魔法
「ところで、いつまでそのままでいるんだ?」
ユティシアは謁見を終え、国王ディリアスによって王妃の間に強制的に連れて行かれ、お茶をしていたところだった。
…気付かれているとは思わなかった。ユティシアは自身に魔法をかけていた。
――自らの姿を変える術を。
しかし、姿を変えていたのは師匠の借金の取り立てから逃げるため、という情けない理由で行っていたことであったため、元に戻しても問題ないと思う。
師匠はかなりの浪費家で、毎日莫大なお金を使っていた……お酒と女性のために。仕事の報酬を考えれば使いきれる額ではないはずなのに、借金は増えていく一方だった。
弟子になりたての頃は、借金取りに追いかけられるたびに師匠から「お前の容姿が目立つんだよ」などとよく言われた。おそらく母譲りの銀髪のせいだろう。正直、女性キラーと呼ばれる師匠のほうがよほど目立っていたのだが。
ユティシアは自身の体に手をかざし、魔法を解いた。辺りがきらきらと輝き、元の姿に戻った。
「ほう…」
ディリアスはおもわず感嘆の声を漏らす。
元の姿に戻ったユティシアは美しかった。今まで見てきた美女達が色褪せてしまうほどユティシアの容貌は並外れたものだった。可憐という言葉がよく似合う、美しさの中にどこか愛らしさのある顔立ち。すっきりとした鼻梁、澄みきった水色の瞳を彩る長いまつげ。腰より長い、輝きを持った銀の髪が揺れている。華奢な体躯はどこか儚げに見える。
「美しいな」
ディリアスはユティシアの顎に手をかけ、こちらを見つめてきた。
「陛下の容姿で言われても嬉しくないです」
ユティシアは顎にかかった手から逃れてふい、とそっぽを向いた。