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ユティシアは男にいたぶられ続けていた。身体は痛めつけられ、もう指一本動かす余力さえなくなっていた。額には汗が浮かび、苦悶の表情を浮かべながら攻撃に耐えていた。

幸い、男がユティシアにつけた魔具は攻撃魔法を封じる物であったため、ユティシアは防御魔法によって男の攻撃を緩和する。


周りにいた男達はあまりの非道さに、呆然とユティシアをいたぶる男を見つめている。見ていられなくなって、目を逸らす者も数名いた。


ユティシアは意識が朦朧としながらも、男を見つめ続ける。


―――男は狂っていた。

「次はどこを傷つけて欲しいんだ?」

男がユティシアの顎に剣先をあて、猫なで声で聞いてくる。


この男、いくら何でもここまでする男ではなかった。一応騎士団としての自覚はあるため、人道に反するほど残虐な行為は行わない。

―――もしかしてこの男…


「ユティシア!」

突然扉が開かれたかと思うと、ディリアスが飛び出してきた。その後ろにはリンと騎士団の皆が続く。


ディリアスはユティシアと男の間に滑り込むと、男と剣を交える。男は突然の攻撃に驚き、剣を取り落とす。

その間に騎士団の者達がユティシアの鎖を外し、手当てを行ってくれた。


「あなた、騎士団内での私刑は禁止されているはずよ」

リンが言うが男は反撃のためにまた剣に手を伸ばそうとする。リンはその剣を男の手が届く前に拾い、後ろに投げる。

「今すぐやめないと、罪は重くなるわよ」

「うるせえ!」

男がリンに殴りかかろうとするがディリアスに阻まれる。


「そのまま押さえといて!!」

ユティシアが叫び、人の手を借りながらよろよろと立ち上がった。

ディリアスは言うとおりに男を押さえつけ、動けなくする。


ユティシアは魔法を唱えると、男の周りに黒い靄がかかり始めた。

「やっぱり…」

やはり、この男は魔に憑かれている。


魔、とは魔物の恨みや怒りの念から生まれるものである。魔は、人の心に入り込み、負の感情を膨らませる。一説によると、魔物の負の念と共鳴してしまうからであるらしい。

そのため騎士団では初めて魔物の討伐に行く時、魔にとらわれないよう訓練が行われる。

この男はこの間魔物の討伐に行ったと聞いた。つまり、倒した魔物の魔に取り付かれたのだろう。普通、上級ともなればこんなことは起きない。余裕がないほどにユティシアへの負の感情が膨らんでいたのか。


ユティシアは再び男に向かって魔法を発動させた。

「払え」

呪文の最後に発した言葉がきっかけとなり、魔法が男に降りかかる。


普通、わずかな魔であれば放っておけば薄れていくのだが、この男は上級な魔物の濃い魔が漂っている。あまり魔に侵されすぎると精神が破綻する。

自業自得だから放っておきたかったのだが、そうもいかないので完全に男の中から魔を取り除いてやった。


先ほどまでディリアスに押さえつけられ抵抗していた男は暴れるのをやめ、呆然と周りを見渡している。ディリアスは男を放して離れた。


「というわけで、この人のことは許してあげてください」

ユティシアは力なく微笑んだ。


上級の実力を持つ男は騎士団にとって重要な人材である。こんなかたちで失うわけにはいかないだろう。



その後、男は魔に侵されていたという理由で罪を問われずに済んだ。しかし、魔に侵されたのは力不足だとして、上級から降格させられてしまったのだとか。


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