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提案

「よし、では本題に入りましょうか」

「本当にやるのですか?」

「やるわよ」

「そこまでする必要がありますか?」

「もちろん、せっかくなのだから、ね?」

何の話かわからずに困惑するユティシアにディリアスが説明をする。


「新しい王妃のお披露目をしようと思っている」

「お披露目、ですか?」

「ああ。俺は地味でいいと思うのだが…」

言いながら、シャラをちらりと見る。


「やっぱり派手にやるべきよね、ここは」

「それほど騒がなくても…」

「だって、ユティシアちゃんこんなにも可愛いのよ?周りの人々に見せつけなくてどうするの。それに、結婚式のときは地味すぎてかわいそうだったもの。こんどは私が派手に企画してみせるわ!!」


…そういえば、そうだ、と思わないでもないディリアスである。

いまだにユティシアのことを分かっていない貴族が騒いでいる。ユティシアの美しさを見れば黙ってしまうに違いない。それに、盛大にすれば王妃をどれだけ大切にしているかも分かる。

結婚式は確かに地味だったしな。あれは完全に儀式的なことだけで終わった気がする。というか、もはや覚えていない。


「そうですね。母上の言うとおりです」

見事にシャラの思惑通りになっていると思わないでもないが。

「分かってくれると思っていたわ。さすが我が息子」

シャラは満足げである。


「そうと決まればドレスを作るわよ。ユティシアちゃんは可愛らしいものが似合いそうね」

「母上が、決めるのですか?それはいくら母上といえども譲れませんね」

そう言ってユティシアを抱きしめる。

「最愛の妻のドレスなのだから」


「ふっ、まあいいわ。とことん盛大にやってもらうからね」

悪魔の笑みが見えた気がした。


あとは、ディリアスとシャラが二人で話し合っていたが、ユティシアはよく分からないので話に加われなかった。



「ユティシアちゃん、大変だ!」

突然、部屋に駆け込んできたのはゼイルだった。

「シルフィが暴走して止まらなくなった!」

今日はゼイルのお願いでシルフィを訓練に貸し出していた。アルヴィンのほうが冷静だからそちらの方がいいと思ったのだが、アルヴィンはフィーナが連れていた。フィーナは二匹を気に入って、自分の傍から離さなくなっている。


慌てて窓に駆けより訓練所を見ると、シルフィが確かに暴走していた。シルフィは気まぐれで自制がきかなくなる時がある。このまま放っておくと大変だ。

「シャラ様、これで失礼します」

ユティシアはドレスの裾を掴むと、駆け出した。



ユティシアを見送ったシャラはディリアスに向き直る。

「ねえ、あの子で本当に大丈夫?あの子…驚くほどに純粋よ」

ユティシアの心は染まっていないまっさらな状態。誰よりも人の悪意に晒されてきたのに、その心は無垢で、綺麗で、優しいまま。

「わかっている」

「あなたは…彼女の心を守りつづけられるの?」

「何が何でも守って見せますよ」

だって、ディリアスが惹かれたのは彼女の綺麗なありのままの心だから。その澄んだ瞳で、自分を見ていて欲しいと思うから。


「それに、彼女は見た目よりよほど強い心を持っています」

強い心―――それは、完璧な王妃だと言われつづけたマウラが持ち得なかったもの。…ユティシアにはそれがある。それは、厳しい環境を生き抜いてきたからなのか。ずっと不安定だった心は、守るべき存在を手に入れ、さらに強くなった。

きっと、ユティシアはマウラを超える存在になるだろう。ディリアスは、そう思っているのだ。


「そう…そこまで言うなら信じるわ」

シャラはディリアスを笑顔で見つめた。


窓から訓練所を見る。ちょうど、ユティシアがシルフィを押さえているところだった。彼女は戦いを知らないシャラさえ圧倒的だと感じる。

「心だけでなく、腕っぷしも強いみたいだけどね」

「見ていてこっちがはらはらする」

ディリアスは心配そうにユティシアを見守っている。


シャラは目をぱちぱちとさせた。

ユティシアを見つめる顔は本気で心配そうで。マウラの前でも感情を見せることは少なかったのに。…以前のディリアスはもっと淡々としていたように思う。

―――ディリアスを動かしたのは、ユティシアの存在か。


シャラはディリアスを見て、微笑んだ。


あれなら、きっと大丈夫ね。




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