王の暴走
翌日、ユティシアは一日中ディリアスに会うことは出来なかった。ディリアスに避けられているのが分かる。食事はディリアスの部屋でなく、自室にミーファとリーゼが運んで来てくれて食べた。
「昨日は、うまくいかなかったようですが、王妃様の美しさなら必ず陛下を落とせますわ!」
ミーファはそんなことを言って慰めてくれるが、ユティシアにはそんなことは耳に入らない。
ユティシアはソファに腰掛け、膝の上で丸まっているシルフィとユティシアの傍らに伏せてくつろいでいるアルヴィンを撫でる。
二匹を初めてミーファに見せた時は驚かれたが、その後は何も言わず世話もしてくれるようになった。「魔物を使役するなんて、流石王妃様です!!」なんて言って感激して、今度は二匹の服を作りましょうか、と言われたがそれは遠慮しておいた。
普通、こんな反応をしないはずだが…ミーファはどこかずれているような気がする。
ディリアスは傷ついているだろうか…昨日は自分も配慮が無さ過ぎたように思う。
自分は周りに人がいない環境で育ったため、人の気持ちを理解するということが欠けているのかもしれない。
王妃として生きていくならこの先、心理的な駆け引きなどもあるだろうに身近な人の感情も感じ取れないようではいけない。そもそもユティシアが一番支えなくてはならないディリアスの心を傷つけてどうするのだ。
ユティシアは悩むことをやめ、気分転換に部屋の外にでも出てみようかと思った。無言で部屋を出て行くユティシアに、ミーファが慌てて付き添う。シルフィとアルヴィンも後に続く。
部屋を出て歩いているとゼイルに出会った。
「ユティシアちゃん、もしかしてへーかと何かあった?」
どうして知っているのかと驚いた顔をすると、ゼイルが教えてくれた。
「執務室行ったら機嫌悪くてね、俺たちが憂さ晴らしに剣の打ち合いに付き合わされてるんだけど…」
そう言って目の前にある訓練所を見やる。
確かにそこにはディリアスがいた。ディリアスは相当荒れているようで、騎士の人たちを容赦なく打ち倒している。
「俺もさすがに止められなくってねえ…あのままじゃ、騎士団全滅してしまいそうだよ」
ゼイルが困ったように言う。
確かに、怪我を負っている者も何人もいるようだ。王には誰も逆らえないから、皆止められないでいるが、このまま放置するわけにもいかない。
「私が、止めます…私の、責任ですから」
ディリアスをあそこまで荒れさせてしまったのはユティシアの責任だ。ユティシアがどうにかするしかないだろう。
「…て、ユティシアちゃんあれをどうするつもり?」
…視線の先には次々と人の山を築いていくディリアスの姿。
「もちろん、力で押さえつけます」
ユティシアはにっこり笑うと、ディリアスの方に歩き出した。
ディリアスはユティシアの存在に気付いたようで、倒された騎士たちの中に立っているユティシアを見つめた。ユティシアは手に、細身の剣を握っていた。力のなさそうなユティシアにはぴったりだと言える。
「ユティシア…?」
「私が相手です、陛下。思う存分戦わせて差し上げます」
剣を構えるユティシアにディリアスは困惑する。ユティシアの格好はドレスで、戦闘をするような格好ではない。そもそも何故ユティシアがここにいるのか。
「いきますよ、陛下」
そう言うとユティシアは剣を振り上げディリアスに切りかかった。
次はユティシアさんの初!まともな戦闘シーンとなるかもしれません。