新たな住人
「陛下、これを飼ってはいけませんか?」
ユティシアが手に抱えているのは二匹の生き物。ふわふわとした毛が可愛らしい。
…騎士団を出た辺りから厚いコートの中に隠していたのはこいつらか。城に帰るまでの間も、ユティシアの周りをうろちょろしていた。
というか、昨日は一日こいつらがユティシアの部屋にいたのか。まさか、ユティシアが昨日ディリアスの部屋を訪れたのはこいつらを隠すためでは…。
昨日の話の後、ユティシアは疲れたのかディリアスの寝台で眠ってしまった。朝目を覚ますと、頭を下げて謝られた。ディリアスが怒ってない、と言っても頭を下げ続けた。…というか、可愛かったのに。
「きちんと自分でお世話もしますし…」
「………」
「この子達はいい子だから悪いことはしませんよ」
「………」
「陛下に、ご迷惑はかけません」
「……だが、それは魔物だろう」
ユティシアが抱えているのは二匹の生き物――否、魔物。一見、猫に見えるが背中には翼がついていて、動物ではない。
「皆が大騒ぎするからやめてくれ」
ディリアスが頭を抱えて言った。
……人間の天敵とも言える魔物を城内で飼うなど、正気の沙汰ではない。
とたんにユティシアはしゅんとなる。
「せっかく、この子達を使って対魔物用の戦闘を学べばいいと思ったのですが…」
「許可しよう」
魔物は最近増えつつある。討伐は“光の盾”に任せればいいと言っても、国が払える依頼料には限界がある。国家騎士団を強化しようか、と悩んでいたところだ。対魔物用の戦闘を学べば、自分達で魔物を駆逐できるようになる。
また、ディリアス自身も魔物に対抗できる剣技を身につけたいと思っていた。剣だけで戦えば満足できる相手などいなかったし、魔法は使われると全く敵わない。正直、調度良い修練の相手がいなかった。
それに、魔物の動きを先読みできるという魔眼の能力を使えるようになるかもしれない。ディスタール王家では代々魔眼が受け継がれているが、完璧にその能力を操れるようになった者など聞いたことがない。魔眼の能力習得には、多くの実践が必要だ。
魔物の能力は多種多様で、実践によって培わなければ学べないことも多い。だが、魔物を手元に置けばそれを城にいながら危険を伴うことなく学べる。悪いことではないはずだ。
「では、紹介します。まず、こちらがシルフィ」
ユティシアの左腕に頭をのせてくつろいでいるのは、金色の毛並みを持つ魔物。翠の瞳が宝石のようで美しい。
「それで、こちらがアルヴィンです」
もう一匹はしなやかな体躯を持つ黒毛の魔物。蒼の瞳をしている。
「人を傷付けることは、ないだろうな?」
「絶対にないですよ」
生き物が相手を傷つけるのは、その存在が自分の脅威になり得る時である。二匹に対抗できる力を有す存在はほとんどいない。人間など歯牙にもかけない。
普通の魔物は人間を襲うが、ユティシアのしつけにより二匹にとって人間は捕食対象から外れている。
「でも、戦い以外で魔眼の使用は避けてください」
魔眼は魔物にとって天敵である。二匹も魔眼を使用されるのは嫌がるはずだ。
「そうか。これからよろしく頼むぞ」
ディリアスは二匹の頭を撫でた。
ユティシアの部屋に新しく可愛らしい住人が加わった。
シリアス展開(?)脱出いたしました。