クラスの美少女ギャルにSDGsだからお試しデートしたいって言われたんだが、SDGsの意味が分かってないようです
「オタクく~ん、元気ぃ~?」
「…………」
「無視するとか酷いじゃ~ん。お話ししようよ~」
「…………」
うざい。
今ソシャゲの周回中なんだよ。
急がないと昼休み中に終わらないんだから邪魔するな。
「あれ、おかしいな。あたしが話しかけてるのにスルーする男子がいるなんて」
そんなやついくらでもいるだろ。
知らんけど。
「ほらほら、美少女が話しかけてあげてるんだからこっち見なさいよ」
美少女ねぇ。
ゲームの合間にチラっとその人物に視線をやってみた。
言葉 彩夏。
高校一年生。
学校から怒られない程度に薄く化粧をしている顔は整っていて男受けもする可愛らしい感じだ。
ほんのり茶色に染めている髪もサラサラで手入れを怠っていないだろうし、プロポーションも高校一年生なのかと思えるくらいに抜群だ。
ギャルっぽく制服を着崩しているが、だらしない感じではなくセンスを感じさせる。
確かに彼女は恥ずかしげもなく自分で言ってしまえるほどの美少女なのだろう。
ただし三次元の中に限る。
「ふっ」
「なっ!今あたしを見て鼻で笑ったでしょ!」
そりゃあ笑うに決まってるだろ。
俺の目の前には彼女よりも圧倒的に美しい美少女達が映っていて、比べてしまうと彼女の自信が滑稽に感じてしまうからな。
「美少女なら間に合ってる」
「それってどういう……まさかその子達のこと!?」
おいコラ、寄ってくるな、俺のスマホを見るな。
操作し辛いだろ。
「そりゃあ可愛いけど、付き合えないじゃん!」
ほう、意外だな。
てっきり『それは絵だ』とか『気持ち悪い』とかって否定するのかと思ったが、素直に可愛いと評するとはな。
それに俺は言葉さんよりも二次元の女の子の方が可愛いと表現した。
自分が美少女だと自覚している言葉さんであれば、プライドが傷つけられたと思って否定するかと思ったが、素直に俺の言葉を認めている。
俺の優雅な昼休みを邪魔するうざいやつだと思っていたが、案外良いやつなのか?
仕方ない。
ソシャゲをしながらだが少しばかり相手をしてやるか。
「別に付き合いたいだなんて思わない。この子達が楽しそうにしている姿を見られればそれで良い」
漫画やアニメの可愛い子が好きだと言うと、何故か恋愛感情に結び付けたがるやつらが一定数いる。実際そういう人もいるだろうが、少なくとも俺はそんな気持ちは欠片も無いし、彼女達が架空の存在であることくらいは分かっているさ。
ただしエロは別である。
「あ~あたしらが恋愛ドラマ見るようなものなんだね」
これまた意外だ。
俺のことをオタク君だなど呼んでくるからには馬鹿にされているのかと思ったが、俺の考えを理解しようと努めるとは。
「なら問題ないよね!次の土曜にデートしよ!」
「どうしてそうなる」
この話の流れの意味不明さ。
やっぱり現実の女とは会話したくねぇ。
「だってその子達は恋愛対象じゃないんでしょ」
「だからってどうして言葉さんとデートする流れになるんだ」
「え!? あたしとデートできるんだよ! 嬉しいでしょ!」
「全然」
「ええええええええ!?」
だからどうしてそんなに自信過剰なんだよ。
いくら見た目が良いからって誰もが好きになるとは限らないだろ。
「オタク君って面白いね。クラスの男子はこう言えば皆喜んでたのに」
「全員に言ってたのかよ」
「普通に教室で言ってたんだけど気付いてなかったんだ……」
「揶揄いに来たならどっかいけ、俺は忙しいんだ」
「あは、やっぱりオタク君面白い!」
いやいや、邪魔だから消えてくれよ。
このままじゃゲームの周回が終わらないかもしれないだろ。
「揶揄うつもりは無いよ。本当にオタク君とデートしたいと思ってるの」
「意味が分からない。これまで話したこともないだろ」
根暗なオタクの俺と陽キャギャルの言葉さんは住む世界が違う。
同じ教室にいても別世界にいるかのように自ずとゾーンが分けられていた。
これまでお互いに存在を意識したことすらないはずなのに、どうして三学期の今になっていきなりゾーンを越えて来たんだ。
「あたし、高校生になったらクラスの男子全員とデートするって決めてたの」
「なんじゃそりゃ」
「だって相性が最高の男子と付き合いたいじゃん。デートしてみないと相手のことなんて分からないし」
つまり数打ちゃあたるってことで、お試ししまくってるってわけか。
男子からしたら迷惑……いや、お試しでも美少女とデートできるならラッキーってやつの方が多そうだ。
「俺は興味無い」
「え~!こんな美少女とデート出来るんだよ!」
「美少女なら毎日見てるし、現実の女性と付き合う気は無い」
「あは、やっぱりオタク君面白い!」
「だからどうしてそうなるんだよ」
さっきから拒絶オーラを何度も出しているのに、その度に興味を持たれてしまうんだが。
「お願い!デートして!」
「嫌だ」
「そこをなんとか!オタク君が最後なの!」
「最後?」
「うん、他の男子とはもうデートしたから」
「じゃあもう付き合いたいやつ見つかっただろ」
「う~ん……どうかな」
流石に人付き合いが得意ではない俺でも言葉さんの答えの意味は分かった。
淡い期待を抱いていたであろう同じクラスの男子諸君、ご愁傷さまだ。
しかしそれなりにイケメンな男子もいるのに、それでもダメとか高望みしすぎだろ。
俺みたいな根暗で口が悪い男子など候補にも入らないだろ。
なんてソシャゲしながら考えていたら勘違いさせてしまったらしい。
「あれ、もしかして最後にしちゃったから怒ってる?」
単に考えるのに時間がかかっていたけなのだが、沈黙を怒っていると受け取られてしまった。
「ごめん!オタク君は合わないかなって思って後回しにしちゃったの!」
「おいおい、普通そういうことは隠しておくものだろ」
「だって隠してたら嫌な女じゃん」
そうやって気遣ってくれるくらいなら、さっさと諦めて帰ってくれよな。
「まぁ別にその通りだから何も気にしてないがな」
身嗜みも適当で、異性受けとか考えたことも無い。
根暗で教室の隅でスマホ弄ってばかりいるやつとなんか、付き合いたいとは思えないだろう。
「でも今は面白そうって思ってるよ!ホントだよ!」
「はいはい」
「返事が雑!信じてないでしょ!」
返事が雑なのは最初からだろ。
そろそろ無視してソシャゲやってようかな。
「あたし、嘘が大っ嫌いだから本当に本当だよ!最後にしちゃったお詫びに教えてあげる!」
「お詫び?」
「うん。男子達ってあたしの気を惹こうとして思っても無いことばかり言うんだよね。あたしのことを考えてくれてるってのは分かるけど、どうしても嘘は苦手なの。あたしとのデートで嘘をつかなければワンチャンあるよ!」
つまりデートを乗り越えて恋人になれる可能性を高めるために、絶対にやってはならないことの情報を提供することがお詫びってことか。
「そのお詫びって俺がデートに乗り気だった場合しか意味無いだろ」
「うっ……どうしても嫌なの?」
「ああ」
「お願い!せっかく後一人ってところまで来たからやり抜きたいの!」
「そう言われても」
それは言葉さんの都合であって俺には関係ない話だろ。
それに次の土曜はソシャゲのイベントに全力を費やすと決めてるんだ。
どれだけお願いされても無理なものは……
「ほ、ほら、世間ではSDGsが流行ってるから最後までやらないと!」
今なんて言った?
ギャルらしからぬ単語が出て来た気がするんだが。
「SDGsってどういう意味か知ってるのか?」
「え?もったいないとかそういう意味だよね」
なるほど、クラスでまだデートをしていない最後の一人である俺とのデートをやらずに余らせるのはもったいない。
言葉さんはそう思ってSDGsという単語を使ったのか。
「あれ? どうしたの?」
俺はソシャゲをする手を止めて、言葉さんの方を見ていた。
このままではソシャゲの周回が終わらないけれど、そんな場合じゃない。
「言葉さん。念のため確認するけど、嘘が大っ嫌いなんだよな」
「うん」
「そしてSDGsだから俺とデートをしたいと」
「それ大事なの?」
「大事だ」
超大事。
俺の人生を変えるくらい大事。
「ごめん。もったいないなんて言ったの怒ってる?」
「今はそのことは気にしないで良い。SDGsだからデートしたいって話が『嘘』じゃないよなって確認したかったんだ」
「っ!う、嘘じゃないよ!オタク君には悪いけど本当にそう思ってる!」
「そうか……」
どうやら言葉さんはSDGsが何なのか具体的に知らないのに使ってしまったポンコツってことらしい。
確かに俺は三次元より二次元が好きだ。
三次元の女性と会話するなど面倒で、出来れば距離を取りたいと思っている。
だが言葉さんほどの美少女であれば話は別だ。
性格もそこまで悪くは無いし、嘘が嫌いということはこっそり浮気される心配も無いだろう。
面倒ではあるが、確実に手に入るのであれば挑戦する価値はある。
「分かった。デートしよう」
「ほんと!?」
「ああ」
その日、自分が何を言ってしまったのか分からせてあげようではないか。
ーーーーーーーー
「あは!やっぱりオタク君面白い!」
「またそれか」
デート当日。
俺達は街で一通り遊んだ後、最後に喫茶店で話をすることになった。
「だって会っていきなり『変な服だな』だよ。超ウケル!」
「素直な感想を伝えただけだ」
「それそれ。それが大事なんだよね。わざと少しだけ似合ってない服を着てるのに、男子ったら声を揃えて褒めまくるんだもん」
「流石にその罠を仕掛けるのは性格が悪すぎじゃないか?」
男子達は好感度を上げたいと思っているし、待ち合わせ直後に服を褒めるのは定番だなんてことは俺でも知っている話だから全力でやるだろう。
「申し訳ないって思ってるんだけどね。でもこのデートはお互いの相性を確認するためって事前に伝えてあるし、少しくらい試しても怒らないで欲しいな」
普通のデートとは違って男子達にとってはボーナスタイムのようなものだし、怒りはしないかもな。
「オタク君だけだよ。デート中なのに全くあたしに遠慮しないで思ったことをズバズバ言うの」
面倒だから素の態度で接しただけなんだが。
「それなのに細かいところでちゃんとあたしを気遣ってくれてたし」
「全く覚えが無いんだが?」
「その反応、本気で言ってそうだね。じゃあ素で出来ちゃうのか。やばぁ」
「?」
本気で全く心当たりがないんだが。
「あは、まさかの大当たりかも」
「人を宝くじみたいに言うな」
「ごめんごめん。でも本当に気に入ったの。本気で付き合おうよ」
「俺がオタクだってこと忘れてないか?」
「気にしないよ? むしろ面白いゲームとか教えてよ」
マジかよ。
ギャルがオタク側に合わせてくるだなんて、創作上の出来事だけだと思ってたんだが。
いや、今の時代なら普通にありえるのか。クラスの陽キャが美少女しか出て来ないソシャゲの話で盛り上がってたりするもんな。
「ということで今からあたし達は恋人ってことで」
「ああ」
「え?良いの?」
「どうしてそこで驚く」
「だってこのデートだってあんなに渋ってたじゃん。てっきりあたしのことが苦手なのかと思ってた」
話をする前は苦手だと思い込んでたな。
だが実際こうしてデートをしてみると居心地はそんなに悪くない。
自然体で接しているのに、自然体で相手をしてくれているところが良いのだろうか。
これが言葉さんが言う『相性』ってやつなのかもしれないな。
ただ、デートの許可を出したのは相性が分かる前の話であり、大きな理由があった。
「そりゃあ、あんなに熱烈なプロポーズをされたら考えも変わるってものだろ」
「え?」
言葉さんは完全に虚をつかれた感じで、だらしなく口を開けて驚いている。
間抜けな表情がちょっと面白い。
「何言ってるの? あたしそんなこと一言も言ってないよ?」
「言っただろSDGsだから俺とデートするって」
「え!?」
予想外の単語が出て来たからか、またしてもアホ面になっている。
デート中にして良い表情じゃないと思うが、やっぱり面白いから指摘しないでおこ。
「SDGgのSって何の略か知ってるか?」
「S?ええと……す、すごい、とか?」
「サステナブル」
「サス……?」
中学の時に授業でやったはずなのに覚えていないのか。
これはいずれ勉強をみてあげる必要が出てきそうだな。
「持続可能って意味だ」
「持続可能?」
「そうだ。俺達の関係を持続させる意欲があってデートを申し込んで来たんだろ」
「!?」
他の男子達を相手にしている時と同じお試しではなく、持続を前提としたデートの申し込み。
そのように受け取られることを言葉さんは全く気付いていなかった。
そもそも良く分かっていないのにSDGsという単語を持ち出してしまったのだから仕方が無いだろう。中途半端な知識で単語を使うと痛い目を見るという典型的な例だ。
「そ、そんな意味だったなんて知らな……」
「言葉さんは嘘が大っ嫌いなんだよな」
「う゛!」
厳密には嘘では無くて無知によるもの。
だが相手にとっては嘘を吐かれたと感じてもおかしくはない。
本気で嘘が嫌いだからこそ、言葉さんは誤魔化しきれなかった。
青褪めたり赤らめたりと表情が変化して超面白い。
「で、でででも! それは長く付き合うってだけでプロポーズじゃないよね!」
「SDGsは持続可能な開発目標って意味だけど、別の表現をすると世界中の全ての人が幸せに生きられる世の中をつくり維持すること」
そのためには貧困をなくすだとか、地球の環境を守るだとか色々なことをやらなければならない。
その方針がSDGsでは定められている。
今回大事なのはその具体的な内容では無い。
恋愛をSDGsに当てはめた時に何が必要となるかという点だ。
「ここで大事なのは維持すること。これは俺達の世代だけじゃなくて何十年、何百年も先の未来のことも含まれる」
「何を言いたいのかがさっぱりなんだけど……」
そうかな。
結構分かりやすいヒントになってると思うんだけどな。
「つまりだ。恋愛におけるSDGsとは、末永く幸せに付き合い続け、子供を作って子供にも幸せに生きてもらうってことになる。こんなのプロポーズじゃん」
そう考えると『開発』目標って表現も意味深に思えてくるな。
「~~~~!」
おおすごい。
顔が超真っ赤だ。
「まさか教室で堂々と子供が欲しいなんて言われるとは思ってなかったからびっくりしたわ」
「そ、そ、それは、あの、うううう!」
ここで否定したら、嘘をついたと俺に思われてしまう。
嘘が大っ嫌いだからこそ、言葉さんは否定できない。
俺と長く付き合って子作りをしたい。
それが嘘では無いと言わざるを得ない。
恋愛だデートだと口にするが、性的な面では初心なところがあるのだろう。
「ああああ、ど、どうすれば」
超動揺してあたふたしている言葉さんが超可愛い。
ちなみに相性が悪ければこんな話をするつもりは無かったし、今すぐに手を出すつもりなんて毛頭ない。高校生で子供を作ってしまったら子供に苦労をさせてしまい『幸せに生きてもらう』難易度が跳ねあがってしまうからな。
「そ、そんなつもりじゃ、でもオタク君が相手なら……でもでもまだ早すぎるし……!」
「焦ってる言葉さんって可愛いな」
「な!このタイミングでそれは卑怯だよ!うううう!馬鹿!」
面白いからもう少し揶揄って遊んでよっと。
女性と付き合うなんて考えたことも無かったし端から諦めていたが、ひょんなことから極上の相手と婚約出来てしまった。相手の自滅のようなものだけど、相性は悪くないしせいぜい利用して幸せになってもらうぜ。
まずは一緒にウ〇娘のイベントに行くところから始めよう。
SDGsのこじつけが強引とか言ってはならない。