢を見る。


平和な日常。

笑うみんな。

うまい飯。

ダラダラする休日。

欲しいものは何でもある。


そこは天国のようだった。


次第に俺は「現実」ではなく、その夢で生きるようになっていった。

今の地獄は夢で、本当はこっちが現実なんだと思いたかった。


「最近の君はつまらないや。僕が手を下すまでもない」


アスモデウスの口調は徐々に変わった。

「私」から「僕」へ。

「森川殿」から「君」へ。


「これ付けて」


言われるがまま装置をつけると、満足げに鼻歌を歌いながら出ていった。


──さあ、夢を見よう。


目を閉じると、いつもの光景が広がる。


「森川!また寝てんのか!」


頭に響く先生の怒号。

どのくらい聞いていないっけ。

廊下で騒ぐ女子。

煩いと思ってたけど今はそれがいい。

錆まみれのロッカーは薄汚れていて埃っぽい黒板の前はひどく懐かしく感じる。


(この授業が終われば給食だ。今日のメニューは─ー)


突如、全身に激痛が走った。


「うっ……!」


「どうしたの?森川くん」


長い黒髪を揺らして心配そうに見る彼女。

…誰だっけ。

いつも俺に声をかけてくれたあの(ひと)

こっちにきてからも彼女のおかげでしばらくは笑いあえてたっけ。

ああ、彼女の名前は____


「結城さん?」


ガラガラと(しあわせ)が崩れていく。


真っ暗な部屋。

体育座りの俺。

背後から声が響く。


「森川くん」

「森川くん」

「森川くん」


結城さんが何人も俺を囲み、目の穴から黒い涙を流しながら名前を呼び続ける。


「もりかわクン。いいこと、しよ。たのしいコト」


「……いいこと?」


「とってもきもちイイよ〜?」


「気持ちいいの?」


「ソう、とってもきもちイイのよ〜」

「たのしいコト」

「きもちイイコト」

「しあわセなコト」


彼女らは笑顔で溶け合い、大きな塊になって迫ってくる。


(わかってる。あれが結城さんじゃないって)


(でも、これで楽になれるなら……)


「森川くん!だめだよ!」


透明な声が胸の奥を叩いた。


「しっかりして!ちゃんとしなきゃ!」


ああ。そうだ。

結城さんはそんなこと言わない。

言うはずがない。

夢でも彼女を汚すわけにはいかない。


「……ごめん」


迫る“それ”に背を向け、現実へと戻る。


「アスモデウス……またお前か」


「おや、戻ってこれるんだ? へぇ……君はほんと面白いね」


アスモデウスは唇を歪めて言う。


「その調子なら、今後も“僕が直接”苦しめてあげる資格がありそうだ」


「勘弁しろよ……」


「無理だよ?君は僕の唯一の楽しみ(おもちゃ)なんだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ