魔物の傷
作者はほとんどノリで書いているので、話の流れはてきとーです。
夜になりユティシアは、寝室にいた。明かりはほとんど消され、室内はほの暗い。
こんこん、とノックの音が聞こえる。王の私室へとつながるその扉からは、案の定ディリアスが現れる。
「ユティ」
静かに寝台のほうへと歩み寄る。寝台の上には影が見えた。何となく彼女の事が脳裏によぎり、様子を見ようと訪れてみたのだが…反応がないところを見ると、もう眠っているのだろうか。
ディリアスは寝台に腰掛け、彼女を見た。彼女は寝台にうつ伏せになって寝ていて、顔は見えない。
…何か、おかしい。眠っているにしては、呼吸が乱れている。
「どうした、ユティ」
訝しく思ったディリアスは、うつ伏せになっている彼女の体を上に向かせる。うっすらと目を開き、こちらを見上げてきた。
顔には大量の汗が流れ、苦しそうに顔をゆがめていた。胸は激しく上下し、荒い呼吸を繰り返している。
「ユティ、大丈夫か!?」
ディリアスは彼女を抱き起こし、問いかける。突然、瞼が下がり彼女の肢体から力が抜ける。ユティシアはディリアスの腕の中で完全に意識を失っていた。
急いで医者が呼ばれ、治療が施された。
「お腹に深い傷を負われていたようです。魔物に襲われた傷のようで、治癒魔法は効かないようです。止血が行われていたのは、幸いでした」
「そうか」
魔物に襲われた場合、傷口には魔物の力の残滓が残っている。そこに魔法をかける場合、力の残滓に押し戻されて傷まで効力が届かない。そのため、魔物に襲われると生存確率は著しく下がる。
「それと…傷の影響で、高熱を出しておられます。打撲の痕も多数ありますし…当分、臥せったままかと…」
ディリアスは寝台にぐったりと横たわるユティシアを見て、歯噛みする。ずっとそばにいたにも関わらずなぜ、気付けなかったのか。なぜ、自分から言ってくれなかったのか。
…それは、信頼されていないからだろう。むしろ、警戒されていた。話している間、一度も彼女の気がゆるむことはなかった。感覚は鋭利に研ぎ澄まされ、ディリアスの行動から目を離すことは絶対にしなかった。敵に弱点を晒すような真似はしないだろう。
傷は今日のものではないという。おそらく、騎士団の仕事で負ったものだろう。彼女は一晩牢に入れられていた。大怪我を負ったまま牢での厳しい環境下におかれていたのだ。相当辛かったに違いない。打撲痕はおそらく、牢に監禁されている間に暴行を受けたのだろう。彼女はずっと酷い痛みに苦しんでいたはずなのに、そんなそぶりは一度も見せなかった。