お披露目
豪華なシャンデリアに赤い絨毯。会場に施された煌びやかな装飾。会場の華やかで豪奢な雰囲気は人々をひきつけ、気持ちを高揚させる。
しかし、本当に会場の人々の心を掴んだのは、そんなものではなかった。
国王と新しい王妃が会場に入場する。その瞬間、誰もがその姿に釘付けになった。
――――王の隣に並んだ少女。
誰もが彼女の美しさに呼吸も忘れ、見入ってしまう。
きらきらと光を浴びて輝く銀の髪。綺麗な鼻筋に、小さな唇。人によって、美しいと感じるかどうかは異なるものだが、ユティシアは誰が見ても美しい、と言うだろう。それほどまでに顔の造作は完璧だと言えた。
彼女の美しさは、艶やかさや、きつさを感じさせることのない無垢な美しさ。
静かに会場を見つめる澄んだ水色の瞳は神秘的に見えた。気品を漂わせる整った顔立ちはまるで女神のよう。
「新しい王妃を紹介する」
ディリアスがそう言って、隣にいる少女に視線を向ける。少女はディリアスと視線を交わし、頷いた。
「ユティシア・ディスタールと申します」
この姓を名乗ったのは初めてだった。4年前には一生名乗ることのない姓だと思っていた。ユティシアは本当にディスタールの王族の一員になったのだと感じて嬉しくなる。
ユティシアは会場の人々に向けて微笑んだ。
人々は、その完璧な美貌があどけない笑みを浮かべるのを見て初めて、彼女も人間なのだということに気付いたような気さえした。彼女は、それほどまでに美しかった。
圧倒的な雰囲気を纏う国王と並んでも、その姿はまったく霞むことなく存在感を放っている。
ディリアスは貴族達の反応に満足していた。
彼女が人を惹きつけてやまないのは、その美しさだけではない。美しいだけの者ならいる。
真に人を惹きつけるのは内面にある、とディリアスは思う。内面は、その人の魅力や存在感をさらに高める。磨かれた内面こそが人を魅了するのだ。その内面は自然と備わっているものであったり、生きていく上で培っていくものだ。
二人が会場にいる間中、人々の視線が二人からそれることはなかった。
ディリアスとユティシアは国民の前に出る。
シャラ様の「国民は疎かにしちゃだめよ~」という意見により、国民にも発表することが決まったらしい。
このお披露目のために、多くの国民が集まっていた。
二人は笑みを浮かべ、手を振る。わっと国民から歓声が上がった。
「ユティシア」
いきなり名を呼ばれ、しかも、いつもと違って愛称で呼ばれないことを疑問に思い、ユティシアは振り向いた。
その瞬間、ディリアスはユティシアの手を取り抱き寄せ、彼女に優しく口付けた。突然のことで無意識に身を引こうとするが、頭の後ろに手を添えられてしまう。
さらに大きな歓声が国民から上がる。盛り上がりは最高潮まで達した。
解放されると、ユティシアは口元を押さえてディリアスを見つめる。…唇に直接されたのは、初めてだった。
「これも、演出の一つですか?」
ディリアスに小声で聞いてみる。…まったく、シャラ様はなんて演出を用意しているのだろうか。
「さあな」
ディリアスはにやりと笑みを浮かべた。