決意
そろそろ休もうかと思い寝室にいると、ドアの向こうで物音がした。ディリアスは不審に思いドアを開けると、ユティシアが立っていた。
「あの…お話したいことが…」
「とりあえず入れ」
そう言ってユティシアを寝室に招き入れ、座るよう促すとユティシアは寝台に腰をおろし、口を開く。
「あの…私、触れられるのは嫌ではないです」
「本当か?」
ユティシアがためらいがちにディリアスの背中に手を回し、ぎゅ、と抱きついた。
「温かい…こうしていると、お兄様を思い出します」
兄はいつもこうしてユティシアを抱きしめてくれた。兄がしてくれるその行為にいつも安堵していた気がする。
「私、愛情というものを認めるのが怖かったのだと思います」
知らないままでいた方がいい、と思っていたのだと思う。
「おそらく、父が私をここに嫁がせた理由は…二つ。一つ目は悪意から私を解放するため」
父がユティシアを離宮に閉じ込めていたのは、母を傷つけたユティシアを許せなかったからではなかった。ユティシアを国に蔓延っている悪意から遠ざけるため。
父は父なりにユティシアを心配していたのだと思う。だからこそ、遠い異国の地へと幼かったユティシアを送り出すことを決めた。
「そして、二つ目は…私を生き延びさせるため」
母は先読みの術を得意とする魔法師だった。おそらく、母はあらかじめ国にこれから起こることを予言していた。父と母はそれを知った上でユティシアをディスタール国へと逃がしたのだ。王族としてでなく、一人の親として娘を生き延びさせることを決断した。
だが、ユティシアはそれを認めることは出来なかった。
…認めてしまえば、何故自分だけ生き残ってしまったのかと自分を責める一方で。父と母が自分を嫌いだった故に他国へ追い出したのだと思う方がずっと楽だった。
ユティシアは、愛情は認めることが出来なくても、国のことを何も知らなかった自分を許せなかった。自分は所詮安全なところに囲われていただけだった、という事実を恥じた。
ユティシアは、他国からの侵攻を食い止めた国を出た後ティシャールに関する情報を集めつづけた。ディリアスによって連れ戻されたことによりそれは出来なくなってしまったが。
「陛下は、何も知らないで私が傷つくのは嫌だとおっしゃいました。私も、同じです。もう、自分の無知によって後悔したくないのです」
ユティシアはこぶしを強く握り締める。
「王妃になるか?お前に世界を見せてやる」
ディリアスはユティシアの瞳をしっかりと見つめ、もう一度問う。
「王妃になる覚悟はあるか?」
ユティシアは強く頷いた。その目は強く輝いていた。
もう、大丈夫だと思った。彼女は自分で一歩を踏み出した。もう、彼女が、彼女の心が崩れることはない。
翌日、ディリアスは側妃ユティシアを王妃に据えることを正式に発表した。
最近忙しくて毎日更新することが難しくなってきましたので、更新のペースが遅くなると思います。