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ユティシアとディリアスは湖から町へ戻っていた。

「せっかくだから、少し町を見て帰るか」

ディリアスの提案に、ユティシアは目を輝かせる。

「よろしいのですか?」

ディリアスは笑みをこぼしながら頷いた。


ユティシアは自分とディリアスに見た目が地味になるように魔法をかける。


「ユティ、町中で不自然な敬語使うなよ」

「大丈夫ですよ」


ユティシアはそう言って歩き出す。町はたくさんの市で賑わっている。ユティシアは周りをきょろきょろと見渡しながら目当ての物を探す。

「あの、陛――」

言葉を発しかけて、ディリアスに口を押さえられる。

ユティシアはむっとしかけて気付いた。…陛下と呼ぶのはまずい。それでは変装している意味がなくなってしまう。


「愛称で呼べ。許す」

ディリアスが耳元で囁いた。


ユティシアはしばし悩んだ後―――

「行きましょう、ディー」

ユティシアはディリアスの服の袖を引きながらにっこりと笑みを浮かべる。


ディリアスは無言で固まっている。

「どうしたのですか、ディー?」

「気にするな、行くぞ」

ディリアスがユティシアの手を強引に掴み歩き出した。


…さっきのはまずかった。袖を引かれ、名を呼ばれたことなど今までなかった。あんなに可愛いと、理性を失いそうになる。


二人は色々な物を見て回った。武器や異国の珍しい装飾品、普段は見られないものばかりで、ついたくさんの買い物をしてしまった。


二人は十分に市を堪能し、城の方へと足を進めていた。


「ありがとうございました。今日は、楽しかったです」

ユティシアは満面の笑みでディリアスに行った。


「…そんな顔も、できるじゃないか」

「?」

「自然に笑えるんだな。今の笑顔は、最高に綺麗だ」

ユティシアの偽りの笑みでなく、心からの笑みを浮かべるところを見ることができた。自分を縛る鎖から解放されたユティシアを見ると、嬉しくなった。


「自分を偽るな。自分を押し殺さず、自分の意志をはっきり言え」

「偽ってなど…」

ディリアスはユティシアの髪に触れ、梳き始める。ユティシアがぴくり、と身じろく。

「ほら、こういう事されるのは嫌なのだろう?」


そうだった。ユティシアは人に触れられるのは嫌いだ。嫌いと言うか…今まで自分に触れようとしてくる者のほとんどが、ユティシアを狙う敵だったため自然に身構えてしまう。


「ユティは、人に触れられる時、怯えている」

最初はディリアスもユティシアが嫌がるのを見てからかっていただけだった。しかし、それが嫌悪でなく、怯えだと知ったのはいつだっただろうか。ディリアスは触れるのを控えようと思ったが、いつか慣れてくれるのではないかと期待して結局やめなかった。


「今まですまなかったな。もうしない」

ユティシアが嫌がることは、できるだけしたくない。

ユティシアが何か言いかけたのが見えたが、ディリアスは身を翻して城へと足を向ける。


「帰ろう、ユティ」

「はい」


―――ユティシアは初めて城が「帰る」場所だと思えた。



昨日は更新しなくてごめんなさい。埋め合わせはそのうちします。

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