回復
ディリアスは執務の合間に、私室で休憩を取っていた。ソファに背を預け、目を閉じていた。
あれからユティシアは数日間ほとんど眠ったままで過ごしている。熱はなかなか下がらず、一向に良くなる気配はなかった。
「陛下」
不意に、自分を呼ぶ声が聞こえ、あわてて飛ばしていた意識を戻す。扉の傍には、ユティシアが立っていた。ディリアスはいるはずのない人物の姿に驚きながらも、慌てて腰を上げる。
「怪我は、大丈夫なのか?熱は?」
「ほぼ、治りました」
嘘だ、と思ったが彼女の顔は血色が良く、生気に満ちている。
「どうやって?」
「もちろん魔法で。私が魔法使えるの、忘れてませんか?」
「高位の魔法師でも治せなかったのに…か?」
問うように見つめた。
ユティシアの怪我はかなり強いの魔物のものらしく力の残滓が凄まじかった。魔法師も、お手上げだと言っていた。
魔物によって負った怪我は、魔法では治せない。こんなの、誰でも知っていることだ。低位の魔物から受けたものならばある程度は可能だが、高位の魔物によるものに関しては無理だ。
「私って、魔力強いのだけは取り柄なんで」
ユティシアは魔物の残滓を払う方法を知っている。
―――残滓の力を上回る魔力で押し切ることだ。
魔力が回復し、魔法を使用できるようになってすぐに魔法による治癒を行った。傷口に、ユティシアの持つ膨大な魔力全てを治癒魔法という形で叩き込んだ。
まだ、完治した訳ではないが、傷口はほとんどふさがっているので問題ないだろう。
「ありえない…」
「ふふっ、びっくりしたでしょう?」
ユティシアは笑みを浮かべながらディリアスの元へ駆け寄ろうとした、その瞬間―――。
「あっっ……」
膝から力が抜け、倒れそうになる。そばにあったテーブルを掴もうとしたが、手は空を切る。
「無理するな。病み上がりなんだから」
崩れ落ちそうになった体を支えてくれたのは、たくましい腕だった。ディリアスはあきれた顔をしながら、ユティシアを横向きに抱き上げる。
そのままソファへと連れて行き、ユティシアを座らせるとディリアスも隣に腰掛けた。
二人の間には穏やかな時が流れていた。
「陛下」
「何だ」
「ありがとうございます。ずっと、私の事を気にかけて、部屋に通って下さっていたのでしょう…?」
ふわりと花のように微笑む。
ディリアスはふっと笑みを浮かべ、抱き寄せた。
「もう、無理したら許さないからな」