王の打算
今回は完全に王様視点です。
ディリアスはユティシアの寝顔を見つめる。銀の髪が陽光に照らされてきらきらと輝く。彼女の真っ直ぐな髪に、手を伸ばす。毛先のほうはくせっ毛なのかふわふわと波打っている。
――彼女を王妃にしようと思ったのは、ディリアスに打算があったからだ。貴族の令嬢を王妃にすることによって、彼らが力を増すのは煩わしかった。その点ユティシアは口出ししてくる面倒な親族もいないし、調度良かった。まあ、“元王女”という点では貴族の連中に色々反発されそうだが。
ユティシアの母国ティシャ―ルは5年前、国民による大暴動が起きた。王族は国民の手で捕らえられ、処刑された。その際、同盟関係にあった隣国は騒ぎに便乗してティシャ―ルを侵略しようとした。何とか征服は免れたものの王族は皆死に絶え、現在国の頂点には宰相が立っていると言う。
――彼女が嫁いできたのは5年前、その戦争の直前だった。
当時、ティシャール王宮でユティシア王女の噂は多く存在した――醜聞として。
「ディリアス殿下、どうします?側妃になるはずの王女ですが、国では表舞台に立つことはあまりなかったようです。噂では、あまりにも気味が悪いので離宮に隔離されたとか。国では『化け物』なんて呼ばれているようです」
「容姿など興味がない。所詮、国の駒に過ぎない」
宰相の言葉に特に気にした風もなくディリアスは答える。
「さらに言うと、7歳にして教育係に見放されたほど頭が悪いとか、さらに礼儀作法があまりになっていないために、国王が人前に出せないとか」
…なるほど、嫁の貰い手もなかった所に大国の王太子との縁談。あちらは嬉々として王女を差し出したわけか。まあ、王女としての価値は変わらないのだから。
――結婚式当日、ユティシアは姿を消した。その後、彼の国が侵されそうになっていたことを知り、そのために彼女が国に舞い戻ったのだということも分かった。その後、彼女が姿を現すことはなかった。
マウラが死んで次の正妃をどうするか悩んでいた時に、彼女の魔力を王都で察知した。調度良いと思って連れ戻した。
家族を失い、戦火から逃げのびた少女。その目を見れば、どれだけ厳しい状況を生き抜いてきたか分かる。だが、それ故に人に心を許すことを知らない。ディリアスが彼女に触れようとする度に、その美しい瞳は僅かに怯えの色をまとう。
彼女の銀の髪も水色の瞳も、眩しくて。目をそらしてしまいそうなのに、美しさに魅了され、目が離せない。
最初は、ただ利用するつもりだった。必要以上に干渉するつもりもなかった。
だが――――自分の中で思いのほか彼女の存在が大きくなっていることに気付き、驚いた。