王女に対するそれぞれの思い
食事が終わってもユティシアとディリアスは席を立たず、お喋りをはじめる。
「一緒に食べてくれる人がいるって、いいですね」
「そうか?」
「家族で共に過ごすひと時は、ずっと憧れでした」
ユティシアには家族と食事する機会は全くなかった。師匠とは一緒に食事をとることもあったが、酒を注げだの、もっと料理を持って来いだの、一緒に食べていたといえるのか分からない。
「今度は…フィーナも一緒に三人そろって食べたいです」
その瞬間、ディリアスの表情が変わる。明らかに気分を害しているようだった。
こうなることは分かってはいたが、言わなければならない気がした。今言わなければ、二人の関係は一生変えられないと思ったから。
「フィーナの話はするな」
「どうしてです?たった一人の娘でしょう」
「それがどうした?」
ディリアスのあまりにもそっけない態度が、ユティシアには信じられなかった。
「貴方は、王である前に一人の父親であるはずです…それが本当に父親としてとるべき態度ですか!?」
ユティシアの態度にディリアスは一瞬怯む。
従順なユティシアがディリアスに反抗することなんて、今までなかった。ディリアスがユティシアをどれだけからかっても文句を言わなかったし、嫌な顔一つしなかった。ユティシアは、ディリアスの前では決して負の感情を出すことがなかった。
「フィーナは!」
ディリアスが手のひらを机に叩きつけ、声を荒げる。
「フィーナは、俺の子供ではないかもしれない…」
ディリアスの悲痛な表情を見たとたん、ユティシアは動けなくなった。そう言ったきりディリアスは部屋を出て行き、二度と戻ってくることはなかった。
一つ、気づいたことがある。彼は、決してフィーナに関心がないわけではないこと。そうでなければあんなに感情を激しく表すはずがない。ディリアスはたぶん…フィーナのことを嫌ってはいない。
だが、あの態度は不自然すぎる。フィーナを避けて、彼女に関わる事には触れないようにしている。
―――だとしたら、二人の間に何かあったのだろうか。
ユティシアはその後自室に戻った。
そろそろ寝ようと掛け布の中に潜り込んだが、眠りにつくことはなかった。
楽しい食事に水をさすような真似をしたのは、まずかったかもしれない。明日必ず謝ろう、と思った。
一方、部屋を飛び出したディリアスは廊下を歩いていた。
ユティシアに対して、つい怒鳴ってしまった。だが、自分にとって絶対に触れて欲しくないものだったのだ。
フィーナのことは、ユティシアに知られたくなかった。だから何も知らせなかった。ユティシアは部屋に閉じ込めているので、そんな話は入ってこないと思っていた。ましてや、フィーナ本人に出会うなんて、しかも仲良くしているなんて誰が想像できるだろう。
ユティシアはフィーナをとても大切にしている。フィーナに向けられる思いは、ディリアスへ向けられるもの以上かもしれない。
―――フィーナのあの緑の瞳を見るたびにマウラを思い出す。それはディリアスの心を締め付ける。もう、そんなことに縛られたくない…だから忘れようとした。ユティシアに再び出会って、すべて解放されると思った。幸せになれると思った。だが、ユティシアによって再び過去の記憶がよみがえろうとしている。
今夜は眠れないだろう…瞼を閉じれば、過去が鮮明に思い出される。夜は、マウラによって自分の心が支配されているような気さえする。
ディリアスは夜闇の中を彷徨いつづけ、朝方自室に戻った。
こんな駄文で呼んでくださって感謝しています。
二人の心は休まる時がないですね。
いつも辛い思いばかりしている気がします。
これを乗り越えれば、きっと幸せになれるはず…?