お披露目の前に
ユティシアとディリアスは会場に出るために待機室にいた。この後、お披露目が行われて夜には立食パーティーが行われる。
シャラ様が招待した人はとても多く、国内の貴族はもちろん、他国の王族などまで招待したというのだから驚きだ。…これは、簡単には気は抜けない。
「ユティ、大丈夫か?」
ディリアスが気遣うように尋ねてくる。
正直、失敗したら…などと思わないわけでもない。貴族は些細な失敗からでもすぐ揚げ足を取ろうとする。特にユティシアは貴族連中から気に入られていないため、失脚を狙う輩も多い。細かなところまで気を配らなければならない、とは思う。
しかし、自分の噂のことを考えるとこれ以上悪くなりようもないか…とも思うのだ。
……そう思ったら、随分気が楽になった気がする。先ほどまでのしかかっていたものは、ほとんど消えた気がする。
―――問題は、どこまで自身の評価、ひいては陛下の評価を上げることが出来るか、だけである。
「はい。大丈夫です」
ユティシアは、はっきりと答えた。
その凛とした表情を見てディリアスは笑った。
「本当に心配なさそうだな」
でも、と言ってディリアスは膝を折り、ユティシアの手を取る。
「一応、頑張れるおまじないを」
ユティシアの手の甲に口付けた。
――――――ユティシアが驚いて目を丸くした、まさにその時。
ユティシアは背後から抱きしめられた。
「ユティシアちゃんかわいい~。そのドレスよく似合っているわね」
…………………シャラ様だった。
「母上、二人だけの時間を邪魔しないで下さい」
「ごめんね~。早くドレス姿が見たくて…」
謝りつつも、ユティシアを抱きしめたままである。
突然、部屋に明るい元気な声が響く。
「おかあさま!」
走ってきたのはフィーナだった。フィーナも膝丈くらいまでのドレスを着て、頭には大きなリボンをつけている。そのままフィーナはユティシアに抱きつく。
「ねえ、ユティシアがフィーナの新しいおかあさまなのでしょう?」
ユティシアの足に抱きつき満面の笑みでこちらを見上げてくる。
たて続けに色々なことが起こり、思考が追いついていないユティシアはフィーナの質問を正しく理解出来ないでいた。
「だって、おかあさまはちちうえのおくさんでしょう?」
………そういうことか。フィーナの良いたいことはわかった。ユティシアはディリアスの正妻である。…と言うことはフィーナの義理の親子になるわけだ。
「そうですね…これからよろしく」
ユティシアはフィーナを抱きしめた。
ディリアスは不満げな表情で3人を見守っていた。…せっかく良い雰囲気だったのに。雰囲気を壊された上に、ユティシアを奪われてしまった。
先ほどからシャラがにやにや笑みを浮かべながら、ちらちらとこちらに視線を送ってくる。
……あのタイミングで現れたのは、間違いなくわざとだな。
「そろそろ時間だ。ユティ、行くぞ」
ユティシアを取り返したディリアスは、母に不満げな視線を送りながらも、会場へと足を踏み入れた。
ちょっと遅くなってしまいました。更新の速さだけが私の取り柄なのに…
次話もきちんと完成していますので、明日には更新できると思います。