王妃の勉強
「お披露目は一ヵ月後に決まった」
執務室にお邪魔すると、ディリアスにそう告げられた。
ユティシアがシルフィを止めるために出て行った後も、シャラと色々話し合っていたらしい。
「ところでユティ、基本的な教養くらいは身についているだろうな」
「…私、7歳から教育係がいないのですが」
…すっかり忘れていた。そんな報告もあったな。
ということは…
「一ヶ月間みっちり勉強しないといけないな。教育係もつけてやろう」
「頑張ります」
自分の失態でディリアスの顔に泥をぬるわけにはいかない。
「後はダンスと礼儀作法だが…ユティは運動神経が良さそうだし、動きも綺麗だから少し練習すれば問題ないか。礼儀作法はミーファが何とかするだろう」
「任せてくださいませ、陛下」
後ろに控えていたミーファが燃えている。
それから、王妃にふさわしい教養を身につけるべく勉強が始まったのだが…
「何でこんなにも間違った歴史を覚えているのか…ある意味何も覚えていないよりたちが悪い」
ディリアスがため息をつく。
…正直、これは絶望的かもしれない。今まで記憶していたのとは全く違うものに、知識を書き換えなければならないのだ。
「申し訳ありません」
俯くユティシアを慰めるようにディリアスが頭を撫でた。
ディリアスとローウェはユティシアにたくさんの問題を出した。政治、経済、法律、数学、語学、歴史など色々な分野のことを尋ねられた。すべて優秀だといわれたのだが、唯一歴史はだめだった。問題には答えられたのだが…答えは間違っていたらしい。
「…これは真実を語る歴史書から学んだものなのですが…」
どこで手に入れたかは知らないが、師匠アストゥールの家にはたくさんの珍しい本が置かれていた。その中にその歴史書があったのだ。
「まあ、歴史書なんて改ざんされて何ぼのもんだからな」
うんうんとゼイルが頷く。
「いっそ、量産してみます?真実の歴史書を」
「こんな物出回ったら、国家間の問題になるからやめてくれ」
ローウェのありえない提案にディリアスが頭を抱える。
「とりあえず、少しずつ頑張ろう」
「…はい」
「教育係が王妃様の勉強はこれ以上必要ないと言っていますよ?歴史だけでなく、他の分野も」
「は?」
そんな言葉を聞いたのは、ユティシアが勉強を始めてから一週間だった。
ローウェの言葉にディリアスは耳を疑った。ユティシアはまだ、勉強を始めたばかりだ。そんなこと、あるはずがない。
ディリアスは勉強中であるはずのユティシアの部屋へ歩き出した。そして、扉を開けた。
「ユティ、勉強が終わったというのは、本当か?」
「教育係殿はもう、良いと…」
「ユティシア様は素晴らしい記憶力を持っていらっしゃいますね」
教育係はユティシアがどれだけ優秀であるかを語って聞かせた。
…あろうことかユティシアは分厚い歴史書を読んで、一度ですべて暗記してみせたらしい。
これにはさすがにディリアスも舌を巻いた。
「私、本を読むのは好きなので」
ユティシアはそう言ったが、いくら本が好きでもこれほどはやく覚えられないと思う。もはや暗記と呼べるものではないだろう。
これでお披露目に向けて一つ、問題が解決した。
試験期間からようやく解放されました。更新もはやくできると思います。




