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ディリアスはどこかから馬を調達してくると、ユティシアをその上に乗せた。前にユティシアが乗り、後ろでディリアスが手綱を握っている。


ユティシアは背中にディリアスの体温を感じながら周りの景色を眺めていた。

…ディリアスは怒っているのだろうか。いつも自分は彼を怒らせてばかりだ。今回もまたディリアスの手を煩わせてしまった。後できちんと謝ろう、と思った。


ディリアスは前に座っているユティシアを見つめていた。視線を少し落とすと、銀の髪がふわふわと波打っていて思わず触れたくなってしまう。しかし手綱を握っているため、できない。

ユティシアは今、何を思っているだろうか。騎士団を罷免された時、ユティシアは絶望に打ちひしがれたような顔をしていた。彼女は、またディリアスの前で気持ちを押し殺しているのかと思うと、悲しい。



二人は町のはずれの森にある湖に到着した。

「お前に、見せたかったんだ」

「綺麗ですね」

ユティシアが感嘆の声をあげる。


「お前の瞳と同じ色だ」

ディリアスはユティシアの頬に手を添え、その瞳を覗き込んだ。

ユティシアの瞳はきらきらと輝く澄みきった綺麗な水を連想させる。しかし同時に、その瞳は湖を思わせる。彼女の瞳は見つめていると引き込まれそうになるほど深い。中を覗き込もうとしても底は見えない。それは、なかなか感情を見せない彼女の複雑な心そのものだった。



「ユティシア、なぜ言わなかった。騎士団で処罰される可能性があると」

ディリアスは真摯な瞳でユティシアを見据えた。


ユティシアはその瞳から目を逸らすように俯いた。

やはり、怒っている。当然だ。ここまで手を煩わせてしまって。自分のせいで、ディリアスに謝罪までさせてしまった。


「これからは面倒をかけないように…」

「違う。どうしてユティは一人で抱え込むんだ。周りのものがどれだけ心配するか分かっているのか!?」

ディリアスは言い切って一息つく。

「騎士団の者だってユティのことを心配していた」

「…………」

「人は、何も言われないままだとそれ以上そのことに深入りできない」

「………」

「もう、何も知らずにユティが傷つくのは嫌なんだ」

ディリアスがユティシアを抱きしめる。


……ああ、彼も私と同じなのだ。


ユティシアは初めてディリアスが自分と「近い」と思えた。

何も知らずに何かを失っていくのは怖い。自分だけ安全なところで何も知らされずにいるのは、嫌だ。その間に知らないところで何かが壊れていくのかと思うと、不安でたまらない。

ユティシアは幼い頃いつもそうだった。ユティシアが王宮で自分の悪口を言われた時、母はいつも「何も知らないでいいのよ」と悲しそうな顔をしながらユティシアの耳を塞いだ。

ユティシアは何も知ることなく育った。家族のことも、国のことも。結局、ユティシアは家族を失い、帰る国を失った。


ユティシアはディリアスが同じ考えを持っていると知って驚いた。彼とは絶対価値観が合わないと思っていたし、自分の気持ちを分かってくれる事もないと思っていた。

ようやく彼に国王と言う身分を通して壁を作っていたことに気付いた。


ユティシアは初めて彼を知りたいと思った。国王ではなく、ディリアスとして彼を知りたい。


「そういえば、陛下って何歳ですか?」

唐突なユティシアの質問にディリアスがひるむ。

「今さらだな。…21だ」

ディリアスが苦笑しながら答える。


その影がふとユティシアの知っている人に重なった。

母国ティシャールでユティシアの味方でいてくれた人。あの時のユティシアにとって、唯一の大切な人。ユティシアの、たった一人の兄だった。たしか、あの人はディリアスと同い年くらいだった気がする。

彼はユティシアの身に危険が迫ると、どんな時でも駆けつけて来てくれた。…騎士団でのディリアスのように。


……いつの間にかユティシアのディリアスに対する壁はほとんど消えていた。心に重くのしかかっていたものが軽くなった気がした。


「5歳も年上では不服か?」

「…いえ、頼りにしております」

ユティシアは自然に笑顔がこぼれた。



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