夕食
「…………」
「…………」
「………どうしたんだ、その格好は?」
「………は、い?」
唐突なディリアスの質問にユティシアは首を傾げる。彼のあまりの驚きように先ほど悩んでいたことなど忘れてしまう。
「やはり……おかしいですか?私、こういうのは着ないので…」
「いや、すごく似合っている。普段はこんな格好をしないから驚いただけだ」
「ありがとうございます」
にっこり微笑むユティシアの手を取り、ディリアスは夕食の席へと導く。ユティシアが席に着くと、ディリアスは向かいの席に座る。
こうして、二人での夕食が始まった。
「………しかし、本当に食べないのだな…」
ディリアスが呆れたように言う。ユティシアは並べられたたくさんの料理のうち、ほんの少ししか手をつけなかった。女性は男性よりも少食だというが、この量はあまりにも少なすぎるだろう。
「身体を動かさないから、お腹がすかなくて…」
「魔法師は、元々運動しないものだろう?」
魔法師は身体を動かさないせいか、肥満体型の者が多い。ユティシアのように痩せている者は稀である。
「…申し上げておりませんでしたか?私、剣も扱うのですが」
初耳だった。ゼイル以外にも両方扱える者がいるとは…。ディリアス自身、剣を扱うので興味が湧いた。
「ほう、剣を…今度ぜひ手合わせしてみたいものだな」
「ええ、こちらこそ」
ここ最近は本当に部屋に篭りっきりだったので、ユティシアは久しぶりに身体を動かす機会を得て嬉しく感じた。
騎士団での騒動があって以来、ディリアスはユティシアが出歩くことを禁止した。心配しているのは分からなくもないが、そう何度もあんな目に会うはずがない。
そうしているうちにデザートが運ばれてくる。出てきたものは、ユティシアが口にしたことがないようなものばかりだった。だが、食べる気にはならない。
「とりあえず、デザートくらいは食べろ」
「もう、お腹がいっぱ…」
「俺が食べさせてやろうか?」
ディリアスの言葉に、ユティシアは固まった。
「……ご冗談でしょう?」
「さて、どうだろうな……」
ディリアスはユティシアの隣に腰を下ろし、ユティシアのほうへ身を近づけてくる。ユティシアは身を引こうとするが、腰を掴まれてしまい逃げることができない。
ディリアスはそっとユティシアの口元へとスプーンを持っていく。
「ほら、食え」
ディリアスに逆らえないユティシアは少しためらいながらそれを口にした。甘さが口の中に広がっていく。
「…おいしいです…」
ぽつりとユティシアは呟いた。
「そうか。よかった」
こうして無理に食べさせでもしないと、ユティシアは食べないだろう。ユティシアはただでさえ華奢なのに、これ以上痩せては健康的に良くない。ユティシアの細い身体は容姿と共に儚げな印象を与える。見ているこっちは本気で心配になるのだ。
ユティシアの食生活はきちんと管理してやらないと…とさらに強く思うディリアスだった。