侍女の気持ち
フィーナは頻繁にユティシアの元へ通うようになった。今度は抜け出したわけではなく、きちんと侍女を連れてきたようだ。
…侍女の視線が痛い。
理由は分かっている。
もうユティシアが次の王妃になることは知っているのだろう。マウラを敬愛している侍女にとってこの事実は気に入らない。聡明で美しく、王妃としての役割を完璧に果たし、多くの人々から好かれていたマウラ。だが、亡きマウラに代わって王妃になったのは、悪い噂ばかりが立っているユティシアだった。納得できないのはよく分かる。
さらに、ユティシアがフィーナに近付くことも気に入らないのだろう。フィーナはマウラが亡くなって多くの侍女に愛され、大切に育てられてきた。そのフィーナの関心がユティシアの方に向いている。侍女にとっては認めたくないことだろう。
「ねえ、ユティシアは新しいおうひさまになるの?」
「…ええ」
侍女に睨みつけられ、ユティシアはためらいがちに答えた。
「じゃあ、フィーナのおかあさまになるの?」
「はい?」
「みんなが言ってたの。新しいおかあさまがきっときてくれますよ、って…」
「フィーナ、新しいおかあさまはユティシアがいい」
「姫様!!」
侍女が声を荒げてたしなめる。突然の大声にフィーナは萎縮し、ユティシアにしがみついた。
「ごめんなさい。ごめんなさい…」
涙をこぼしながら謝るフィーナを、ユティシアはその震える背中をさすりながらなだめた。
フィーナを泣かせた侍女は口に手を当て、真っ青になってフィーナを見つめている。つい感情が高ぶって大声を上げてしまったのだろうが、フィーナを泣かせたのは侍女としてまずいだろう。
「…退出してください」
ユティシアが鋭く命じると、侍女はふらふらと扉を開けると逃げるようにその場を去った。
「ほんとはね、ここに来てはだめっていわれていたの」
フィーナがポツリと呟いた。
「フィーナがわるいの。やくそくを守らなかったから」
そう言うとまた声を上げて泣き始めた。
侍女達がフィーナを可愛がっているのはよく分かる。だからフィーナは幼いなりに侍女の気持ちを理解し、それに応えようとする。しかし、それはフィーナの感情を押さえつけることになっている。
侍女たちは、自分の理想をフィーナに押し付けようとしているように思う。自分たちが気に入らないことはフィーナにさせたくない。自分の理想どおりの姫君であって欲しいから。
…だから、ユティシアにも近づけたくない。
このままではだめだ、とユティシアは思った。