亡き王妃とユティシア
「ユティ、何か欲しい物はあるか?」
ディリアスが唐突にそんな質問をしてきた。
「…陛下のおかげで何不自由なく暮らしております…」
「そうではなく、宝石とか、ドレスとか、あるだろう?」
装飾品は必要性を感じないし、ドレスもそれほど必要だとは思わない。
ユティシアはしばらく思案し、口を開いた。
「では…侍女を一人、手配して頂けませんか」
ユティシアは基本的に一人で何でも出来るが、やはり困る時がたくさんある。一人ぐらいは、いたほうがいい。
「侍女なら、いるだろう。気に入らないなら変えてやるが」
「………一人もいませんよ?」
ユティシアの言葉に、ディリアスに剣呑な雰囲気が流れ出す。
「リーゼ」
専属の侍女に声をかける。リーゼは賢く、気配りも出来るのでディリアスがよく傍に置いている侍女だ。美人で有能な人である。
「ユティシア様の評判を聞いて拒否している者がいるようですね」
「マウラの侍女が余っているだろう。それを、まわせないか?」
「マウラ様を支持する方が多く、ユティシア様は認められないそうです」
ディリアスは前髪をかきあげ、ため息をついた。
「仕事をしていない者たちは全員解雇する。それと、ユティシアに侍女を一人用意しろ」
さすがに自分の仕事をこなせない者は置いておけない。
「かしこまりました」
リーゼは頭を下げると部屋を退出した。
「風呂は、どうしていた?」
風呂の準備には労力がいる。ユティシア一人では出来ると思わない。だが、ユティシアはいつもかかさず入浴しているようだった。一体、どうやって…
「…魔法で沸かしていました」
「そういうことか…」
まさかユティシア以外にそんな使い方をする者などいないだろう。魔法は、使える者が少ないため生活に利用できるほどではない。医療や戦闘に使われるのが一般的だ。
「給仕はいるのか?」
「…いません」
「では食事はどうしていた?」
「それほど食べなくても大丈夫なので…」
「大丈夫なわけないだろう」
そう言うとディリアスはユティシアの横腹に手を入れ、ひょいと持ち上げる。
「だからこんなにも軽いのか」
「…そうですか?」
「お前は痩せすぎだ。まともな食事してなかっただろう」
…そのとおりだった。ユティシアは必要最低限の量しか食べなかった。ユティシアはよく森にいたが動物を狩るのは何となくためらってしまい、木の実や森に生える植物ばかリ口にしていた。
「今日から俺の部屋に二人分の食事を用意してくれ」
退出したリーゼにかわった別の侍女に命令じた。
「ありがとうございます。ここまでして頂いて…」
「当然のことだ」
本当ならそこまで気を回せなかったディリアスが責められるべきだ。
マウラを支持する者は、いまだ多い。美しく、聡明で王妃にふさわしいと言われ続けたマウラ。一方で、誰にも認められないユティシア。
子を為してやれば、皆ユティシアを認めざるを得ないと思う。だが、ユティシアを傷つけるような事はしたくはない。
―――二度と、マウラのようなことが起きてはならないと思うのだ。もう、あんな思いはしたくはない。




