宴の終わり
今回は分割するの面倒なので、少し長めです。
一方、ユティシアはというと…案の定、ご令嬢に絡まれていた。
「まあ、王妃様はどうやって陛下に取り入ったのかしら」
「側妃だったってだけでねぇ」
「貴女、この前の噂、聞いて?王妃様は教養がないらしいわね」
「そうね、化け物って噂もあったらしいし、取り柄は見た目だけね」
ユティシアはすべて本当のことなので、人当たりの良い笑みを浮かべてその話を聞いている。ミーファには、話を聞くのが面倒だったら笑みを浮かべているだけで良い…という助言を貰っていたので、その通りにしていた。
「王妃様は、どう思うのかしら?」
令嬢たちは挑戦的な視線を送ってくる。
「そうですね。あなた方のような、優秀でお美しい方が妃になる方が、ふさわしいかと。私は、まだまだ勉強不足ですし…」
落ち込んだような表情になるユティシアを見て、令嬢たちは思わずユティシアに味方したくなる。頭を撫でて、慰めたくなってしまうほど愛らしい。しかし、陛下の寵愛を得たい立場としてはそれはできない。
「出来れば、貴女方からご助言など、頂けないでしょうか?」
ユティシアはにっこり微笑んだ。
「心配いりませんわ」
そう言って令嬢たちの中から一歩前に出てきたのは、中でも目を引く女。艶やかな肢体と、妖艶な顔つき。
「私が側妃として陛下のお傍に行くお話が出ているの。私が陛下をお支えするから、あなたは心配なさらなくてもいいのよ」
「それは、安心です。ぜひ、お待ちしています」
ユティシアはご令嬢の手を握り、きらきらした目で見つめる。
周りを取り巻く者たちは明らかに困惑している様子だ。しかし、女の抱いた感情は周りと違うものだった。
「あなた、私を馬鹿にしているのっ!?」
そう言うと、派手な女はユティシアにコップの水を振り掛けた。しかし、ユティシアはまったく動じず、魔法によって濡れた髪やドレスを瞬時に元通りにする。
それを見て、令嬢たちは息を飲んだ。怯える者までいる。当たり前だろう。魔法はそれほど普及しているものでもない。
ユティシアに不満をもつ者は多いので、周りでその状況を見ている貴族達は止めようとしない。むしろ楽しんでいる。
「さすが、化け物ね…やはり、あなたは陛下にふさわしくない」
そう言って、女がユティシアに手を伸ばそうとした時、彼女は突然現れた存在に阻まれてしまう。
ユティシアはディリアスに抱きしめられていた。
「…彼女がふさわしくないと、本当にそう思うのか?」
ディリアスはユティシアに腕を回したまま、女に冷たい視線を送る。それは、いつもユティシアに向ける優しい表情とは違った。
女は呆然として床に座り込む。国王の前で寵愛する王妃の悪口を言うなど、処罰されてもおかしくない。自分が側妃として上がるために築いてきたものが、すべて崩れていった。
「もうすぐ、ダンスが始まる。行くぞ」
ユティシアはディリアスに手を引かれ、歩き出した。
間もなくして、曲が会場に流れ始めた。人々は相手を伴って、集まってくる。
しかし、ディリアスたちが踊り始めると、人々の足は止まる。二人はここでもまた人々の目をひきつける。
ダンスはあまりにも美しいものだった。ディリアスの長身で見事な体躯、ユティシアの細くてしなやかな体つきは美しい。さらに、二人の踊るダンスはあまりにも高レベルなものだった。時折、難しいステップをおりまぜたりして、相手もそれに合わせる。
ユティシアは1ヶ月足らずでそこらへんの貴族の令嬢とは比べ物にならないくらいうまくなっていた。もともと素質があったのだろう。
ディリアスは高度な自分の技術に合わせてくれるユティシアに満足していた。…これから夜会などの場で回数を重ねれば、さらにうまくなるだろう。
「陛下、女性にあんな冷たい態度を取るべきではありません」
ユティシアは踊りながらディリアスに話し掛けた。
「ユティシア、自分のされたことが分かっているのか?」
今は人前なのでディリアスもさすがに愛称では呼ばないようだ。
彼女は王妃に暴言を吐き、水をかけて手を上げようとさえしたのだ。…ユティシアは気にも留めていなかったようだが。
「でも、すごく怯えていました…」
「自分の身が可愛いだけだろう。俺に怯えていたのではなく、な…」
「せっかく、仲良くなれると思いましたのに」
ディリアスはユティシアの言葉に驚く。あれほど悪意をぶつけられておきながら…これは、大物になるな。
こうして夜の宴は、王妃の素晴らしさを嫌というほど見せ付けられて終わることとなる。王妃は、そのあふれる才能でもって、確かに人々を魅了したのだった。